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はじめに
「ホームレス」と聞いてどのように感じるだろうか。イメージできない、未知の世界だと思うかもしれない。そもそも自分とは関係ない? ホームレスという言葉はよく聞いても、その暮らしについてはあまり知られていないのではないか。
なぜ家を出てホームレスの暮らしをしているのか? この質問をわたしは何度も投げかけられる。これに答えるのは難しい。家を出る前の嫌なことや苦しかった記憶の中から、さてどれを選ぼうか、とあれこれ思いださなければならないからだ。
そこでわたしはこう答えるようにしている。こっちの生活のほうが可能性があるからだ、と。ホームレスの暮らしがユートピアなわけではなく、嫌なこともたくさん起こるけど、なんというか、ホームレスでいることで、大事なものを手放さなくていいような気がするのだ。
つまりわたしにとっては、ホームレスでいることがホームのようなこと。
ほかのホームレスは、しかたなくホームレスになっているけど、あなたはホームレスでいることを選んだのではないの?という質問も多い。そうですよ、わたしは自分で決めたよ、と答えてみる。しかたなく、というのは、むしろ前の暮らしのほうが当てはまる言葉だ。しかたなく働いて、しかたなく人と競争して、しかたなく家賃を払って、しかたなく生きていた。屋根があり、トイレ、水道、ガス、電気があるという点で便利だったが、その暮らしを維持することは簡単なことではなかったし、ほかに何かもっと豊かな暮らし方があるのではないかと感じていた。
「標準」「普通」とされている暮らしの中には、さまざまなしきたりや制度が組みこまれている。家に属し、学校に通い、働いて、何をめざして生きていくのかにも。でも、属するべきとされている「ホーム」「標準」「普通」に収まらなくて、ホームレスでいたいことってあるのではないか。自分の中の、孤独で、切なくて、やるせなく、どこにも収まらないことは、自分でも見えないことにしていたりする。
そういった自分の気持ちをないことにしないでほしい。自分の中のホームレスなことが、一時的な衝動ではなく、なにか大事なものを求める気持ちだとわかったとき、それは自由につながるかもしれない。そして、「ホーム」を出て、ほかの「ホームレス」たちとつながったとき、お互いの自由を実現していけるかもしれない。
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