妹と串揚げを食べた話
今日、妹とデパート7階のハゲ天で「レディースセット」1650円を食べた。
妹と食べた、といっても、半分ずつ分けたのではなく、当然ながら1人につき1人前を注文した。
先に妹の人となりやわたしとの関係を説明をするべきだろうか、それともハゲ天ってすごい店名だよなあという話に飛ぶべきだろうか、すんなりレディースセットの内容に入るべきだろうか。読者の方にはどの順番で説明したらいいか迷う。こういう迷い戸惑いが、書く人の手をいつも止めるのだよなあと思う。
結論から言えばどこから書いてもいいのだ。原稿用紙だって切り貼りできる、ましてパソコンで書いている文章である。況んやなんとかをや、である。思いつくまま気ままに書いて、論理的整合性や、読みやすさ、わかりやすさなどを加味して並べ替えればいい。とベテランライターらしく見切りをつけて続けるよ。
妹と待ち合わせしたのはそのデパートだった。日程を決めたときには、1階の改札かなと思っていたが、そういえば先月リニューアルした2階のカフェもいいなと思い直し、そのあと、「友の会」※のある4階のほうがいいかと考えが変わり、先に着いた妹が6階の「北海道フェア」を見て待っているというのでわたしの移動中に6階に移り、直前に「北海道フェアがとても混んでるから上の階のレストラン前で待ってる」ということになった。
待ち合わせの場所が、下から上へ、時を追うごとに上がっていて、たいへん縁起がよろしい。
※友の会というのはさまざまなデパートに存在しているが、そのデパート独自の積み立システムである。1年間毎月現金を積み立てると1ヶ月分が上乗せされた商品券がもらえる、1年間は先に積立という縛りはあるが、大変利回りの良い仕組みで、今回このデパートの友の会の紹介キャンペーンで妹を紹介し、2人で粗品を貰う、というミッションもあった。
店のセレクトは先に着いていた妹に一任した。「あまり1人で入らないような店がいい」と彼女が選んだのが「ハゲ天」であった。
果たして当該店舗の前に行ってみると、あれ? 妹がいない。先月実家であったばかりなので、見間違ったり見失ったりするほど、お互い容姿は変わっていないはずだが、と思いながら探すと、思ったより奥の方にいた。
ふと見るとそこも「ハゲ天」入り口前である。
店員さんに誘われて2人で店内に入り、席に着く。
わたしはこの店には夫と何回か来ているはずだが、どうにも店内の様子が少し違う。よく見るとランチに天丼がない。リニューアルしたのかなと思いながら、「レディースセット1650円」を2人とも選んだ。
この「レディースセット1650円」は、ドリンク、串揚げ6本、茶碗蒸し、味噌汁、ごはん、漬物、デザートのセットであった。
ドリンクは数種類から選べるスタイルで、ウーロン茶、ジュースのほかに、なんとグラスワインと、ビールもあった。ねえねえ、串揚げって聞いてビール飲まずにいられる大人がいる? 妹もわたしもこの後仕事があるにも関わらず、いいよね。1杯くらいいいよね、と言い訳じみたことを一応形ばかり口にして、堂々とビールを頼んだ。
冷えたビールと揚げたての串揚げについては何も語るまい。冷えたビールと揚げたての串揚げ、という単語から連想される「くわぁーーっ!!!」という、雄叫びにも似た、腹の底からわき上がる「うねり」が全てだ。似たような生理的快感には、少し熱めの風呂に浸かった際の「ふぉおーー……」がある。どちらも唯一無二。身体の奥の方から沸き出でる命の愉悦とでもいおうか。
ところであなたは女性のくしゃみを聞いたことがあるか。あるだろう。男性、特に高齢男性のそれが総じて「ふわっくしょい!」とあたりをビリビリ震わせるほど大きいのに対して、女性のくしゃみの多くは「くちゅん」と小さい。くしゃみは生理現象で衝動ではあるけれど、喉や鼻孔を調整することである程度は響きを抑えられる。おばさんである私はそう思っているけれど、おじさんである夫によると、おじさんにはそれができないのだそうだ。
その結果、鼻腔や口腔に共鳴しておじさんのくしゃみは大音量となる。
無邪気でダダ漏れなおじさんのくしゃみを大爆発、あるいは「力の解放」とするなら、恣意的にコントロールされたおばさんのくしゃみは小爆発、あるいは「力のちょい漏れ」といってよい。わたしたちおばさんは、大きくくしゃみをせずに、小さなくしゃみをたしなむ。
なぜ突然くしゃみの話をしたかというと、身体の内側から沸き出でるものを、どう表面に出すか、という面において、似ていると思ったのだ。
決して大きな声で「はっくしょん!」と発散させないように、「ぷはーっ!!」とは言わない。かわりに可憐な小声で「ああ……」「おいしい……」などと虚空を見ながら何度か呟く。
そうして、ビールと串揚げが作り出すうまさのバイブスに、ちんまりとこの身を預けながら、より深く、うれしく、いつもより少し贅沢な食事を楽しんだのであった。
デザートのゆずアイスもすこぶるおいしゅうございました。