家庭環境はひきこもりに影響するの?-中学生からもらった質問に若者支援NPOの広報が答えます
こんにちは、広報担当の山崎です。先日、中学生から「知りたいことがある」とお問い合わせをいただきました。
以前から大学生のお問い合わせはありましたが、最近は「探求」の授業で調べている中高生からもご相談をいただいています。
もしかしたら全国に似たような調べ物をしている方がいるかもしれないと思い、記事にまとめました。学生はもちろん、社会人の方など幅広い層にご覧いただき、若者支援について知ってもらえたら嬉しいです!
◼️この記事を書いてる人
こんな人におすすめ
ひきこもりやニートについて関心がある方
孤立・孤独の問題に興味がある方
若者の就労支援について調べている方
社会課題の解決に関心がある方
育て上げネットが何をしているかよくわからない方
育て上げネットについてよく知ってみたい方
Q.家族関係や家庭環境はひきこもりに影響しますか?
A.はい、影響します。
そもそも「ひきこもり」は社会との関係を喪失している”状態”を指します。
よく病気のようなものと考えておられる方がいるのですが、それそのものが疾患ということではありません。
「ひきこもり」状態になるきっかけに「家族関係」や「家庭環境」が挙がる可能性はもちろんあります。逆に、社会とのつながりを取り戻すときの大切なサポートにもなるので重要な役割を担うのが「家族」であります。
実際にどのように影響するのか、家族相談を行うスタッフの話を基にお伝えしたいと思います。
まず、影響を受ける段階をざっくり3つに分けてみました
①ひきこもり状態になるとき
②ひきこもり状態のとき
③ひきこもり状態を脱するとき
これらの段階に応じて起きていることを考えてみましょう。
①ひきこもり状態になるとき
まだ社会とのつながりがあるときに、「家族の関わりがきっかけになった」例を挙げてみます。
◆ 親が願う学校に進学したが本人には合わず、不登校になった
◆ 内定報告をしたら「そんな聞いたことない会社だめだ」と言われた
ご家族の気持ちが前面に出て、本人の意志が尊重されなかったり、そもそもコミュニケーションがとられていなかった…お互いの心境のズレが精神的にしんどかったと話しています。
電通が行った調査では、内定承諾に影響したものとして上位に「親・家族・親戚」が挙がっています。会社のインターンシップ経験以上のような実体験に基づくもの以上にその説得力、信頼度が高いことがうかがい知れます。
では、逆に「ひきこもる前に踏みとどまった」例を挙げてみましょう。
◆ コロナ禍で予想外の大学生活に「帰ってくれば」と声をかけてくれた
◆ 会社と折り合いがつかないときに話を聞いてくれた
あえて違いを挙げれば、現在の状況からエスケープすることに肯定的であったり、理解者として話を聞いてくれる仕草をしたことがプラスに働いたということでした。
②ひきこもり状態のとき
◆ 「いつになったら働くんだ」と急かされ、居間に行くのが怖くなった
◆ 腫れ物のような扱いで、怖がられるようになった
家族相談を担当するスタッフは「混乱段階」という言葉を使っていました。ひきこもりを経験するのは本人も家族もはじめて…となると、相手のことを考える余裕がなくなってしまうし、どういう声掛けが良いのかも分からなくなってしまう。
大切なのは、本人の動きを「待つ」ことが大切とのことです。
「待つ」といっても、放置するわけではありません。
朝夕のあいさつやちょっとした声掛け、出かけるときには書き置き・・・
「あなたのことを考えているよ」とゆるやかに伝え続けることで、完全に孤立させないことが影響しています。すくなくとも家の中が安全な場所で心安らぐ場所になることで、家事や掃除、コンビニに出かける…と、できることから社会参加を始めていけるようになるのだそうです。
③ひきこもり状態を脱するとき
社会との接点を持つための「最初の支援者」になるのが家族です。
就職活動をするならお金もかかるし、ストレスも多くなります。
支援機関に通うことになれば適した場所を探す時間も必要です。
活力にあふれてなんでもチャレンジ!というわけにはいきませし、そもそも自信がなく新しいことに挑戦するまでに時間がかかる方も多いです。
本人の代わりに動いてくれたり、家の中でエネルギーを貯めるための助力があるのはとても重要なことです。
②ひきこもりの増加は、どのような社会変化があったからですか?
