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『恋愛社会学』が気になる人のためのnote:③-1 齋藤直子×永田夏来──「親が気にいる相手と」恋愛する?

この記事は、10月7日にナカニシヤ出版より発刊された『恋愛社会学: 多様化する親密な関係に接近する』について、寄稿者の1人である齋藤直子と、編者の1人である永田夏来がスペースにて行なった雑談を記事化したものの前編です。こちらから元の音声を聴くこともできます。

また、今回の記事にはセクシャルマイノリティや障害・持病にまつわる差別についての言及があります。

文字起こし/編集:小阿瀬達基

前回の記事はこちらから。

教育大勤務社会学者あるある。

永田:もしもし?聞こえてます?

齋藤:聞こえてます〜。

永田:おさいさん、今日久しぶりだよ〜!

齋藤:ご無沙汰ですねー、いきなり表で喋る前にちょっと会っとけよみたいな感じですが……。

永田:お互い忙しいからね。

永田:そうよね〜。ちょっとここんところ我々の忙しくなりぶりがちょっと異常っていうかさぁ。

齋藤:そうですね。社会学、教育の世界、趣味も忙しい……みたいな。

永田:趣味は忙しいよね〜!もちろん!!

齋藤:普通の社会学者としての仕事に加えて、教育業界があるからね……私たちは。忙しいよ、やっぱり。

永田:教育業界ねー……私も教育大に勤めてて、おさいさんも教育大に勤めているので、通常の大学とは違う仕事があるわけですよ。

齋藤:あるわけですよ。

永田:例えば、教育実習の訪問指導ね。学生が実際に学校へ行って、授業の練習するっていうのを経験しないと教員免許取れないわけなんですよね。

齋藤:うん。

永田:で、それを見に行かないと……行った?おさいさんは。

齋藤;実は、来週がそれのラッシュで。

永田:マジか!そのときはネイビーのワンピースを着ていくと良いですよ。

齋藤:そう、そうなんですよ。

永田:そうなんよ。

齋藤:私もこの3年で、スーツっぽい服とかすごい増えました。

永田:いや、わかる。

齋藤:社会学者でいるときは、別になんでもええやんて感じなんですけど。

永田:なんなら電気グルーヴのTシャツでもまぁ、そんなに怒られない(笑)。

齋藤:それでネタ振ってくれるかも?ぐらいの感じですよね。

永田:だけど教育大はね、そうはいきませんから……。

齋藤:そうはいきませんから、もちろん。ちょっと思うんですけど……こっちはめっちゃスーツなのに、受け入れてくれる向こうの先生たちはジャージみたいなことも多いんですよね。こっちはジャージじゃダメっていう。

永田:そうそう。しかも難しいのが、あまりにもオシャレすぎるスーツはちょっと……って感じなんでね。

齋藤:ね。

永田:ね。

齋藤:落ち着いた感じじゃないといけないっていう。

永田:絶妙なところを狙わないといけない……いけないわけじゃないんだけど(笑)その方が馴染みやすいっていうかね。

齋藤:永田さんは兵庫で、私は大阪なんですけどね。子供って何か知らん人がくると「誰来たん!?誰来たん!?」みたいな感じになるから、あんま存在感を出さないようにする方がね(笑)。

永田:ほどよく馴染む感じでね。上手いこと風景と同化できるぐらいを目指して……こんな感じのこともあって、難しいというか……まぁ、ちょっと社会学とは違う界隈ですよね。

齋藤:界隈ですね〜。

永田:あたし、今でもあれですよ?おさいさんと一緒にグランフロントの公園でさぁ……パックのジュース飲みながらだらだら喋ってたのがさぁ(笑)。

齋藤:あれ、青春やったなぁ(笑)。

永田:青春つっても、ほんの2年ぐらい前の話なんだけど(笑)ああいう時間なぁ……いま思うと贅沢だったよね。

齋藤:ほんまほんま(笑)夜、外で座ってお茶飲むって最高ですね。

永田:そうそうそう。

齋藤:地べたに座ってお茶飲んで。

永田:楽しかったよなぁ。またやりましょう。

齋藤:梅田の地べたに座りましょう。

家族社会学、数珠つなぎ

永田:このたび、ナカニシヤ出版から『恋愛社会学 多様化する親密な関係に接近する』という本が出ることになりまして。それがあまりにも嬉しいので、書いた本人たちが本の良さを語り合うっていうスペースです(笑)。

