錬金術とアルベドの考察[原神]
文章の書きやすさの問題で、断定的な言い方になってしまいますが、あくまで考察です。
錬金術の名前の由来
主に8世紀に活躍したイスラーム圏の錬金術師ジャービル・イブン・ハイヤーンは、『黒土の書(Kitab al-Kimya)』を書きました。
このアラビア語のal-Kimyaか、今日の錬金術Alchemyや、そこから発展した化学Chemistryの語源となっています。
錬金術は基本的に不完全なものを完全なものに変えるというポリシーがあります。例えば人間には死がありますが、錬金術はそれを乗り越える不老不死の薬(エリクサー)や、賢者の石の精製を目指します。この錬金術は中世から近世になるとオカルト系集団の間で広まるようになります。
具体的には薔薇十字団、その後継となった黄金の夜明け団や銀の星などの集団です。
薔薇十字団はフォンテーヌの水仙十字の集団のモチーフにもなっています。
特に錬金術やオカルト系集団はプラトンの考えに強く影響を受けていました。
プラトンの著書に、デミウルゴスという神が出てきます。
この神は不完全な世界を作りましたが、同時に神は完全な世界を目指しているといわれています。
この話はフォンテーヌの鍛造武器『純水流華』に載っています。
Wherefore, since ye are but creatures, ye are not altogether immortal and indissoluble, but ye shall certainly not be dissolved, nor be liable to the fate of death, having in my will a greater and mightier bond than those with which ye were bound at the time of your birth.
《それ故に、あなたは生み出されたものなので、不死ではない。溶かすことができない訳でもない。でも、あなたが溶けることは決してなく、死の運命にさらされることもない。あなたが生まれた時に持っていた絆よりも、大いなる強力な私(神)の絆(意志)を、あなたは握っているからである。》
プラトンの対話篇『ティマイオス』から引用した文がそのまま載せられています。
この話がのっている対話篇はティマイオスという名前ですが、原神では錬金術師としてモンドに登場します。
世界は不完全であるので、完全な世界を目指すべきである。
人間はかつて楽園にいたのに腐敗して不完全な存在となり、死ぬようになったのだから、不死を目指すべきである。
こうした考えが錬金術に根付いているんです。
これは聖書に由来します。
私たち人間の祖先である原初の人…アダムとイブは、禁断の実を食べた故に不死ではなくなりました。
不死ではなくなった人間が、不死を目指すことこそ原初の人間計画と言えると思います。
(原初の人間計画に関する伏線は、Ver2.3イベントストーリーで出ました。)
錬金術における「完全体(究極の達成目標)」とは、エリクサーや賢者の石だけではありません。
「金」も入ります。(そもそも名前が錬"金"術ですし…。)
原神における「金(黄金)」はレインドットの呼び名です。レインドットはニーベルングの指環というワーグナーのオペラに登場する黄金を守る乙女と、錬金術の最終目標である黄金の2つを意味する人物です。
どうやってアルベドを造ったか
人間というのは基本的に死にます。そして、遺体となり、分解されて土となります。反対に、生命は土から生まれる…という風に考えられていました。
ここで、恐らくアルベドの命の星座のモチーフとなったと思われるPretiosissimum Donum Dei(神からの最も貴重な贈り物)というラテン語の本をご紹介します。
英語では、Rosary of the Philosophers
日本語では哲学者のロザリーと言います。
名前の通り、「薔薇」が1つのテーマとなっている、16世紀の錬金術書です。20点の木版画で解説されています。不老不死になれるエリクサー(薬)を作ろうとする本でした。生命の創成についても語られています。
絵も使って説明しますね。
ここからは科学ではなく、Pretiosissimum Donum Deiの理論であることをご承知ください。
人間の遺体は腐敗して黒い土になります。
もしくは燃え尽きて灰(黒土)となります。
金属においては鉛の段階です。
生命はやがて水と、その上に浮かぶ黒土(ニグレド)に分かれます。
この溶脱(地下へ水が流れていく)段階で、レインドットに生み出されたのがハウンドです。
黒土(ニグレド)はCaput Corvi(鴉の頭)という名前がついています。鴉は原神ではカーンルイアを象徴することがあります。
また、このニグレドという段階は地球自体が腐敗していることを意味するものでもあります。生命がやがて腐敗して黒土へと戻ります。
錬金術はこの黒土の地球(地層)を浄化して完全な世界にしなければいけないという使命を背負っていました。
アルベドPVのセリフに地層に関する言及がありました。日本語版では地層と訳されていますが、英語ではEarth(地球)となっています。また、土をearthということもあります。
様々な生命が宿った黒土からは、不完全な腐敗した生き物が生まれます。
このドラゴン(黒龍)はエリクサーと名付けられました。エリクサーは鉛を金に変える液体の名前です。
原神においては黒土や黒龍はドゥリンを表す言葉として使われています。腐敗した黒土(ドゥリンの遺体)からは「腐植」の剣が生まれます。
黒土から生まれたドラゴンはやがて、白化(アルベド)していきます。アルベドは錬金術における白化段階の名前…というわけです。
この黒が消え、不純物がなくなり白くなった段階が原神において「白亜の申し子」と呼ばれるアルベドだと思います。
