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特典本ができました!①

 創業130周年記念朗読劇の特典本が完成しました〜!!
 2冊とも、とてもいい仕上がりです!

DEKITAYO~~~~!!!

 特典2冊セットのうち、今回は、創元社版初版『夫婦善哉』簡易復刻本をご紹介します。

 初版の装画を今回の復刻版に合わせて微調整していただいた、背や表4(裏表紙)もいい感じです!

表4(裏表紙)

 大阪が誇る小説家・織田作之助の代表作にして初の単行本でもある『夫婦善哉』初版は、1940年に創元社から刊行されました。
 初の著書が刊行されたときのオダサクの喜びようは、大谷晃一による創元社創業100周年記念社史『ある出版人の肖像』にはこう書かれています。

 そこ〔靭上通から西区新町南通一丁目へ引っ越した創元社の新社屋〕へ、やせて背の高い、肩をいからせた若い男がやってくる。二十八歳の織田作之助である。
「風呂屋の上か」
と、彼はにやりとした。気に入った。
 この〔1940年〕六月に、作之助の短編『夫婦善哉』が改造社の文芸推薦を受けた。大阪上汐町の裏長屋に育ち、第三高等学校、のちの京大教養部を追われ、肺患に苦しみ、ようやく世に出ることができた。
 短編五編を収めて第一作品集『夫婦善哉』を創元社から出版することになった。東京で決まっていたのを、
「大阪の作家が大阪を描いたもんや、大阪で出すべきや」
と、先輩の藤沢桓夫が口をきいて、創元社へ持ってきた。
「よかったな、創元社は日本一や」
 友人の杉山平一が喜んでくれた。作之助はひどくうれしがる。
 この本は八月十五日に発行された。新町南通を住所にした最初のものである。作之助は著者本を受け取ると、日本橋筋二丁目にいる姉の竹中タツに見せに走った。
「姉(ねえ)、僕の本がでけましてン。まだ発売してへん、ぬくぬくでっせエ」
 懐ろから取り出した本をタツが見ると、法善寺境内の夫婦ぜんざい屋を田村孝之介が描いた表紙である。この洋画家は靭に住んだ。めくると、ぜんざい屋の店先に飾られたお多福人形。両親を早く失った作之助に、学費の工面や面倒をみてきたタツは、目頭が熱くなった。
「大阪中の本屋を回ったんや、難波の波屋できのうからこんだけ減っとったでエ」
と、作之助は毎日のように本の売れ行きをタツに報告にきた。

大谷晃一『ある出版人の肖像――矢部良策と創元社』1988年、146-147頁。〔 〕は筆者による

 オダサクの浮かれっぷり、かわいいですね。初めての作品集が出版されたのですから、無理もないでしょう。
 しかし、『夫婦善哉』は刊行直後に検閲にひっかかり、数ページを切り取った状態で普及しました(切り取って売るっていうのも今から考えたらすごい話ですけど)。今回の復刻本は、検閲前のわずかな期間に出回った、切り取りのない完全版をもとに製作しています。
 さらに、簡易復刻とはいえ、カラーの扉や著者検印、巻末の広告ページなども収録し、織田作之助が手にとり大いに喜んでくれた当時のままの雰囲気を、できるかぎり忠実に再現しています。

ぜんざい屋の店先に飾られたお多福人形」をあしらった扉絵
織田作之助の検印と、新社屋の所在地が確認できる奥付
当時の巻末広告。創元社、こういう本も出してました

 ちなみに、初版『夫婦善哉』で検閲にひっかかったのは、次のようなところだったそうです。

 そのころ、本ができ上がると大阪府警察部と所轄の警察署へ一冊ずつ納本していた。と、検閲部から呼び出しがきた。田代〔当時の創元社社員〕が出頭する。『夫婦善哉』の件である。
「この時節に何事だ。けしからん』
と、頭から叱り飛ばされる。風俗を乱すという。『放浪』の一節を指し、
「天王寺公園で猫いらず〔殺鼠剤〕を飲んで自殺するなんて、きょうび許されると思うか」
机をたたかれて、田代はほうほうの態で帰社した。
「何んでこんなとこ削らなあかんのや」
良策〔創元社の創業者、矢部良策〕は呆れたが、どうしようもない。結局、次の五ヵ所を削除して許してもらう。
〈生れてはじめて親切にされるという喜びに骨までうずいた〉
〈夏、寝苦しい夜、軽部の乱暴が瞼に重くちらついた。……転寝(うたたね)しているお君の肢態に、狂わしいほど空しく胸を燃やしていたが、〉
〈抗ったが、何故か体が脆かった〉
〈口に泡をためてみだらな話をした〉
〈……と接吻した。女めいた口臭をかぎながら〉
 こういう表現が許されぬ世の中であった。

大谷晃一、前掲書、147-148頁。〔 〕は筆者による

 まさに「何んでこんなとこ削らなあかんのや」って感じですが、今回の簡易復刻版では、これらの箇所を含むページもバッチリ収録されています。

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【本書の概要】
織田作之助の代表作にして初の単行本『夫婦善哉』の創元社初版(1940年刊)を、デジタルスキャンで装丁・版面もそのままに復刻しました!
刊行直後、当時の社長をして「何んでこんなとこ削らなあかんのや」と言わしめた検閲により、数ページ断裁のうえ普及した本書ですが、今回は検閲前の無修正版を底本に製作しています。

収録内容:
『夫婦善哉』
『放浪』
『俗臭』
『雨』
『探し人』

四六判・並製・258頁
定価2,200円(税込)

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 特典本は後日、創元社ホームページなどでの販売も予定しておりますが、最も早く入手できるのは、2022年9月25日の創元社創業130周年記念朗読劇イベントです。イベントでは織田作之助を主人公にしたオリジナル脚本を、速水奨さん、木島隆一さん、堀江瞬さん、そして追加出演の決まった今井文也さんら人気声優陣が演じます。美しい声が紡ぐ物語を、サックス奏者の佐々木晴志郎さんが生演奏で彩ります。
 しかも、特典本は各定価2,200円のところ、2冊セットで実質2,500円で入手できてしまうオトクな特典付チケットもご用意しております。
 ご都合つかれる方はぜひ、会場にお運びいただければ幸いです!

創元社130周年記念朗読劇『フォアレーゼン 無頼 ~大大阪下のいちびり――人呼んで「オダサク」』公演詳細&チケット購入は → こちら

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