齋藤:良い本です。

永田:ありがとう!(笑)そして、本日のゲストがこちらです。

齋藤:大阪教育大学の齋藤直子です。

永田:はい、よろしくお願いします。おさいさんに……いや、私は齋藤直子さんを「おさいさん」って呼んでるので、もう「おさいさん」でいこうと思うんですが……。

齋藤:あ、はい。Twitterの名前も「osai」なんで大丈夫です。

永田:これ、身元を隠してるのかと私は思ってたんだけど……。

齋藤:あ、いや別に……昔からずっとこれなんですよ(笑)。

永田:まぁ、誰だかはわかるやろって感じだしね。で、おさいさんと私はいろんなところで一緒に仕事をやらせていただいておりまして。いつ出したのか忘れましたけど『入門 家族社会学』っていう……。

齋藤:2017年ですね。

永田:すごいね、よく覚えてるねぇ(笑)あれにも書いていただき……またもや自画自賛なんですけど、私が話したいことの前提部分って、おさいさんがいつも上手いこと書いてくれるんですよ。

齋藤:あ、そうそう。それで、私が書きたいことの前提部分はいつも阪井裕一郎さんが書いてくれる(笑)。家族社会学、数珠つなぎみたいな。

永田:お互いに引用しあっているというか(笑)。なので、おさいさんが本にいてくれると良い感じに分担ができて私が助かるんです。なので、いつもお願いさせていただいてるわけですよ。

齋藤:家族社会学って、あることを説明するためには3歩ぐらい遡らないと説明できひんから、1人でパッと短くは言えないんですよ。

永田:そうなんだよねぇ。

齋藤:お互い、この部分は誰々さんが説明してくださってるんで……みたいなのがすごく大事なんですよね。

永田:そうそうそうそう……ということで『恋愛社会学』はですね、恋愛について社会学的に考えた本で……。

齋藤:恋愛の、社会学です(笑)。

永田:そうなのですが(笑)大きく3つのパートに分かれるんですね、今回の本は。第一部は、社会制度の観点から恋愛と結婚について書かれてる。第二部は、とりあえず男女の恋愛……結婚を想定するような、よくある「恋愛」がどういう感じなのかっていうことを分析する。雑誌の分析、質問紙調査、インタビュー調査、日中比較……という感じの、いろんな角度でね。第三部は、いろんな「恋愛」の形が出てきて……めっちゃ楽しいです。おさいさんには、第一部のところを書いていただいたんですよね。

齋藤:はい。

永田:「恋愛と結婚における親の影響」って話ですね。ざっくり説明すると、どんな話なんでしたっけ?

「恋愛と結婚における親の影響」

齋藤:結婚のとき……あとは恋人ができるときにですね。親が気に入るかな?とか、周辺の人たちが気にいってくれるかな?みたいなことを考えたりってせぇへん?みたいなところから話が始まってまして。「好きになったらそんな関係あれへん!」っていう人もいると思うんですけど、家族社会学の先行研究を見てるとやっぱり、歴史的に「親が気に入る人」って条件をどこかで織り込んでるんちゃう?みたいなことが言えるんですね。「親が口出すのなんか当たり前じゃない?」と思ってる人もいるし「出されたくないけど言うてくるよな〜」みたいな人もいるなっちゅうことで、それがどういうところから来てんのか?って話を少し歴史的に説明したあと……あれ、聞こえてる?

