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ホークスが取り組むデータサイエンスの世界(実践編)
こんにちは、マーケティング・コミュニケーション部の中澤です。
前回のnoteでは、野球界、そしてホークスにおけるデータサイエンスの歴史をご紹介しました。簡単ではありますが、ホークスが現在の体制にたどり着くまでにどのような取り組みを行ってきたのか、イメージを湧かせていただくことができたでしょうか?
>前回のnote(基礎編)はこちら
続いて今回のnoteは、実践編。
拠点となるHAWKSベースボールパーク筑後では、どのような環境でチーム強化が図られているのか、より具体的な視点で探っていきます。
最新技術を使って完全再現した”仮想モイネロ投手”との対戦を実現できる世界がすぐそこに?
データを活用した選手育成の現場を一緒にのぞいていきましょう。
※10月12日(土)HAWKSベースボールパーク筑後で開催された「HAWKSデータサイエンス業務体験」の内容を元に構成しています。
■より効率的なスイングを目指す打撃動作解析
「ここでは、16台のハイスピードカメラを使って動作を測定して、スイング解析を行っていきます。」
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モーションキャプチャによる打撃動作解析の概要を解説してくれたのは、R&D担当の森本晃央さん。
「測定は「Theia 3D (テイアスリーディー)」という専用ソフトを使って骨格検出を行い、選手一人一人のスイングの解析を行います。この仕事にプログラミングの知識は重要で、コーディングをしてデータを自動で出せるような仕組みづくりをすることで、効率的にフィードバックできるようにしています。」
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一般的に良いスイングは下半身から順番に連鎖で加速していくと効率的にバット速度が上がっていくそうですが、
「あくまで効率性の観点での分析なので、正解があるわけではありません。選手一人一人に合った形を探せるようレポートを元にコーチと話をして、練習方法も含めて選手に伝えていきます。」とデータがすべてではなく、あくまで動作を改善していくための指標として使うべき、と森本さんは言います。
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こちらの写真右側のデータは、タマスタ筑後で鍛錬を積み、ポストシーズンでも活躍を見せてくれた笹川吉康選手のもの。来季のさらなる飛躍を期待しましょう!
■カメラに取り囲まれたハイテクブルペンの環境に迫る
続いて紹介するのはブルペン。スカウティングサポートグループの齋藤周さんに設備の紹介をしていただきました。
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「投球の計測には、トラックマンポータブルを使用します。分析を行うのはもちろんですが、日々の練習で機器を設置してデータを測る環境を整えるのも僕たちの仕事。選手の練習が始まる前にセッティングをすべて済ませておくのは当然毎日行う作業です」
ブルペンを取り囲む多数のカメラのほか、マウンドにもこだわりが。
「このマウンドはみずほPayPayドームの土の硬さに合わせています。最近の球場では硬いマウンドが好まれているようですね。一方でファームの選手は地方球場で試合をすることも多いので、隣のマウンドはそちらに合わせて軟らかめです」
データに基づいた動作の改善に取り組むだけではなく、練習の成果を本番で発揮するための環境作りにも気を配っていることがわかります。
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齋藤さんは「データを扱っていても、選手の理解度はひとそれぞれ。球団としてキャンプで講習をしたり、選手のリテラシーに合わせてアプローチを変えています」と、この仕事が意味を持つための選手ファーストの重要性を説きます。
森本さんのお話しと同様に、集めたデータを選手にどのように伝えていくか?ということが、分析スタッフとしての腕の見せ所であることが伺えました。
■若手選手の登竜門?新たに取り組み始めた「打撃検定」とは
「レベル1~16までR&Dスタッフで基準を定めた打撃力の試験を行い、選手が自分の課題を把握したり、打撃レベルを確かめる取り組みを今年の2月から始めました。」
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そう話してくれたのは、長谷川勇也R&D(Research and Development)担当。ご存知の方も多いと思いますが、2021年までホークスの打撃職人として名を馳せた長谷川さんがR&Dスタッフとして、選手育成に一役買っています。
