NPOで働くこと
企業の人手不足とNPOの人手不足
若者の就労支援をしていて、この20年間で大きく変わったのは企業との関係です。就労支援は、そのひとに合った「働く」と「働き続ける」を一緒に考え、その実現のために伴走することだと考えています。
就職は「働く」のひとつの選択肢で他の道もありますが、多くの若者が就職(≒雇用される)を目標にしています。その実現のためには、若者の採用可能性を検討してくださる企業と強く連携しなければなりません。
採用枠がなかったり、募集をすればいくらでも応募があるなら、わざわざ若者支援NPOと組む必要はありません。社会貢献を起点にした関わりや、戦略的に採用チャネルを複数持っておこうと考えない限りは、候補にも挙がっていないと思います。
しかし、若者が減り、働き手が不足する昨今、さまざまな企業の社長や採用担当者から声がかかるようになりました。
あの手この手を尽くして人材確保を工夫されるうち、若い世代の働くことを応援するNPOがあるらしい、ということでたくさんのご連絡をいただきます。
ただ純粋にマッチングするだけですと「働く」支援で留まりますので、職場見学や職場体験、インターンシップなどの機会を作っていただき、若者たちが「ここで働きたい」と思って求人に応募できるようにしています。
採用できても、できなくても、若いひとたちを一緒に応援しようと、寄付を通じて活動を支えてくださる企業も出てきました。
若者からすれば、自分(たち)を応援してくれる企業というのは、それだけで気になる存在になっています。
当然ですが、働き手が減ることは、NPOにとっても採用に影響があります。特に、企業とNPOを同じ条件面で検討する方々にとっては、まず目が行く給与面は大きいと思います。
その一方で、採用説明会のお申込みや、日々のコミュニケーションのなかで、一定の応募をいただけているのは、給与面だけではない側面、NPO活動そのものに関心を持っていただけるのかもしれません。
育て上げネットでは、2025年度の職員採用説明会を行っています
NPOは、他の法人格と比較して給与を抑えないといけないわけではありません。法人格の比較、NPO間の比較、類似業種間の比較では平均より高いNPOもあります。
また、リモートワークや、働き方の柔軟性など、一般的な働き方と比較して、職員自身が「働きやすいからこっち」と、条件面で選ぶこともあります。
給与をあげたくない経営者はいないと思いますが、昨今の大企業の新卒採用に対抗するような大幅な初任給増額は難しく、特に公共事業など人件費の枠組みを大きく工夫できない案件もあります。
例えば、総額に対して配置人員が決められていたり、長期的な視点を持ちづらい制約になります。
そのような制約を含めて、給与もしっかりしていきたいと思いながら、それだけではない部分でもやれることをやっていくしかありません。一般企業でもやっていることをやる視点と、NPOならではの視点を大切に考えています。
人事制度のアップデート
少し狭い領域になりますが、特に対人支援の分野で働かれる方々から、「人事制度が(ほとんど)ない」という話を聴きました。
当然、創業期に制度がしっかりしているということは難しいわけですが、何に向かって頑張ればいいのか。法人と個人の相互関係のなかで評価される指標・視点は明文化されているのか。どうしたら職域や給与があがるのかなど……
ブラックボックスだと、働き手が不安になります。
育て上げネットも、創業してからしばらくは人事制度はほぼない状態でした。それを少しずつ改定しながら、いまもアップデートを繰り返しています。
誰もが職域をあげていきたいとか、マネジメントになりたいというわけではないのは、対人領域の特徴のひとつだと思います。
若者に直接貢献したいという職員にとっては、マネジメント職に就くインセンティブを感じにくいと思います。その点では、対人支援に特化するキャリアパスを準備する必要があります。
また、法人にとって特異な才能やスキルを持っている場合は、みんなと同じ物差しでは比較しようがありません。
そのため年度の目標を個々に定めて、その目標がどうなのかを相互に確認したり、等級制度を複線化したりと、試行錯誤しています。
一般企業なら当たり前かもしれませんが、通常の売上、寄付、助成金、公共事業などを組み合わせ収支の在り方が多様化する法人では、人事評価を作るのは結構難しいところがあります。
自分たちだけの世界にならないよう、外部の有識者の力も借りて、人事制度を改善できるように努力しています。
現場が先で、事業化を目指す
どんな分野でも現場で見つけた課題やイノベーションの種を開発し、それを事業化するのが一般的だと思います。
NPOも対人支援領域では、現場で見つけた若者の悩みや不安が事業の種になります。
大切にしているのは、ひとりの若者の悩みを解決・緩和することで、結果としてたくさんの若者のためになること。
その上で、それをいかに事業として、社会性と事業性を両立させるのか。とても難しいことです。
例えば、あるときひとりの職員が「夜、(事務所を)開けられませんかね?」と階段で声をかけてくれました。