永田:うん、もちろん聞こえてるよ〜。

齋藤:あ、ごめんなさい。静かになったので聞こえなくなっちゃったかと……。

永田:いや、うんうん!とか言ってたら聞こえにくいかな?と思って黙ってた。

齋藤:すみません、ありがとうございます。実は、昔から延々と親が口出してきたわけではないんですよね。特に、庶民に関してはここ100年ぐらいの話で。親の影響力って時代によっていろいろ変わるんやで〜という話をした上で、じゃあ今どうなん?って話なんですよ。やっぱり「いまどき、親の影響とか関係なく自分で決めてるよ」みたいなこと言うけど、人権意識調査とかを見てたら、親が「相手がマイノリティーやから」って理由で反対したら諦めるかな……っていうのが結構数字で出てるんですよね。だから、自由に相手を選んでると思いつつも実は、親がやめときって言うような人はどうしようかなあ?って思ってるとこがないですか?ってことを問うような内容を書きました。

永田:うーん。めっちゃ重要。おさいさんの話でむちゃ重要なのは、まず「親の影響」ってのを歴史的なコンテキストに置いたってところよね。結婚に親が介入してくるっていうのは、シンプルに考えるとイエ制度の影響みたいなこともあるじゃないですか。結婚の相手はお父さんが決めます!みたいな……それで、イエ制度・家父長的な制度の介入も弱まっていった結果、制度的な家族から友愛的な家族になったんだ!みたいな話もあるんだけど……そんな単純な話ちゃうで、ってところが面白いですね。

齋藤:そうなんですよー。ほんで……あ、私『寅に翼』観てないんだけど……。

永田:え、私見てて超詳しいから何でも言えますよ!

斎藤:あ、やった。私、終わってからまとめて観ようと思ってるんですよ。でも、友達が毎日長文の感想を書いてるのとか見てて……あれ、身元調べの話とか出てきたりしてるんですよね。あれは就職差別か何かの話なのかな?で、結婚と就職が二大身元調べの対象なんですよ。それで、身元調べって今だに結構されてるんですよね。

永田:そうだね。

斎藤:全然昔の話ちゃうし……今って、相手の社会的身分とか、マイノリティ性があることを探偵さん使って調べるのは探偵さんの側が探偵業法違反になっちゃうんですよ。探偵さんも、そういう身元調べを依頼されたら断れって法律に書いてある。やけど……行政書士さんがね?行政書士ってあの『地面師たち』で「もうええでしょう!」って言ってる……。

永田:もうええでしょう!(笑)

齋藤:あれ、行政書士ですよね?やっぱりお金に困って悪いことする人が一部にはおるんかなぁ〜って、ちょっと思ってたんですけど(笑)食うに困った行政書士の人が、自分の業務で取得して良い範囲を超えて戸籍を取得して横流ししてる……っていうの(事件)があるんですよ。

『地面師たち』に登場したのは「司法書士」だったみたいです。

永田:怖!

齋藤:「うち、マイノリティーやないから関係あれへん」って思う人もおるかもしれないんですけど、マイノリティーだけの問題ではないんですよ。京都市が不正に調べられた本人に「あなた調べられてますよ!」みたいなことを通知したんですね。そしたら、ストーカーの被害者が結構いてたんですよ。だから「結婚差別や就職差別でマイノリティーを避ける」みたいな話とストーカーの話って結構つながっているところがあって……他人事じゃないし、今も結構ありますっていうのが、やっぱり私がすごい言いたいことなんですよ。

永田:なるほど……それは怖い。怖いっつーか……。

齋藤:めちゃめちゃ怖いでしょう。

永田:怖いでしょう!普通に〜。

齋藤:ほんでしかも、不正に身元を調べられてる市民がいることを行政が知っても「あなた、全然知らん人から不正に調べられてますよ」みたいなことを本人に伝える枠組みがなくて。

永田:えー!

