マガジンのカバー画像

ATC Journal

26
龍谷大学社会学部・椿原ゼミによる読書案内とエッセイ。
運営しているクリエイター

2021年10月の記事一覧

ライシテは、フランス独自の概念にあらず

〔紹介書籍〕ボベロ、ジャン(2009)『フランスにおける脱宗教性の歴史』三浦信孝・伊達聖伸 訳、白水社文庫クセジュ.  〈ライシテ〉とは何なのか?それについて、しばしばムスリマのスカーフ問題と絡めて、信教の自由の抑圧という観点から批判的な論調で語られ、あるいは「フランス独特の厳格な政教分離」と形容される場合がある[1]。しかし本書によれば、ライシテは本来、教会と国家が協力関係になることを防止し、市民の自由と権利を保障すること、宗教についていえばむしろ信教の自由を確立すること

LGBTを読みとくための「ツール」

(紹介書籍) 森山至貴(2017) 『LGBTを読みとく ─クィア・スタディーズ入門』ちくま新書.  「あなたはセクシャルマイノリティに対する偏見がありますか?」こう質問されると、ほとんどの人は、「偏見はありません。」と答えるだろう。しかし、本書の表紙には、「セクシャルマイノリティを見下す心が見え隠れする人がよく使う枕詞は『私はセクシャルマイノリティに対する偏見を持っていませんが……』です。」と書かれている。つまり、セクシャルマイノリティを無意識に傷つけてしまわないために、

テヘランのカフェ文化

(1) 親密なパブリック・スペース  2004年の夏、私はテヘランの語学学校に短期留学していた。学校の昼休みは家に戻って昼寝ができるほど長かった。このため授業が午前と午後にまたがる日は、クラスメートたちと一緒に昼食を食べ、公園で雑談をしたり、近場に観光に行ったりして過ごしていた。ある時、学校の近くにカフェがあるから行ってみよう、ということになった。  私はふだん紅茶よりコーヒーを飲むほうだが、イランに来てからはずっと紅茶を飲んでいた。外食しても、コーヒーを出す店が見当たらな