[経営勉強会]2025年の崖 ~日本のDXの現状~
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」というレポートの中で、「2025年の崖」という表現が用いられました。 これは、国内の企業や自治体などに対し、2025年までにデジタルトランスフォーメーション(DX)を進められなかった場合、国内で最大年間12兆円の経済損失が発生する可能性があると警鐘を鳴らした内容です。
本日の経営勉強会では、「2025年の崖」を目前に控えた状況の中で、日本におけるDX推進の現状を振り返り、日本全体およびソフタスの今後の展望について議論したいと考えています。
開催日時
2024年11月27日(水)17:00~18:00
プレゼンター
参加者
ソフタス
田口社長、臼井取締役、三浦取締役、薗山執行役員、北村執行役員、宮本部長、重川部長、江村部長、高石部長、高橋部長、廣瀬部長、那須部長、山根部長、高瀬課長、上原課長、山﨑社員
ソフタスHD
赤坂副社長
九州ソフタス
瀧澤代表取締役、忽那専務取締役、東取締役、阿部執行役員、藤嵜執行役員
北陸ソフタス
角丸社長、星山副社長、石井取締役
ソフタスバリューコネクト
真鍋執行役員、丸山執行役員、橋本部長
はじめに
以下は、経済産業省が発表した「DXレポート」のサマリーの一部です。このサマリーでは、左側から中央下に向けて曲線を描きながら下降していく赤い矢印が示されています。これが、経営面、人材面、技術面などの課題を考慮した結果、「2025年の崖」として起こりうるリスクを指摘したものです。
これを受け、国内の多くの企業がDX推進に取り組み始めています。まずは、その現状について詳しく見ていきたいと思います。
Ⅰ.日本のやばいDX事情
Ⅰ-1. 基幹系システム更新のトラブル事例(SAP 2025年問題の発生)
企業の基幹系システムで広く利用されている「SAP」というソフトウェアは、ドイツの企業が開発したものです。日本企業の約5割以上が導入しているとされるSAPの基幹システムですが、「2025年以降は最新版(SAP S/4HANA)のみをサポートし、旧バージョンのサポートを打ち切る」とSAPが通達したことが、「2025年問題」の発端です。
その後、批判や反対の声が相次いだため、SAPは方針を転換し、「2027年までサポートを延長(追加料金を支払えば2030年まで延長可能)」と発表しました。
さらに、現時点ではオンプレミス環境(企業が自社内でサーバーを運用する形態)とクラウド環境の両方で利用可能ですが、SAPは「S/4HANA以降ではオンプレミス環境の利用ができなくなる可能性がある」と示唆しています。その場合、オンプレミス環境で基幹システムを構築している企業はクラウド版へ移行せざるを得ず、大規模な再構築が必要となります。
基幹システムの移行には数億円から数百億円のコストがかかる場合があり、さらにオンプレミス環境で利用している場合は、クラウド環境への移行に伴い追加費用が発生します。
企業が選択できる主な対応策としては、以下の3つが挙げられます。
追加費用を支払い、2030年まで問題を先送りにしつつ、非公式にSAPサポートを提供する企業と契約する
SAP以外の代替製品に乗り換える
SAP S/4HANAへバージョンアップする(オンプレミス環境の場合はクラウド環境へ移行する)
最新版への移行を完了している企業は全体の1割にも満たないと言われており、多くの企業が現在、対応に追われている状況です。
ちなみに、これらの状況を背景に、SAPエンジニアの需要が急増し、人材不足が深刻化しています。その結果、SAPエンジニアの単価は一般的なITエンジニアの約3倍にも達していると言われています。
Ⅰ-2. 基幹系システム更新のトラブル事例
基幹系システムの更新を進める多くの企業で、さまざまなトラブルが発生しています。以下に代表的な事例を紹介します。
事例1)江崎グリコ
2019年12月にSAP S/4HANAへの移行プロジェクトを開始しました。当初は2022年12月に完成予定でしたが、2024年3月まで延期となりました。このプロジェクトにかかる移行予算は当初の215億円から342億円へと大幅に増加。また、移行作業中のトラブルにより、同年9月まで主力製品であるチルド製品(プッチンプリンなど)が出荷停止となり、スーパーの商品棚から姿を消す事態に陥りました。
元々SAPを使用していなかった江崎グリコですが、今日導入を決断。そのシステム移行の過程で外部企業とのデータ連携に不整合が生じた結果、賞味期限の短いチルド製品が出荷できない事態に陥ったと見られています。この問題への対応として、裏では懸命に手作業でデータを修正したことが推測されます。同じIT業界に携わる者として、このような状況に直面した企業の苦労を思うと、他人事ではありません。
