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エッセイ『ゼリー職人』

 2023年の8月26日。俺は「ゼリー職人」になった。

 5月に部活動を引退し、唐突に生まれた余暇時間を初めはかなり堪能していた。しかし、だんだんとこう…日に日に力が抜けていく感覚があった。部活動をしていた頃は、時間と体力をガッツリ奪われ、苦しい経験も多かった。しかしその分、毎日活力に溢れていたように思う。練習で流す汗は、心の毒素が流れ出るみたいに心地よかった。生きがい。今思えば、そういう類ものだと思う。
「今の俺って、精神的に死んでいっとる…?」
そんな気持ちになっていった。焦燥感が全身に走る。

「今のままやったらヤバい…」

そう思い、何かを始めることにした。そして至った結論は【30日分、ゼリーを作り続ける」ことだった。

 突拍子もないと思われるこのアイデアだが、案外私なりに筋の通った理由がある。まず、もともと料理が好きだということ。小学2年生から俺の料理ライフは始まり、今でもよく家族に振る舞う。料理は普段から楽しいと思えているから、何か始めるには良い取っ掛かりだと考えた。次に、当時読んでいた小説のキャラがゼリー作りを楽しんでいたこと。そのキャラはどうすればゼリーがより美味しくなるか、試行錯誤し、楽しんでいた。その姿がちょっぴり羨ましくなったのだ。最後に、部活動でかつて味わった爽快感を味わえそうだということ。俺は部活動で大会に勝つという目標を立て、そこに向かって努力することに喜びを噛み締めていた。どうせゼリー作りをするなら、そういった真剣さも大切だと思い、「30日分作る」という自身への『約束』事を設けた。

 ただし、こんなことを一人の意志でやりきれる自信は微塵もなかった。だから、俺は「ゼリー職人」になった。「ゼリー職人」とは、俺のインスタグラムのアカウント名である。俺は「ゼリー職人」をインスタグラム上で名乗り、家族とありったけの友人にフォロワーになってもらった。そして、30日分ゼリーを作り続けることを『約束』した。

 さて、『約束』したからにはやらねばなるまい。さっそく1日目。アップルジュースでゼリーを作った。ゼラチンをお湯で溶かし、さらにジュースを混ぜる。よく混ざったら冷やし固め、完成。「さて、どんなもんや」と口に入れる…うん、不味い。だいぶ美味しくない。カッチカチで、味が薄い。しかし、ワクワクの予感がふとよぎった。「これ、伸びしろだらけちゃう?」

1日目に作ったゼリー

 2日目。昨日のゼリーを反省し、①ゼラチンの比率を下げること②加糖すること、この2つを試し、もう一度アップルジュースゼリーを作ることにした。反省点以外は昨日と同じ工程で、完成したゼリーを一口…「全然ちゃうっ!」理想のプルプル、心地よい甘さが口の中で溶け広がる。「ちょっと変化を加えるだけで、こんなにクオリティが上がるのか…」俺はゼリー沼にはまってしまった。

 愚直にゼリーを作り続け、遂に30日目。ベストゼリー選考会を開催した。候補のゼリーを改めて作り、これまで作ったゼリーのナンバーワンを決めた。厳正なる審査の結果【マンゴーゼリー】が選ばれた。こうして「ゼリー職人」30日チャレンジは幕を閉じた。

30日目、ベストゼリー選考会の様子


 俺はやり遂げた。友人との、そして自分自身との『約束』をやり遂げた。『約束』を守り切った自分がとても誇らしかった。また毎日この活動を応援してくれた家族と友人への感謝で、気持ちがいっぱいになった。部活動を引退し、ハリのなかった人生が、再びプルンと潤った。

 実は「ゼリー職人」は現在進行形だ。今は気が向くままにゼリーを作り、ゆるゆるプルプル活動している。そして次は「100日分ゼリーを作り続けること」、これを読者なる皆様に『約束』し、勝手に活力を得ようと思う。

Instagram⇨@amayoa_hobby

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