推し、憂う。✿第7回|実咲
行成の登場は1シーンでも嬉しいものです。
第8話での登場は、第7話で行われた打毬の会を行成が欠席していたことについて、おなじみの道長たちで話をしているシーン。
やはりドラマの中の設定で彼は体育会系ではない模様。
もしかして、「行きたくないな……」と思っていたら本当に胃痛にでもなってしまったのでしょうか。
さて、今回は政治的にもなんともドロドロした様相になってきたお話でした。
この先に待つはずの出来事を知っている私としては、ハラハラドキドキしております。
行成の身の振り方も、そろそろ気になりはじめているところです。
なんとなく危うい空気が漂ってきています。
この第8話、なぜこんなにも険悪な空気が漂っているのでしょうか。
それにはまず、主要な登場人物たちがどれくらい偉いのか、確認する必要があります。
当時の出世レースは、年功序列と生まれた家と宮中の状況とが絡み合うものでした。
第8話の時点では、宮中トップスリーは下記のようになっています。
第1位:太政大臣・関白 藤原頼忠(公任、円融天皇中宮藤原遵子の父)
第2位:左大臣 源雅信(倫子の父)
第3位:右大臣 藤原兼家(道隆、詮子、道兼、道長の父)
官職に左右が付いている場合、左の方が偉いのです。
太政大臣がトップなのですが名誉職なところもあり、常に任じられているわけではありません。
実質的には左大臣が一番で、右大臣がそれを補佐するような役割です。
後世、源実朝(鎌倉幕府三代将軍)や織田信長が任じられた右大臣はこの位置になります。
その下に続くのが、内大臣(こちらも常設の官職ではないため現段階では不在)と大納言です。
作中の登場人物では、藤原為光(斉信、忯子の父)が現在の大納言。
大納言の下が権大納言となり、さらにその下に中納言を挟みます。第8話で緊急大出世をした藤原義懐は権中納言になったところでした。
この権中納言には、行成の祖父源保光も在任中です。
中納言というのは、中国では「黄門」と呼ばれていて、時代劇ではお馴染みの「水戸黄門」は、モデルになった徳川(水戸)光圀の官職が権中納言だったことに由来します。
この下に参議という役職があり、公任がここに任じられています。
ちなみに、参議の中国風の呼び方が「宰相」です。
太政大臣、左大臣、右大臣、内大臣、大納言、中納言、参議。
ここまでのメンバーが「議政官」と呼ばれる偉い人たちで、いわば国会議員のような立ち位置になります。
太政大臣、左大臣、右大臣あたりまでが、いまの内閣総理大臣といったポジションです。
「光る君へ」の中で、黒い衣を着て会議をしているシーンのメンバーが、この人たち。
あの会議は「陣定」と言って、政務についてあれこれ話し合う場です。
ちなみに、位が下の物から順番に意見を述べるルールとなっています。
ここで決まったことを、蔵人(天皇の秘書官/現在の作中では道兼や為時、長官が蔵人頭の実資)が天皇や摂政・関白にお伺いをすることになります。
第8話では、右大臣の兼家が病に倒れてしまいました。
そこで焦る長男道隆ですが、彼が焦っているのには自分がまだこの参議の一つ下の段階である「三位中将(警備を担当する近衛府の次官)」だからです。
この段階では兼家に倒れられてしまったら、政治を動かせる場所に右大臣家の人間がいないので大変にまずいのです。
さてこれまでの頻出単語である、「摂政」と「関白」というのは、上記のランキングには出てきません。
これは、この二つの役職が「令外官」という本来の法律には記載されていないものだからです。
当時の日本の法律は、ベースが中国の唐から入ってきたものでした。
その後、日本の状況に合わせて新しい官職がうまれていきました。
実資の任じられている「蔵人頭」や、後に幕府の将軍が任じられる「征夷大将軍」も令外官。
また、源義経のことを「九郎判官」と呼びますが、これは任じられた「検非違使少尉」という役職に由来し、「検非違使庁(京都の市中の警察的役割)」の「四等官(判官)」という意味です。この検非違使も令外官です。
令外官とは、つまり日本の実情に合わせて折々につくられた、日本オリジナルのポジションなのです。
「摂政」と「関白」は、日本史の時間に出てくる単語ですが、どちらがどう違うのかと困った人も多いのではないでしょうか。
実はこの二つは、分かりやすい言葉が元になっています。
摂政とは「政(まつりごと)を摂(と)る」、関白とは「関(あずか)り白(もう)す」という意味なのです。
摂政は、天皇が幼少など自分では政治を行えない場合に置かれるものです。
天皇に代わって、政治をするので「摂政」と言います。
関白は、天皇が成人している場合に、政治の助言をする役職です。
そのため、「白す」という言葉になっています。
後世、豊臣秀吉が関白になっていたのは、当時の天皇が成人していたからです。
第8話の中で、権中納言になった義懐が「書類を自分が確認する」と言って皆が反発します。
これは「内覧」と言って、天皇が見るべき書類を先に確認する役目のこと。
これは摂政・関白が任じられることがほとんどと言っていい重要な役職で、ほぼ最高権力者とイコールと言ってもいい者に与えられる役目になります。
納言クラスでも任じられる例はありますが、現在実際に関白である頼忠や左右大臣にとってみればただならぬ事態です。
権中納言の義懐が、花山天皇に血縁が近いのをいいことに、我が物顔だということがここからよく分かります。
実に第8話の状況は、なんとも暗雲立ち込める不協和音が聞こえていることがお分かりいただけたでしょうか。
行成は登場人物の中ではまだ年若く、やっと貴族社会に足を踏み入れたところです。
この荒波に揉まれて、どうなってしまうのかハラハラドキドキです。
行成役の渡辺大知さんの新たなインタビューも公開されました!
道長、公任、斉信達より少し年下の行成。
少し後ろから状況を伺い気を配り、これから先の政治状況を見て行成は何を考えてどんな行動を取るのでしょうか。
この一触即発なヒリヒリした展開、はたして宮中はどうなってしまうのか?
待て次週!!