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大好評『タロットの美術史』シリーズより、「巻末特別寄稿」の一部を特別公開!|4巻

大好評『タロットの美術史』シリーズより、
「巻末特別寄稿」(2巻~12巻に収載)の一部を特別公開!
超豪華ゲスト陣による本書でしか読めない
タロットにまつわるエッセイです。

4巻 恋人・戦車

■4巻 恋人・戦車

寄稿者:石井ゆかり

(ライター)

◆対称にならぶ、ふたつの「自己」◆

 侍の娘が男を見染めて恋煩いをするなどとは不孝ものめ、たとえ一人の娘でも手打ちにするところだ」――三遊亭円朝作『牡丹燈籠』の一節である。
 武士の相川新五兵衛は、恋煩いで寝込んだ一人娘のお徳を難じる。誰といちゃついていたとか、誰と出歩いていたとか、そういうことではない。お徳はただ、遠くから一人の若者・孝助を見て恋に落ち、その恋心のために病を得て寝込んでしまっただけなのだ。不品行なことは何もしていない。声すらかけていない。なのに、彼女は親になじられている。恋愛感情を持つこと自体が「親不孝」だと言われているのだ。
 しかし、彼女は父に言い負かされない。自分はかの孝助殿に、見てくれなんかで惚れたのではない。あの人は主に忠義のひとである。忠義のひとは親孝行なものである。自分は父に恩義を受けているが、我が父は僅か百俵二人扶持、ちょっとしたところから跡継ぎに養子をもらえば、父の立場は相対的に弱くなり、肩身の狭い思いをさせることだろう。その点、身分は低くとも志の正しい人、孝助のような人を夫にしたい。つまりは自分の恋煩いは、親孝行のためである、と反論するのである。父はこの反論に納得し、孝助の主のもとに交渉に出向くのだった。

 特にウェイト゠スミス版に限って言えば、「恋人」と「戦車」のカードは、似ている。どこが似ているかというと、生き物がシンメトリックに並んでいるのである。この特徴は他のカードでは、「悪魔」や「月」にも当てはまる。生き物がふたつ並んでいるこれらのカードには、不思議な共通点がある。「意志や理性ではどうにもならないこと」が含まれているのだ。恋愛感情、闘争心、欲望、感情全般、深層心理。これらのことは、人間がどんなに立派な意志を持ち、理性を備えていても、時に打ち勝ち難い。場合によっては圧倒的な力で人間を振り回し、破滅させることさえある。
 しかしその一方で、人間は…………

【この続きはぜひ本書で!】