事例2)大東建託
大東建託では、2013年にメインフレーム上のレガシーシステム(技術面での老朽化、システムの複雑化やブラックボックス化といった問題を抱え、経営戦略上の障害や高コスト構造の原因となるシステムのこと)をオープン化するプロジェクトを開始しました。当初の完了予定は2018年でしたが、4回の延期を経て、現在の完了予定は2025年です。また、移行予算も当初の193億円から357億円へと膨れ上がっています。
事例3)クボタ
クボタは2019年12月に基幹システムの更改に着手しました。当初、2022年11月の完了を予定していましたが、2度の延期を経て現在の完了予定は2026年12月となっています。また、予算も当初の215億円から370億円へと増加しています。
事例4)日本通運
2017年から「新国際航空貨物基幹システム」の構築を開始しましたが、開発期間中にコストの増加と期間延長が見込まれたため、開発そのものを断念しました。その結果、これまでに投じた154億円が減損損失として2022年に計上されています。
上記の事例からわかるように、多くの企業が基幹システムの更新において予算超過や納期遅延、場合によってはプロジェクトの断念といった深刻な問題に直面しています。
Ⅰ-3. 自治体のIT標準化の現状
自治体情報システムの標準化とは、デジタル庁や総務省が掲げるDX推進施策の一環であり、自治体の基幹システムにおいて住民サービスに直結する20業務を、国が定めた標準仕様に基づく標準化システムへ移行する取り組みを指します。この移行は、2025年度までに完了することが必須とされています。
しかし、本来であれば2023年12月が期限となっている予算要求の進捗状況については、2023年4月時点で東京都内の自治体で完了しているのは約30%にとどまっているとのことです。また、2023年10月時点では、移行が困難であると報告した自治体が全体の1割に達していましたが、2024年に入ってからは作業に取り組む大手ベンダーからも移行困難との声が上がるようになっています。
標準化の目的の一つは効率化によるコスト削減でしたが、ガバメントクラウドの先行導入を行った8団体のうち、実際にコストが削減されたのはわずか1団体のみで、逆にコストが現状の2倍以上に増加したケースも報告されています。現在、全国の自治体システムの年間運用費用は約4,000億円とされていますが、今回の標準化プロジェクトの予算は7,000億円であり、ランニングコストを考慮するとコスト削減効果については疑問視されています。
こうした状況を踏まえると、今後どこかのタイミングで方針転換が行われ、期間の延長や他の施策が講じられる可能性が高いと考えられます。
Ⅰ-4. IT人材獲得競争の現状
これまで、大手ITベンダー(富士通、NTTデータ、日立、NECなど)出身者がコンサルティングファームに転職する事例が多く見られました。しかし、現在では逆にITベンダーがコンサルタント人材の採用を強化する状況が生じています。
例えば、富士通は2025年度の目標として、コンサルタント人材を現在の2,000人から1万人に増やす計画を掲げています。しかし、同社の決算報告会では、採用の難航を理由に、予算を使い切ることさえ困難であり、計画の見直しもあり得ると報告されました。
NTTデータもコンサルタント人材を500人規模で抱える部署を新設し、子会社であるクニエに約1,000名のコンサルタントを配置しているとされています。
日立においては、アメリカの「グローバルロジック」というコンサルティング会社を約1兆円で買収し、コンサルティング分野を強化しています。
NECも同様に、コンサルタント人材を700人から1,000人に増やす計画を立て、子会社である「アビームコンサルティング」を活用する形で進めているようです。
さらに、事業会社(通常の一般企業)もIT人材の採用を増加させており、ITベンダー出身者やコンサルティングファームから人材を受け入れる動きが活発化しています。このように、IT人材の獲得競争が激化している状況です。
当然、ソフタスにおいても採用の厳しさは続くと予想されます。