”検定”といっても、統一された明確な基準があるわけではなく、レベル分けはスタッフで話し合って決めたそう。最高難易度のレベル16は、「150キロのストレート、カーブ、スライダー、カットボール、シュート、フォーク、チェンジアップのミックスを10打数3安打以上打つこと」が合格基準。
「これができないと1軍でメシは食っていけないぞという気持ちで、厳しい目でジャッジしています。今のところ実戦の成績と大きなずれはなく、良い基準が作れていると感じています。」
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長年第一線で活躍してきた長谷川さんの感覚値を組み込んだ打撃検定により、選手たちは自分の現在地がどの段階にあるか、指標をもって把握できるように。
「なぜ失敗したのか振り返り、失敗を元に今後の練習を考えていきます。」
今の自分より高いレベルの目標を設定して訓練を積み、成長を確かめる。
この打撃検定に意欲的に取り組み全レベルをクリアした石塚綜一郎選手は、今年育成選手から支配下登録を勝ち取り、1軍の舞台でも活躍を見せました。
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そして、実は今年石塚選手のほかに打撃検定をレベル16までクリアしている選手がもう一人。
2024年入団育成ドラフト4位ルーキーの中澤恒貴選手。今後のブレイクが楽しみな存在です。
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■現役投手の球筋を完全再現!最新機器「Trajekt Arc」の実力
最後にご紹介するのはホークスが誇るデータサイエンス部門の中でも、最新のマシン。その名も「Trajekt Arc」です。
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この最新機械のすごさは、トラックマンやHawk-eyeのデータを取り込むことで、実在する投手の球筋を完全再現できるところ。球の回転はもちろん、投球時の縫い目を調整をする機能まで搭載しているというから驚きです。
映像と合わせれば、本物の投手と対戦しているような、極限まで実践に近い形での打撃練習が可能になります。
「打撃検定ではタイミングの取り方など、実際のピッチャーとは違うところもありますが、こちらは映像を使ってより実践的な打撃練習ができます。」
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解説してくれたのはデータサイエンスコーディネーター補佐 兼 R&Dグループチーフの城所収二さん。
技術の結晶に見える最新機器ですが、導入にあたり使いこなすためには地道な努力もあったそう。
「データを入れたらすぐに使えるようになるわけではないので、何回も何回も投げさせて、覚えこませる必要があるんです。システムエラーも多いので試しては改善して、また試して…という作業を繰り返しながら、調整を進めていきます」
この日はモイネロ投手が目の前で再現され、体験会の参加者はとてつもないカーブの落差を目の当たりにすることになりました。
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Trajekt Arcは今年導入されたばかりなので、1軍選手はまだほとんど使用したことがないとのこと。
本格的に活用が始まれば、どんな練習が行われるのか…?今後が楽しみです。
■データサイエンスは人の力があってこそ
現場スタッフからの話を聞くことで、最新のデータサイエンスとはいっても、人間の手で命を吹き込んでいくような仕事であることが見えてきました。
「最新機器の導入は、0から1を作る面白さ。」(城所さん)
機器を使いこなすところから始まり、データを集めて、どう使うかを考えて、選手たちに伝えていく。
一連の過程を追いかけていくと、同じ設備を揃えたとしても、使う人や戦略次第で右にも左にも行く仕事だとわかります。
選手たちと同じく、スタッフも一緒に試行錯誤を繰り返しながら前へ進んでいる道中なのだと、学ぶことができました。
頭だけではなく、朝から晩まで体も動かしながら、選手の成長を支えるデータサイエンスチーム。
このnoteでは伝え切れない奥の深さがあることは間違いありませんが、チーム育成がどのような環境で行われているのか、少しでもお伝えできていれば幸いです。
彼らのサポートにより、選手たちがどのような成長を遂げていくのか。
ぜひ今後も見守っていてください!
そして、新たにこのチームの一員として一緒に戦ってくれる人材がこの先現れることを楽しみにしています!
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(マーケティング・コミュニケーション部 中澤佑輔)
★スカウティングサポートグループ齋藤周さんのnoteはこちら