齋藤:不正に調べられてる市民がいることを知ってても、本人に言うてへん都道府県がほとんどなんです。京都(市)以外は伝えるための枠組みがないんですね。

永田:えーっ。

齋藤:だから、皆さんの中にも不正に調べられてる人がいるかもしれないんですよ。大阪府内でも何十人かが(戸籍の不正取得事件に関わった)行政書士の不正の被害者になってて……人数はわかってるんですけど、本人にはまだ伝えられないんです。だから、今それを伝える枠組みを作ってるとこなんですけど。……怖くないですか?「あなた、ストーカーに身元調べられてます」って言われるんですよ。

永田:怖〜。

齋藤:そう考えると「私マイノリティじゃないから関係ない」じゃないんやで!って話じゃないってめっちゃ思うじゃないですか。

永田:もちろん……すご……怖い……。

齋藤:それで『地面師たち』を観てて「こんな行政書士、あかん!あかん!」って思って(笑)。

永田:ほんまそれやな(笑)いやー……こんなとこまで話が広がると思ってなかったから「そうやったんやー!」っていう新しい学びがありますわなぁ。でも、今回の原稿ではそこまで書いてなかったよね?

齋藤:そう、原稿ではその手前までしか書いてなくて。

永田:だから、アレンジ婚の話かな?今回書いてくれたのは。

齋藤:そうですね。今回、教科書として読めるように基本的なところをコンパクトにまとめてるです。けど、本当はその周辺の部分……特に私、本当の専門は差別問題なので、そこから展開していきたいところがすごくいっぱいあるんですよ。

マッチングアプリという、現代の「見合い婚」


齋藤:最近結婚した人のうち、マッチングアプリで出会った人が25%ですよ!みたいなニュースがあったじゃないですか。そこで1つ疑問が浮かんで。何らかの社会的マイノリティーであるとか、障害や持病があるとか……そういう人たちってそれをどのタイミングで、どこまで開示しなあかんのやろとか、言うとか言わへんとかの選択がどういった感じであるんやろうと。それで最初から「マチアプは無理やな」ってなることもあるんじゃないかなって。

永田:ありそうだね。

齋藤:双方がマイノリティーだったら、専門のマッチングアプリがあったりするんやけど、一方がマイノリティーの場合は、それに特化したアプリがあるわけでは無いわけやから……これってどうしてるんやろ?と思って。見合い婚から恋愛婚に変わって、そこからマッチングアプリっていうある種の見合い婚に戻って……そして、見合いって元々マイノリティー排除の仕組みを内包してたわけだから

永田:確かに気になるねー。マッチングアプリって興味深くて、条件をいろいろ入れていくわけよ。タバコを吸うとか吸わないとか、デート代は割り勘が良いとか奢りが良いとか、よくある身長とか年収とか以外にも、いろいろ条件を入れるみたいで。けど、そういう項目が細かくなればなるほど、そういった条件を前提として結婚相手を選ぶことが可視化されるって怖さがあるよね。

齋藤:自分の場合、やっぱり「差別するような人と結婚するのは嫌やな」ってのは結構大きかったと思うんですよ。でも、じゃあなんの差別がどうって細かく言えるのか?とか、条件として明確にできるのかなぁとか、そもそも人としての前提条件じゃん?……とか、色々と私のなかではあるんですけど。大事な条件なのに、チェック項目として入れられない感じがするじゃないですか。ただ、そんなの「会って話さんとしゃーないやろ」という気もしますけどもね(笑)。

永田:まぁ、あれやんな……例えば、子供を持つのが難しい病気を持っているとか。そういうのをどこかのタイミングで言わないといけないのって、多分マッチングアプリに限らないから。

齋藤:あー、そうですね。

永田:そう考えてみると、もちろん差別の対象になるような属性があるとか、いわゆるスタンダードな「結婚」とそぐわない考えなり事情なりがあるときに、何をどこまで話すのか?って難しい話だよね。

齋藤:ただ、それって伝統的に社会学がやってきた話でもあって。例えば軽度障害の人みたいに、ぱっと見では障害がわからない人がどう打ち明けるかについての研究とか……カミングアウトとかパッシングの話って、結婚関係に限らず社会学がずっとやってきたことでもあるよなって思うんです。