また、これまでIT業界での転職者の主な年齢層は30~40代とされていました。しかし、近年では未経験の20代の若手を採用して育成しても、30歳を過ぎて一定の経験を積むとコンサルティングファームや事業会社のDX部門へ転職するケースが増えています。そのため、現在では50代や60代といったベテラン層を採用する動きも活発化しているとされています。例えば、「SHIFT(シフト https://www.shiftinc.jp )」という企業をご存じでしょうか。この会社はテスター事業を主軸としていましたが、最近ではSI(システムインテグレーション)事業を拡大しています。また、定年を70歳に引き上げ、ここ数年で社員数を7倍に増加させるなど、注目すべき事例もあります。
かつて、私が入社した頃には「SE35歳定年説」があり、35歳を過ぎるとエンジニアとして活躍できないとされていました。しかし、現在では逆に50代や60代の豊富な経験を持つ人材が注目されています。なぜなら昔のシステムは欠陥が多く、それを乗り越えてきたトラブルシューティング能力の高さが評価される傾向にあるからです。
Ⅱ.日本のポジティブなDX事情
Ⅱ-1. データセンター
では、ポジティブな方を見ていきます。
三菱総合研究所の予測によると、2020年から2040年にかけて国内のデータトラフィック量は348倍に増加すると見込まれています。
実際、2024年からの3年間で計画されているデータセンターの建設数は過去最大規模となる予定です。外資系企業の例を挙げると、AWSが約2兆2,600億円、Googleが広島に1,000億円のデータセンターを建設予定、Oracleは10年間で約1.2兆円を投資する計画を立てています。これらは、国内におけるデータセンター建設に向けた莫大な投資として注目されています。
データセンターはネットワークの遅延を回避するために、首都圏から50キロ以内に建設するなど立地に制約がある場合が多く、そのため土地不足が深刻化していました。また、日本国内では原発の停止や夏場の電力不足が問題となっており、オフィスの10倍の電力を必要とするデータセンター建設に歯止めがかかっていました。
一方で、AI向けデータセンターなど、GPUを大量に搭載した計算用施設は、リアルタイム性が求められないため、立地の制約が少なく、地方での建設が進む可能性が高いとされています。このような背景から、データセンター建設が地方へ広がることが期待されています。
さらに、データセンターへの投資は、不動産投資の中で最も投資利回りが高いとされるホテルと、同等であると言われています。これらの要因から、今後もデータセンター建設が増加する可能性は高いでしょう。
Ⅱ-2. 人材関連企業
次に、人材関連企業に関する話題です。IT人材の不足が続く中、アウトソーシング事業がますます活発化することが予想されます。
また、転職市場の活性化も見込まれ、転職支援や人材マッチングを手掛ける企業がその恩恵を受けるでしょう。私たちもその一部として、これらの変化の影響を受ける可能性があります。以下に、主な業態や企業名、話題を整理して紹介します。
Ⅱ-3. ITベンダー
国内ITベンダーの状況について説明します。富士通、NTTデータ、日立、NECの4社は、2024年3月期の決算において、DXブームの影響もあり、爆発的な増収増益を記録しました。株価も右肩上がりの状況が続いています。
富士通:売上9.9%増、利益45.5%増
NTTデータ:売上25.1%増、利益19.5%増
日立:売上9%増、利益14%増
NEC:売上9.1%増、利益23.9%増
これらの好業績は、大企業の基幹システムの入れ替えなど、大規模な案件が増加していることが背景にあります。このような案件は中堅企業や外資系コンサル系IT企業では対応が難しく、日本のITベンダービッグ4が引き続き高い需要を保っている状況です。
Ⅱ-4. 生成AI
最後に生成AIの状況について説明します。生成AI関連事業は、大きく以下の3つに分類されます。
LLM(大規模言語モデル)開発
LLMの開発を手掛ける企業には、NEC、富士通、NTT、KDDI、ソフトバンク、NRI(野村総合研究所)などがあります。データセンター運営
データセンターの運営では、NTTデータグループが注目されています。同グループは現在、世界第3位のデータセンター事業者とされています。SIやコンサルなどの顧客向けサービス
この分野は玉石混淆で、多種多様なサービスが存在します。以下に主な事例を挙げます。
野村総研:2024年度にAI関連サービス開発などに約100億円を投資予定。
日立:企業の基幹システムや社会インフラ開発で蓄積したノウハウを活用し、生成AIと組み合わせた開発ツール群をフレームワークとして整備。
CTC(伊藤忠テクノソリューションズ):OpenAIを活用した顧客企業ごとの生成AI環境構築サービスを提供。また、ITシステムのログ解析サービスも展開中。