コロナ禍で集まること自体が難しくなっていた時分のことでした。そうなると自宅にいる時間が増えますが、自宅に居場所がない。家にいたくない若者がいると言います。
それを聴いて、まずはやってみようと小さく始めました。
2022年の開始当初は、毎回10名前後が「夜のユースセンター」に来ていましたが、現在は、毎回40名から50名の若者が利用し、年間で約1,500名を越えるペースです。週一回の開催です。
家にいられない若者の居場所を作る。
社会的な必要性のある取り組みとして、法人として事業化に乗り出しました。
しかし、場所、職員配置、夕食や持ち帰れる食糧など、利用者から参加費を取ることができません。来所する交通費を出せない若者もいます。事業にするには難易度が高いものでした。
それでも、同じころ「トー横」や「グリ下」など、夜間に繁華街に出ざるを得ない若者や子どもたちの現況がメディアで取り上げられ、居場所を見出せない若者に注目が集まり始めました。
そうした背景もあり、マンスリーサポーターの方々、そしてふるさと納税制度を利用したご支援などを通じて、3年度目を終え、4年度目の目途が立っています。
何人くらいのニーズがあるからやろうではなく、特定の若者のためにやる。結果として、同じニーズを抱える若者もいることがわかる。それを何とか事業にする。
これを法人全体で取り組んでいます。
さまざまなつながりの若者支援
2025年度職員採用説明会の開催は、若者支援を仕事にする、NPOで働く仲間を募るものです。
職員と言っても、対面/オンラインという働き方のみらず、雇用形態も多様です。例えば、本業がありながらNPOで副業/兼業的にかかわる職員も増えました。
公務員兼業という形で、その経験をNPOで生かしてくれる職員もいます。また、フリーランスとして専門スキルを持って仕事をしている傍ら、若者とかかわる仕事を業務委託という形で担当してくれる職員もいます。プロジェクトマネジメントや対人支援など、役割も多様です。
特に、コロナ禍を経て設立したオンライン支援(育て上げオンライン)は、オンラインであることから職員の居住地を選ぶ必要がなくなりました。
いまは北海道から熊本まで、もともと遠方で暮らしていた職員、子育てやパートナーの転勤によって新しい土地で暮らすことになった職員などもいます。パートナーの転勤ごとに、そのエリアで新しい仕事を見つけてきたという職員も、その必要がなくなりました。
働き方や契約形態の柔軟性は法人格を選びませんが、私が知っている限りでは、特にリモートワークや時短労働など、NPO領域での働く柔軟性は総体として企業にくらべて高い印象があります。
だからこそ、仕事選びの諸条件のなかで、結果としてNPOにあたるという職員もいるのだと思います。
新卒から定年後のセカンドキャリアまで
育て上げネットでは、特別新卒者に絞った採用をしているわけではありませんが、学生時代にNPOで活動しており、そのままNPOを目指す職員もいます。
また、ずっとNPOで、育て上げネットで働きたいと考えてくださり、営利企業でひととおりのゴールが見えたころに、セカンドキャリアとして仲間に加わってくださった職員もいます。
どこの組織でも社員・職員は多様だと思いますが、育て上げネットは、本当にさまざまなキャリアを持つひとたちが多いと思います。
それは、私たちがかかわる若者や子どもたち、保護者にとって、相性が合う職員がいやすい環境でもあります。
また、よく職員と話すのですが、一度の人生でNPOを選んでくださったのだから、NPOでしかできないこともぜひ経験体験してくださいと伝えています。
いろいろありますが、わかりやすい例としては「寄付」です。あまり一般的な企業では日常的に寄付を募ることはないのではないでしょうか。
限られた予算で最大限効果のある支援も大切ですが、これだという支援にあてられる予算が限られていれば、ボランティアの方々やお金や物品・機会の寄付などを募ることもNPOならではの働き方です。
寄付した経験はあっても、寄付を募った経験者は多くありません。
それでもクラウドファンディング、チャリティランナーなど、実際に若者や子どもたちのために立ち上げたプロジェクトに、家族や友人・知人、見知らぬ方々が関心を寄せていただける経験はなかなかありません。
もちろん、基本的には法人としての取り組みとしてやりますが、ときに職員が自ら起点となって(知らない間に)寄付を募っているのは、NPOならではだなと思います。
いつか一緒に活動するかもしれません
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。私たちは2025年度に向けて採用活動を開始しました。
「いつかはNPOで」「若者のためにいずれは」という方々もいらっしゃると思います。採用説明会は、短期・中期・長期・遠い未来を含めて、NPOで、若者支援で、育て上げネットでかかわってくださる方々にもぜひ参加していただきたいと考えています。
みなさまと、いつの日にか一緒に若者たちのために活動できることを願っています。
育て上げネットでは、2025年度の職員採用説明会を行っています
育て上げネット 理事長
工藤 啓
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