永田:でも「結婚」の場合、それが制度化されやすい……前提として受け入れられやすい。「結婚」なるものの硬直性みたいなのが見えてくるよね。

齋藤:そうそう。「結婚やったら、話は別でしょう」みたいに正当化されてしまうような、そういう瞬間だろうなとはやっぱり思います。

永田:だよなぁ。おさいさんが結婚を論の軸にしているのってすごい良いなぁと思ってるんだけれど、それは私がおさいさんのファンだからってだけではなく……。

齋藤:まぁ!(笑)

永田:(笑)たとえば、友達にセクシャルマイノリティーがいるのは良いけれど、子供の結婚相手だったら嫌だとかさ……本にもあるけど、結婚が絡んでくると急に硬くなるんだよね。

齋藤:そうそう。1965年に、国をあげて部落問題に取り組まなあきませんよって方針が出たんですよね。そこでやっぱり、結婚について「最後の越え難い壁」って書かれてて……。

永田:ちょっと待って、それ何年の話?もう一回……。

齋藤:1965年。

永田:マジでか!60年代に越えがたい壁って言ってて、まだ引きずってるんか。やばいねぇ……。

齋藤:就職差別とかでもそうなんですけど、結婚での差別はやっぱり1番根強く残ってるなと思いますね。

永田:イエ制度的なさ……家同士のつながりが〜みたいなものが実体を持ってあるんだったら、身元とかを気にすることにある種の必然性があるのかもしれないけど、一般的には違うじゃないですか。

齋藤:そう。かつては「俺の言うこと聞かんかったら家業も田畑も継がせへんぞ。そしたらお前は食べてけるんか。それでもその結婚をするんか」みたいのがあって「ぐっ……」ってなってたわけですよね。でも、今って親の世話がなくても仕事につける。じゃあ、親に結婚を反対されたとて何が困んねん!ってなるはずなのに結構「やっぱり親が反対するなら……」ってなる。これはなんでかな?っていう。

永田:たとえば政治家とか、大会社の社長とか……世襲がどうとかっていう家なら理解もできる。だから良いってわけじゃないけど……そういうわけでもない一般的なサラリーマン家庭なら、なおさら何を気にすることがあるの?みたいなところがあるよね。

齋藤:「なぜか残っている差別問題」について考えると、やっぱり家族社会学が見てるものと重なってくるんだよね。やっぱり家族のことを考えなあかんな!って思って、家族社会学へ急激に接近していったんです。

永田:ようこそ(笑)

齋藤:こんにちは(笑)

家族社会学と差別問題の接近

永田:おさいさんの研究が良いなって思う理由、もう一つがそれで。90年代の家族社会学ってやっぱりその辺に接近してたと思うんだよね。家族の歴史についてとか、当たり前だと思われている「家族」がいかに社会的に作られたものか?っていう議論がすごく盛り上がってたのが、90年代の後半からゼロ年代の初頭ぐらいまでで。

齋藤:うんうんうん。

永田:ちょうどその頃に、たとえば落合恵美子先生の徳川時代の研究がスタートしたり、あるいは近代家族論……「性別役割分業に基づいた、お互いを心情的に大切に思うような家族が当たり前になってきたのは、近代化の過程と関わっているんですよ」みたいな話が超盛り上がっていたのが、私やおさいさんが勉強し始めた頃なんだよね。

齋藤:そうそうそう。面白いことに「近代家族って何?」みたいな話が出てきたのと同じ頃に、部落問題の世界でもターニングポイントがあって。戦後すぐの社会学だと、部落問題って「前近代の残りカス」として近代化に伴って無くなる!みたいなことが結構言われてたんですよ。それが90年代から2000年代ぐらいになって、あれ?って。あんだけ近代化したら無くなる言うてたけど、無くなってないじゃんて。同時代的に気付きがあったタイミングやったと思うんですよ。