SCSK:2030年までにすべての開発プロジェクトの全工程にAIを導入予定。既にコーディングとテスト工程では生成AIを活用し、2~3割の効率化を実現。
現在の課題
一方で、顧客企業側では、AIブームに乗じてAIを導入したものの、効果的に活用できていないという課題が多く見られます。AI技術の導入に伴う運用面での課題解決が、今後の焦点となるでしょう。
Ⅲ.本日のディスカッション
日本におけるDX推進状況と基幹システム移行における日本企業の課題
臼井 日本におけるDX推進の現状について、すべてを網羅するわけではありませんが、いくつかの事例や状況を説明しました。これを踏まえ、「1. 日本におけるDX推進状況の予測」「2.ソフタスグループにおける今後の取り組み」についてディスカッションしていきたいと思います。まず、日本における近い将来のDX推進状況について、どのように進むと考えているか、意見を聞かせてください。
山根 最近『ホワイトカラーの生産性』という書籍を読みました。その内容と今日の資料がリンクする部分が多いと感じました。日本では、DXを進める際に海外と考え方が異なり、全体最適化を重視するというよりも、現場主義的な細かい改善に価値を見出してきました。そのため、DX推進も部分最適化にとどまり、全体最適化の観点でプロジェクトを進める体制になっていないと本書では指摘されていました。
さらに、海外では業務プロセス全体を管理し統括するコンサルチームが存在する一方で、日本ではそのような人材が不足しており、このままではDX推進が進まないのではないかと感じました。
臼井 ありがとうございます。確かに基幹システムの移行において、欧米ではシステムに業務を合わせることが一般的ですが、日本では業務にシステムを合わせる傾向が強く、それが移行時にトラブルを引き起こす要因になっています。日本では過去に作られたシステムをカスタマイズして複雑化しており、いざ移行する際に誰も中身を把握しておらず、1からソースコードを読み込むといった作業が発生し、開発費用が大幅に増加する事例が多く見られます。
山根 それをどう変えていったらいいのかというのは、結構難しい議論になりそうですね。
臼井 以前、日本インテルの社長を務めていた方の講演で、SAP導入プロジェクトの際に「業務に合わせたシステムのカスタマイズはやめ、業務をシステムに合わせて標準化させよ」との方針を打ち出し、「業務を変えるところから始めた」とのエピソードを伺いました。
山根 確かに、トップがリーダーシップを発揮し、現状の業務にシステムを合わせるのではなく、業務を標準化する決断が必要ですね。
レガシー技術の課題と部分的改善の限界
高瀬 現場では、SAPに限らず、レガシー(時代遅れ)な技術を使っている企業が多くあります。アナログ電話やISDNとか。その対応としてバックボーンをIP化することで、例えば、EDI取引(「電子データ交換」という意味で、商取引で発生する発注書や納品書、請求書などの証憑類を電子化し、取引先と専用回線で接続してデータでやり取りする取引のこと)などの電子商取引のシステムで、今までアナログでやっていたものを標準化、XML化してインターネットに掲載するなどして対応してきました。
しかし、今でもアナログ技術が完全になくなることはなく、銀行システムも大きな変更がされない中、バックボーンだけを変更するような「部分的な改善」が続いています。このような対応が日本独特の「合わせ方」なのかもしれませんが、真の意味でのDXとは異なると感じています。
山根 課題としては、関わっている企業自身も、変革への姿勢が十分でないということでしょうか。
高瀬 はい。先ほども話にありましたが、多くのカスタマイズが加えられているため、システム自体を変えるよりも、そのシステムに合わせてバックボーンを変える方向に進むことが、日本のやり方なのかなと感じます。本当に標準化を進めるのであれば、システムを標準に合わせて全体の足並みをそろえるべきです。しかし、現実には「仕方がないから合わせる」という形で進んでおり、これが真のDXなのか疑問に思うことがあります。
臼井 他に何か事例でもよいので、ご意見があればお願いします。
阿部 私が携わったプロジェクトで、AIを使って業務を変える取り組みがありました。その際、業務とシステムを同時に変えないとうまくいかないと強く感じました。現在、商談に訪れるお客様の中にも、業務は進んでいるがシステムが追いつかないと悩んでいる方が多いです。日本では業務にシステムを合わせる仕組みが一般的で、その結果、物事がうまく進まないケースが見受けられます。業務を見直す姿勢を上層部が示さない限り、DXは難しいと感じています。
