誰かの体温
この夜に終わってほしくないと思っても、睡魔には勝てないもので。
瞼が落ち出し、
だんだん声が遠くなる。
飲みかけのコーヒーの香りも薄れ、
眠りに落ちるその瞬間、最後まで残るのは肌で感じる誰かの体温。
まだ寝たくないのに意識がどんどん遠のいて、寝落ちしたあの腕の中を思い浮かべながらSODEのDozeという香りを調香した。
その腕の中は、甘苦い体温と、どこか気の抜けた人肌の香りがする。
飾らない、隠さない、素の魅力が漏れる肌の匂いを表現するのに、Dozeでは合成ムスクを使用した。
天然のムスクは麝香鹿から採取され、植物性香料にはない独特な香気で、加えると途端に香りを奥行きのあるものに変えてしまう。
その香りは、ミステリアスで不思議な温もりを持ち、古来から媚薬特性を備えている香料として有名である。
以前、爽やかさに適した香りを選ばせると、民族や文化、世代などの違いでかなりばらつきが見られるが、性的な魅力に結びつく匂いとなるとかなり普遍性が見られ、その代表がムスクだと読んだことがある。
乾燥機から取り出してすぐのブランケットのような温かさとやわらかさの奥に、僅かに香る獣の匂い。
人間の性的本能を刺激する、洗い立ての清潔感だけで終わらない個性が、体温や人肌を感じる香りを作り出してくれる。
夢か現実か曖昧なDozeの香りで、あの夜のまどろみをもう一度。
Doze
誰かの体温/コーヒーに角砂糖/遠い昔の白黒映画/借りたマフラー/まだ寝たくない夜
The Scent: Rose, Cassis, Vanilla, Coffee, Patchouli
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