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ATC Journal

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龍谷大学社会学部・椿原ゼミによる読書案内とエッセイ。
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#イラン

テヘランのカフェ文化 3

(3) カフェの多義性と多様化するカフェ  2000年代以降のカフェブームが起きるはるか前、20世紀前半のイランにはすでに西洋式の「カフェ」が存在した。現存する最も古いカフェの一つが1927年創業のCafe Naderiである。  創業者ハチーク・マーディキヤーンはアルメニア移民である。この頃に西洋的なコーヒー文化をもたらしたのは総じてアルメニア系の人々だった。現在のジョムフーリー通り(革命前はその名もナーデリー通りで、Cafe Naderiは通りの名にちなんでつけられた

テヘランのカフェ文化 2

(2) サードウェーブ・サードプレイス さてずいぶん間が空きましたが、その後のテヘランのカフェがどうなったかという話。  歴史をたどればイランにコーヒーを飲用する習慣がなかったわけではない。少なくとも16世紀にはコーヒーも紅茶も飲用されていた記録が残っているが、コーヒーの方が人気だった。紅茶が広く飲用されるようになったのは、19世紀以降である[Matee 1996]。以後はコーヒーハウスを意味する「ガフヴェハーネ」も紅茶を出すし、ティーハウスを指す「チャイハーネ」も紅茶を

テヘランのカフェ文化

(1) 親密なパブリック・スペース  2004年の夏、私はテヘランの語学学校に短期留学していた。学校の昼休みは家に戻って昼寝ができるほど長かった。このため授業が午前と午後にまたがる日は、クラスメートたちと一緒に昼食を食べ、公園で雑談をしたり、近場に観光に行ったりして過ごしていた。ある時、学校の近くにカフェがあるから行ってみよう、ということになった。  私はふだん紅茶よりコーヒーを飲むほうだが、イランに来てからはずっと紅茶を飲んでいた。外食しても、コーヒーを出す店が見当たらな