臼井 みなさんが指摘されているように、多くの事例で、業務をシステムに合わせるべき部分がそうなっていない現状があります。そのため、こうした課題が放置され、大手ITベンダーがその解決策を提供することで利益を得ている構図が続いています。ただ、これがこのまま続くのか、それとも変わっていくのか、ご意見をお聞きしたいです。
DXの範囲とビジネスモデルの変革
瀧澤 今の話は、DXの中でもビジネスモデルを変革するというより、デジタル化にとどまっている部分の話ですね。
臼井 そうですね。現時点ではその範囲にとどまっています。
瀧澤 デジタル化がうまく進んでいない一方で、ビジネスモデルの変革がどこまで進むかが重要だと思います。現在の日本では、過去の業務プロセスの中に存在する不明瞭なパラメータや、積み重ねられた手順が問題となり、それを変えようとしても現場の抵抗により進まないという状況があります。また、コンサルタントが外部から関与しても「コンサルタントが入ったのだから何でもやってくれるだろう」と丸投げになってしまいがちです。実際は、外部のコンサルタントが社内の人をコントロールすることなんてできないのが当たり前です。社内の人を動かし、業務を変革するためには、トップからのリーダーシップが欠かせません。
デジタル化を進める話と、技術やビジネスモデルをどのように変えていくかという部分が両輪となるべきですが、現状ではビジネスモデルを変革するまで進んでいないのではないかと感じます。
山根 ビジネスモデルの変革が進んでいるという感覚は正直ありません。例えば、高瀬さんがおっしゃったように、顧客や製造、仕入れ先まで含めた全体的なつながりの中で新しいビジネスモデルを構築する必要がありますが、現在そのような取り組みが実現しているとは聞いていません。依然として利己的な自社主義や自前主義が根強く残っている印象があります。
瀧澤 変革の途上にある場合、その進行状況に気付けない……。
山根 どこかでイノベーションが起きているのかもしれませんね。
瀧澤 極端な話をすると、現在の日本では物価が上昇している一方で、給与が上がらない状況が続いています。そのため、安価な商品を求める風潮が根強く残っています。しかし、こうした状況が変わり始めれば、社会全体が進んでいることに気付けるはずです。
山根 ビジネスモデルの変革を考える場合、部分的なものではなく、全体的な問題であり、ビジネス全体の流れを変えるためには、多くの課題が存在しているように思います。
臼井 そうなると、課題ばかりが浮かび上がってくる印象ですね。では次のテーマに移りましょう。ソフタスとして、日本の現状を踏まえ、今後どのような取り組みを進めていくべきでしょうか? 忌憚のない意見を聞かせてください。
ソフタスグループの今後の取り組み
角丸 SACSについては、ホームページにも記載されているように、「未来社会を創造する」というコンセプトを掲げています。この考え方は、ソフタスが35周年のディスカッションで話し合った内容の延長にあります。
これまで日本の社会を牽引してきたのは製造業でしたが、今後はIT企業がその役割を担うべきです。そのため、SACSは未来社会を創造できるようなイノベーティブな人材を育成することを目指しています。こうした人材が各企業で育つことが、社会全体の進歩につながると考えています。
それぞれの人材が異なる視点やアイデアを持ち寄り、業界や職種の垣根を越えた議論を重ねることで、新しいビジネスモデルや次世代の社会を築くきっかけとなるはずです。これこそがSACSの目指す姿であり、日本が過去30年停滞していた状況を打開し、次のステージへ進むための鍵だと考えます。
DXはそのための手段に過ぎません。DXを通じて、新しいビジネスや社会の仕組み、生産性向上を実現することが目的です。IT技術だけでなく、ビジネスや社会の本質を理解し、技術と融合させる力を持つ人材を育てる必要があります。我々ソフタスグループが目指すべきは、そうした人材を輩出し、変革の旗手となることだと考えます。
瀧澤 SACSはそのような目的に最適な場の一つかもしれません。
山根 最適というより、一つの要因として機能する可能性があります。同じビジョンを共有する企業が連携し、新しいビジネスモデルを生み出す集合体を形成できれば、イノベーションのきっかけとなるかもしれません。それだけを目指すわけではありませんが、可能性はあると思います。
臼井 SACSコミュニティがそのきっかけの一つになり得るということですね。
自社DXの見直しが必要
臼井 ところで、上原さん、せっかく参加しているのですから何か質問はありますか?