永田:なるほどねー。

齋藤:そうそう。

永田:そういうことかぁ。前も言ったかもしれないけど、家族社会学者と差別問題の研究者って、同じことが気になってるってとこがあるよね。

齋藤:そうそう。青木秀男先生っていう都市社会学の方が「部落問題には日本の全てが詰まっている」みたいなことをおっしゃったことがあるんだけど、本当にそうで。都市社会学と部落問題はすごく密接に繋がってるし、そして家族社会学と部落問題もそうだし。部落問題単体で見てても、見えてこないものがすごくいっぱいあるんですけど、別の視座から見るとそれがよくわかる。

永田:そうだよねぇ。って話を踏まえて……今回は「恋愛」について書いてもらったけど、どうですか?そこにはどんな感じで切り込んだのか、あるいは切り込もうとしたのか……書いてて思ったところとか、どうでしょう?

齋藤:そうですね。恋愛に関しては、桑原桃音さんの「家族関係主体」って概念を借りまくりで。

永田:桑原桃音さんは『大正期の結婚相談』っていう良い本を書いた人です。家と恋愛の間で揺らぐ過程について、大正時代をモチーフに書いた感じの……これ博論本よな?

齋藤:そうですね。

永田:晃洋書房から出た 2017年の本ですね。これが良かった。

齋藤:「家族関係主体」って概念を桑原さんが作りはったんやけど……要するに、自分が恋愛する相手っていうのは「自分も好きな人で、家族も祝福してくれるようなもの」なんだと。「自分が好きな人」だけではなく、そこに実は「家族が祝福してくれる」みたいな要素も実は織り込まれているよ、みたいな話なんです。聞き取りしてると確かに「祝福」って言葉が出てくるんですよね。結婚のとき、親や周囲に祝福されたいってことは今も実際あるだろうし、桑原さんが書いたのは大正時代の話やけど、今もそうちゃう?みたいところはやっぱりあるなぁと思うんですね……で、まぁ恋愛というよりは結婚相手として対象を絞ってるのかもしれないですけど……「親が気にいるかな?」ってことが頭を掠めてるんじゃないですか?ぐらいのことを書いてみた感じですね。

永田:いやー、今でもそうでしょう。その話、実は私の章にも出てきまして……恋愛結婚って言ってもそれは「同類婚」つまり、自分の実家と相手の実家の……嫌な言い方ですけど「ランク」がだいたい同じ同士で結婚してるじゃん、ってデータがあるんですよね。

齋藤:うんうん。

永田:上野千鶴子さんがそれを取り上げて曰く、こんなのは恋愛でも何でもなくて、単に親が気に入る相手を選んで結婚しているだけじゃないか、と。さらに上野さんが言うことには、それって女性が恋愛結婚を通じて「自分の実家を当てにする」というルートを絶つことでもある。好きな人と結婚するために実家を放り出して、嫌な言い方ですけど「お嫁に行く」わけだから。恋愛結婚じゃなくて見合い結婚ならば、たとえば娘が結婚した先で蔑ろにされていたら、仲人を介して実家が文句を言うことも可能だった。恋愛結婚はそれをカットし、妻をより夫の支配下に置くことを強めている……そういう形の結婚なんじゃないんですか?って言っていて。それをスムーズに行うために、親が気に入りそうな相手を恋愛相手、結婚相手として選ぶことによって、娘が自ら実家の支配を離れて、夫の支配のもとに身をおくステップとして、戦後まもなくの恋愛結婚なるものは位置づけられるんですよ、って議論をしているんですね。で、私はこれを熱く引用していて、今でもそういう仕組みはまだまだ維持されているんじゃないの?ってことを書いておりますけれども……だから、恋愛結婚って曲者なのよね、本当。

齋藤:人権教育とか部落問題の授業とかで恋愛を扱う、っていうちょっと変わった授業をしてるんですけどね。学生に感想を書いてもらうと「(進学などの)人生の重要な局面で、親のアドバイスに結構助けれられた」みたいな成功体験が紹介されてて。やっぱり、恋愛のときも同じなのかな?って結構思うんですよ。

永田:あー、なかなか難しいねぇ……。

齋藤:差別はあかんで!っていう授業を受けて「でも親から(差別的なアドバイスをされたら)言うこと聞いちゃうかも」っていう感想が結構出てくるって、本音じゃないですか。だから、やっぱり結構根強いもんなんかなぁとか思ったりして。