金属では錫や銀の段階になります。
しかし、錬金術において腐敗を取り除いた白化(アルベド)も完全体ではありません。
白のエリクサー=銀を暗示するようです。
次は赤のエリクサーをつくる赤化(ルベド)の段階に入ります。
ルベドが完成すると、今度は赤い薔薇の王(=金)が瓶(フラスコ)の中に登場します。
キリスト教において、元々邪悪な花とされていた薔薇ですが、次第に聖なる楽園に咲く花というイメージがつき始めました。
なので、錬金術で不老不死の完全体になる
=エデンで原初の人が禁断の実を食べる前の、不老不死の体に戻る
=薔薇の花、という不思議な暗示が生まれました。
この赤化はまだ精錬中の段階なので、厳密には赤化が完成して黄金となります。
アルベドの命の星座
アルベドの命の星座は、地質学と錬金術が混ざった表現となっています。
1 エデンの花
▶︎擬似陽華に関する凸です。
擬似陽華は陽と名前についている通り、太陽の花を意味します。英語ではハッキリSolar Isotomaと書いてあります。Isotomaというと別の花も出てきちゃうので英訳はどうかと思いますが、錬金術で作り出す太陽の花(薔薇)のことだと思います。
しかし、3凸と比べた際、1凸は「本当にエデンに咲いている花」を意味すると思います。
中央はウロボロスの蛇。そこから紅白の薔薇がさきだしています。
そしてその下の右が太陽、左が月、中央は太陽と月の(錬金術による)結合で生まれた「賢者の石」です。
2 顕生の宇宙
顕生とは恐らく地質学の顕生代のことです。
英語版でもPhanerozoic(顕生代)と書かれていました。
冥王代は原始の海からやっと原始の生き物が生み出されます。
顕生代は冥王代のかなり後で、目に見えるレベルの生命、特に恐竜が生きた時を意味します。
原神で言う、龍がまだ世界を支配していた時代ですね。そして、隕石が衝突するのもこの時代です。
3 太陽の華
1凸でもエデンの花を出したのに、また太陽の華を出すの?と思うかもしれませんが、1凸は本当に楽園にあった花、3凸は擬似的に錬金術で作り出した花という意味だと思われます。
アルベドのスキルは「擬似」陽華ですので…。
(※ちなみに錬金術師にとって、太陽は黄金を意味する星でした。)
また、擬似陽華には2種類の花の要素があるようです。
1つ目が楽園の花である薔薇。
2つ目が、地上に咲いて太陽の向きに合わせて花の向きも変わる向日葵(ひまわり)。
3凸名は、英語版においてヘリオスという太陽神の名前がついています。ヘリオスの恋人はあることがきっかけで向日葵となり、いつもヘリオス(太陽)の方を見つめるようになったという逸話があります。
もう1つ気になるのが、ギリシャ神話モチーフは原神において、龍を排除して神が人間を地上で繁栄させた時代を表すことが多いという点。
(※キリスト教もギリシャ神話の影響を受けています。)
4 聖なる堕落
英語版も参考にして考えると、神性がなくなりはじめる段階という意味だと思います。
キリスト教のアダムとイブが禁断の実を食べて、神性を失い、天から人間界に墜落する話が関係しそうです。
原神において、神(天理)は龍の力を奪い、人間を創り出しました。
しかし、人間が傲慢となり、何らかの禁忌を犯して天から見放されたことを意味するのかもしれません。
この原初の人間の墜落は、錬金術では黒化(腐敗)の段階に当てはまります。
5 太古の潮
Tide of Hadean(冥王代の潮)
先程も述べた通り、顕生代よりもずっと前の、原始の海から生命が誕生する時代です。
錬金術における三種の神器(私が勝手に呼んでるだけ)は、水銀、硫黄、塩です。
塩は錬金術において、重要な物質で、水銀と硫黄を「結びつける」役割を果たしていました。錬金術において「結合」の材料です。
6 無垢なる土
Dust of Purification燃焼により浄化された土(灰)=白亜のことだと思います。
総括すると、この星(錬金術でいう地球)の歴史と、錬金術による浄化を意味している凸効果な気がしますね。
英語版ではDust of Azothと書かれています。Azothは錬金術の言葉で、物を溶かす…つまり溶媒を意味し、錬金術では主に水銀を意味しました。原神では塵とされています。
「結晶化後の不活性元素物質を変換する溶媒」つまり、結晶化したものをまた溶かすってことですね。
薔薇つながりで、アルベドメインの星の王子様をモチーフとした(かもしれない)イベントが開催されたことがありますが、またいつかまとめますね。
大厄災が起きた理由
これは予想ですが、原初の人間(=黄金)を生み出すために、レインドットは錬金術を行いました。
上で述べた通り、その過程で獣域シリーズが生まれ、ドゥリンが生まれています。
つまり、500年前の災厄で出てきた魔物は、錬金術の過程における産物だったのではないでしょうか。
(天理側はそれに対する措置として、カーンルイア人の魔物化を行った?)
その後、黒化の時期をすぎて白化の段階でアルベドが生まれています。
ちょうどゲーム内でもアルベドはまだ災厄の時に生まれていなかったので、時期が一致します。
ある意味、アルベドを生み出すために災厄を起こしてしまったと言えるかもしれません。
これは他のカーンルイア人も予想外だったらしく、スメール周辺でカーンルイアの騎士団を率いていた騎士団元帥かつカーンルイア臨時摂政のアルフォンスたちは、漆黒の獣の猛攻にあっており、戦いの中で騎士団は壊滅しました。
騎士団はこの戦いで壊滅したあと、恐らく錬金術の副産物で黒化してしまい、🔗黒蛇騎士になっているような伏線があります。
アルベドはまだ完成ではありません。白化の段階です。もしいつか本当に黄金ができた時、私たちは何を見るのでしょうか…?
今回の考察はXにて先行公開していたものです。普段モチーフ考察はXにて投稿していますが、これからnoteにもまとめていこうと思います。
(Hanaの🔗Xアカウント)