上原 単純な質問ですが、DXはそもそもなぜ必要なのでしょうか?
臼井 デジタル化にとどまる話もありますが、少なくともデジタル化することで、手作業や非効率な業務にかかる時間を短縮することが可能になります。つまり業務の効率化になります。しかし、DXの本質は、単なる効率化ではなく、デジタル技術を道具として活用し、業務や経営の形そのものを変革することにあります。つまり、業務プロセスやビジネスモデルをデジタル技術によって進化させるということです。
上原 それは、日本の人口が減少していくことに対応するためでしょうか?
臼井 人口減少とは直接的な関係はありませんが、少なくとも効率化を進めないと競争に勝てなくなります。例えば、競合他社が高度なデジタル技術を取り入れて流通網を効率化すれば、明確な差が生じ、競争力を失う可能性があります。そのため、デジタル技術を用いて業務を効率化し、新たな可能性を模索することがDXの取り組みとして求められます。
那須 現在、ソフタスの情報ソリューション部で総務部のDX推進を進めています。ただ、今のところ「DX」というよりも、効率化や自動化を目的とした取り組みが中心です。効率化や自動化が進むことで、デジタル技術に対する抵抗感がなくなると思います。その結果、「これもできるのではないか」という発想が広がり、DXの実現に近づくのではないでしょうか。現在は手作業で十分に対応できているからこそ変化を求められていないことでも、デジタル化の可能性を示し、抵抗感を減らすことが第一歩だと思い進めているところです。
上原 DXを進めると、その分野に精通した知識が必要になります。簡単なシステムであれば誰でも使えますが、複雑なものは一部の人しか扱えなくなる場合もあります。それがDXの一つの側面なのではないかと思います。
高瀬 私が考えるDXの目指すべきところは、「誰でも使えるようにする」という部分にあります。例えば、熟練者しかできない業務を新人でもできるようにすることです。そのためには、過去のノウハウや専門知識を活かしつつ、業務をより使いやすい形に再構築する必要があります。
現在のデジタル化の多くは、システムの使い方が難しいまま終わっているのが現状です。DXが進むことで、例えばメガネ型デバイスを使って「こう書けばよい」「こう電話すればよい」とリアルタイムに指示が出るようになるなど、効率化がさらに進むはずです。ですが、現段階ではデジタル化の域を出ていないと感じています。
上原 そのような進化が実現するには、より知識の豊富な人材が必要になると思います。となってくると、教育の話になってくるような⋯⋯。
瀧澤 頭が良いか悪いかで言えば、みんな頭が良いですよ。頭が良いからIT系の仕事ができていますし、そんなに大差はありません。重要なのは発想の転換です。これまでのようにシステムの専門家が高度な技術を追求するのではなく、DXや生成AIの活用によって、これまでに比べて少ない力で同じ結果を得られるようになります。その分のリソースを新しい挑戦に振り向けることが可能です。それだけでも新しいものが生まれる可能性が高まります。
忽那 みなさんの話を聞いて感じたのは、九州ソフタスもそうですが、まず自社のDXがどれだけ進んでいるのかを見直す必要があるということです。自分たちができていないことを他社に提案するのは説得力に欠けます。自社のDXを具体的に考え直すことが、次のステップに進むための良い方法ではないでしょうか。
臼井 それは私も同感です。お客様に提案する際、「自分たちができていないのに偉そうに話している」と感じることがあります。自社の取り組みを振り返ることが重要ですね。
本日の勉強会は以上となります。皆さん、ありがとうございました。