永田:NHKが若者を対象に行った調査で「悩みごとの相談相手は誰ですか?」っていうのがあるんだけどね。たとえば中学生だったら、ちょっと前までは友達に相談するって回答が多かった。けど、最近は親の方が多くなってる、増えていってるんだよね。やっぱり、親との関係はどんどん密になっていて、重要なことを親と相談して決めることが多くなってきている……っていう若者論としても話せるんだよね。

齋藤:そうそう。現在の親子関係的も見とかんとなぁ、ってところはありますね。

永田:そうなんだよなぁ。親の意向が子供の選択にどう関わってくるのか?っていうのは堀り甲斐があるよね。ついでにちょっと言っておくと、結婚したあとに、親のサポートをあてにするってことも関係あるじゃない。

齋藤:そうそうそう……そうなんですよ。

永田:だから、親の意向を重視するってことは単に「いつまでも自立できない若者!」みたいな話にはならないんだよね。

齋藤:日本の経済状態のこともあるし、やっぱり家族主義……家族のことは自助でやってくださいね!みたいな社会では、家族を頼らざるをえないやん?ってところがある。だから「いつまで親にくっついてんの?って言われたって、社会がそうやもん」みたいなところもある、っていうね。

永田:親の意向をどうして気にしてしまうのか?って問題は色んな広がりがあって。福祉が不十分、みたいな話にも当然なっていくし、孤立して頼れる相手がいない、ってとこにも繋がるんだよね。

齋藤:結婚差別の問題に取り組んでいると「親の言うことを聞いてしまうのをどう解除していくか?」っていう実践的な課題にもなっていくんですよね。それで、色々なケースを聞き取りしたり相談を受けたりしていて思ったのが、結局マイノリティー当事者、結婚を反対されている側は何もできないんですよ。結局反対してる側の子供が、どれだけ親に強く出れるかでほぼ決まるみたいなところがあって。そう思うと、教育も大事だなって思いますよね。

永田:もちろん、教育は大事だけどね……。

齋藤:普通の人権教育は前提にしとかなあかんのですけどね。ほんまに問われるのはマイノリティーじゃない側なんですよ、っていう話はもうどんだけ強調してもしきれない。

永田:だよなぁ、でも、これもまぁしんどい話っていうかね……自分でやれることが限られてるっていうのもまたねー。

齋藤:そうなんですよ。

永田:だから社会の話っていうところになるんだけどねぇ。

齋藤:話がわかる親とほんまにわからん親ってのがいるから、子供の責任だけやないんですよ。親がめちゃくちゃな場合……例えば、自分の言うこと聞かへんのやったら私死ぬわ!みたいな感じで自死を仄めかすみたいなケースもあって、そうなるとこれまた難しい……。

永田:いやぁ、話は尽きないですが……。

齋藤:ほんとにそうなんですよ。

永田:ちょっと毛色を変えましょうかね。いま木村絵里子さんがリスナーできてるんだけど、木村さん話せたりするかな?ちょっとスピーカーで招待するので、もし話したかったらどうぞ……いや、そんな急に言われても!ってバタバタしてる可能性があるけど……もし整ったら、よかったら適当に発言してください。


こちらに続きます↓

齋藤直子(さいとう なおこ)@osai
担当:第3章
大阪教育大学総合教育系特任准教授。専門は家族社会学、部落問題研究、人権教育。
主著に『結婚差別の社会学』(勁草書房、2017)、「交差性をときほぐす──部落差別と女性差別の交差とその変容過程」(『ソシオロジ』66(1)、2021年)など。

永田夏来(ながた なつき)sunnyfunny99
担当:本書のねらいと構成、第2章、本書を閉じるにあたって
兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授。専門は家族社会学。主著に『生涯未婚時代』(イーストプレス、2017年)、共編著に『岩波講座社会学 家族・親密圏』(岩波書店、2024年)など。

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