◼️経済的な事情、社会の常識、文化的背景が挙げられます
<1>
一つ目は、経済的な事情です。経済的な事情というのは、社会の揺れ動きがもたらす予測不能な影響です。例えば、バブルの崩壊、リーマンショック、 東日本大震災や相次ぐ天災、 直近では新型コロナウイルスや、ロシア-ウクライナ間の混乱、円安による物価高騰などが挙がります。
大きな社会の動きは個人ではどうにもできないのですが、求人数が減ったりや特定業種が大きなダメージを受けたりします。本人の能力とは関係なく、経済的に厳しい時期と自分が就職活動をする時期が重なってしまうと、それが社会との接点を失う機会となります。
最近はずいぶん変わってきましたが、日本の雇用市場は「終身雇用」と「新卒一括採用」というシステムが基盤になっています。 高校や大学を卒業した タイミングで仕事に就けなかったとなると、多くの方が将来像として描いている正社員や安定した就労(給与)が実現しにくくなる現実があります。
2019年には就職氷河期世代といわれる方々への支援に力を入れることを国が表明しています。この世代はバブル崩壊後の90年代の就職活動を余儀なくされました。
当時の新卒の求人倍率は1.0を下回り「ひとりにひとつの仕事」が供給されていないとき。その背景からいまも非正規雇用や不安定な就労環境に置かれていて、社会から孤立するリスクの高い環境に置かれています。
<2>
二つ目は、社会の常識やバイアス(傾向)によるものです。
学校を卒業しても仕事に就けなかった人に対して「不真面目」「怠けていたんだろ」と決めつけられてしまう時代がありました。
特にバブル期を経験した大人の感覚では、「働く」ことそのものが難しいというのは理解しがたいものでした。会社側から「どうか働いてくれ」とお願いをする世界での就職活動を経験してきた世代にとって「働かない」のではなく「働けない」ということはまったく違う世界の話でありました。
そうした苦しい環境に置かれてきた世代が40代、50代となってきたいま、「ひきこもりは怠けている、そんなのは自己責任だ」という声はだいぶ少なくなってきましたが、定年を迎えた親世代のなかにはいまもそうした感情をお持ちの方もいらっしゃいます。
私たちがつながる若者のなかに、もう働きたくない、このままでいたいと本音で言う人はほぼいらっしゃいません。こころのどこかで社会とつながっていたい、ひきこもりの状況を変えたいと考えても「怠けている人なんてうちの会社には要らない」と社会の側が許容できない状況がいまも残っています。
私たちはサポートの「出口」としてさまざまな企業にインターンのお願いやその先に就職・採用をお願いしています。人材不足で苦しいとお問い合わせをいただくこともあります。その中には「ひきこもり」経験をネガティブに捉える会社があるのは現実です。
そのなかでも、一緒に若者を応援したい、過去は不問と話してくれる会社とのつながりを大切に、若者が社会とつながるだけでなく、社会の側が若者に理解を示してくださるよう、活動をしています
<3>
三つ目は、文化的背景です。
親世代では前述したような「ひきこもり= 本人の問題」と捉えている方も多く、身内にひきこもりがいることを恥ずかしいと考える方もおられます。
東京の立川市を拠点とした活動には、電車で2時間近くかかる場所から来所されている方は「家の近くではバレてしまうでしょ」と話されていました。
支援につながることができたこのケースはまだよかったと思いますが、誰にも相談できない、支援も求められない、周りに知られてはいけない秘密と隠し通した結果、親の定年で人生のゴールが見え始めてきたころ「この子の将来は」と急に心配が膨れ上がって、支援につながったころにはすでに10年以上の時間が過ぎていた…そんなこともありました。
旧態の社会の方がひきこもりに対して厳しい社会であって、現代の方が、問題の理解や支援者が増えているとは思います。
ただ、いちばんの問題は「ひきこもり」という問題が、現在まで個人やその家族の問題と考えられていて、周りを頼っていいことなのだと知ってもらうことが大切だと考えています。
③育て上げネットはどのような取り組みを行っていますか?
◼️若者を対象とした就労支援活動
育て上げネットは、主に若者(15-39 歳)の方を対象とした就労支援活動を行っています。
専門スタッフへの相談やグループワークなどで、ひきこもり状態にある若者と社会とのつながりをゆるやかにつくっていきます。
また、若者を応援したいという企業の協力を得て、インターンシップなど社会体験の機会も提供しています。
支援を利用する若者の多くは「どうしたらいいかわからない」と悩みを抱えています。支援スタッフや同じような悩みを持つ若者との関わりを通じて、自立に至る道筋を整理し、少しずつ成長を実感しながら、自信を身につけることができます。
そうして社会との関わりを肯定的に捉えられるようになると、若者は自然と「働く」を意識するようになります。考える余裕が出てきますし、ひとりではない安心を感じてくださっているようです。
その他、家族の問題や中高生を対象にした相談事業や学習支援も行っています。ここまで触れてきた通り、ひきこもり状態に陥る原因には外的要因が多くあるので、当事者の周辺を支えることで予防的な活動を行っています。
④ひきこもりを防ぐために私たちにできることはありますか
◼️孤立する前につながりを持つことが大切
例えばアメリカではひきこもりというのはあまり見られない状態です。
アメリカでも社会から孤立する若者はいるのですが、成人年齢になると家から出ていく、独立という考え方が根強く、そもそも家に居続けるものではない文化もあります。
ただ、だからといって全員が円満に社会的な自立を果たしているわけではなく、ホームレスなどの別の事象として見えてきます。アメリカに住む方に直接聞いたお話では、” スラム ” もその形のひとつです。
(※最近では、欧米でも家から独立しない現象が増えてきているそうです)
「ひきこもり」はともすると身内だけの問題に感じるかもしれません。
別の見方をすれば生死にかかわるハイリスクな環境に陥りにくい状況ともいえるかもしれません。家にいられるというのは、衣食住が確保できる環境でもあります。
マズローの5段階欲求説を参考にすれば生命の安全が保たれることはまず最初に達成すべき点であります。そういう意味では、社会復帰のために大切な要素を保つことできているのかもしれません。
もちろん、ひきこもりを防ぐための活動はたくさんあります。
私たちの場合、学校との連携を強化して、学校のなかで相談できる場所を作ったり、ソーシャルワーカーの方々との情報共有機会を増やしてきています。
早い段階から私たちのような支援団体と関わることは「なにかあったときに頼って良い場所」が あることに気づいてもらうことでもあります。早期であるほど深刻な孤立状態を避けることにもつながり、支援にかかる時間を減らすことができます。
ひきこもりを防ぐには孤立する前につながりを持つことが大切です。
しかし、予防だけですべてが無くなることはありません。社会は常に変化し、新たな孤立に至る問題が生まれ続けます。
防ぐことと等しく大切なのは、若者の境遇に理解のある社会を作っていくことでは ないかと思います。ひきこもりが問題なのではなく、ひきこもりが問題になってしまう社会の考え方やあり方を変えていくことも必要なことだと考えています。
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