「仕事だから仕方ない」に漬け込んだ報い
NHKの朝ドラ「虎に翼」の放送が終わった。
いまはNHKオンデマンド(Amazon経由)で2周目を観ている。
今後の人生で、あと何周も観るだろう。それくらい好きな作品だ。
その66話で寅子は、新憲法に合わせて星長官の著書「日常生活と民法」を改稿するお手伝いを引き受けたが、そのことで休み返上で手伝うことになったと家族に伝えたとき、花江が寅子にかけた言葉が引っかかった。
「もう決めてきちゃったんでしょ。お仕事なら仕方ないわよ」
ドラマを観た人なら、このあとの展開はわかるだろう。寅は家族を気遣う言葉をかけるも表面的。仕事人間は家族と居ても心そこにあらず。家族と心が遠ざかり、優未はおりこうさんを装って、ついに親子関係にヒビが入る。
「仕事だから仕方ない」
この言葉には花江の優しさがこもっている。仕事よりも家族を大切にする花江が、仕事を楽しんで夢中になっている寅子を支えるためにちょっと頑張って紡いだ言葉。その優しさに寅子は漬け込んでしまったのだ。
この言葉は今はもはや定型句。だけど花江のような被扶養者の言葉ではなく、稼ぎ頭が当然の権利として使うことがある。優しさに漬け込んでいるだけでない。それはまるで家庭の責任を放棄する当然の権利のように。
ここにも家父長制の力学がある。力あるものは言葉を自分の都合に合わせ、解釈を押し付けられた立場の弱いものは人権を軽んじられる。
言いたくない苦言も花江の優しさ。反省して身の振り方を改めて、信頼を回復に向けて何年も努めてきた寅子。優未と撚りを戻せて良かった。
優しさに漬け込んで失ってからでは遅いのだ。