二十歳の頃2024(5)オタクの人にきく

インタビューしたのは、私と同じゲーム好きのネット仲間、百瀬次郎さん(仮名)。2023年4月、さいたまスーパーアリーナで開催された「アイドルマスターミリオンライブ!」のライブで出会い、仲良くなったオタクの人である。1991年6月生まれの33歳、群馬県で生まれ育ち、理学療法士をしている。ライブ会場で会うほか、X(旧Twitter)でやりとりすることが多い。もっとこの人のことを知りたいと思い、オンラインで話を聞いた。(聞き手・中西理雲=2年)

――二十歳の頃、何をしていましたか

 将来、理学療法士として働くために実家から専門学校に通っていた。ちょうど2年生から3年生になる時期。東日本大震災が起こった時だね。

――なぜ、理学療法士になろうと

高校の時、将来の夢もなく、やりたいことが見つからなかった。そんな時、学校やバイト先の先輩に理学療法士という仕事があると教えてもらったんだよね。資格を取れば、食いっぱぐれることはないし、親にもプレゼンしやすい職業だった。

――専門学校の生活はどうでしたか

想像していたより、理学療法士に必要とされる知識量が多かったかな。4年間通って、資格の試験を受けて、合格してもしなくても卒業はするという感じだったのよ。普通の学校生活を送っていたな。 

――東日本大震災(2011年3月)の時はどうでしたか

群馬県に大きな被害はなかったんだけど、物流がストップして、学校も臨時休校になったんだよね。ガソリンを入れることができなかった。災害が起きて1週間自粛した後、1世帯1000円までしかガソリンを入れられなかった。被害こそは少なかったが、物流の途絶や社会全体の自粛の雰囲気もあったからなのか専門学校も半年ぐらい休校になった。しかし、なぜ休校になったかの具体的な理由は分からなかったね。休校の間は全然勉強をしなかった。学校が再開してから授業についていくのに苦労したね。

――理学療法士の試験はどうだったのですか

4年生の2月に国家試験が控えていて、11月の最終模試で合格ラインに達しなかった。「あれ、届いてないじゃん」って。理学療法士は、試験に合格しているという想定で就活をするから、このままじゃ就職先に迷惑をかけてしまうと思った。勉強はしていたけど熱量が入らなかったな。ちょうどそのタイミングで劇場版「アイドルマスター」が放映されたんだよね。アイドルマスター自体、元々好きだったしね。勉強をサボって、この映画を観て、ガチで泣いた。「映画のアイドルはこんなに頑張っているのに、オレはなんで情けないことを言っているんだ」となったね。この映画を観てから前向きに勉強を頑張ろうとした。挫折しそうな時、もう一回観たりした。試験は188点でギリギリ合格したのよ。もし、映画がなければ試験に落ちていたな。

――なぜ、オタクに

20歳の頃からオタク気質だったかな。高校の頃からよくアニメを見ていたよ。明確にここでオタクになったわけではなかったけど、それまではどんなコンテンツも単に消費するだけのオタクだった。でも、せっかくなら、オタクとして突き抜けたいと思った。はやりモノに乗っていくだけなのは面白くないと考えたんだよ。オタクとして積極的に活動したかった。2014年のアイドマスターの10周年ライブに専門学校の友達を強引に誘って行ったんだよね。それがオタク人生のターニングポイントだったかな。 

――33歳の今の自分から20歳の自分へ伝えたいことは

「何事も真面目に取り組め」。いろんなことを斜に構えて生きてきたから。勉強も実習もオタクももっと真剣に取り組んだ方がいいと思った。

――20歳の自分が今の33歳の自分に言うならば

「結婚できていないんだ。ダッサ」。結婚願望はなかったけれど、結婚していると思っていた。兄より器用だったからかな。でも、兄の方が先に結婚して、先を越されてしまったと感じるだろうね。13年前、男は結婚するという価値観がまだ残っていた。今の(独身)人生に驚くだろうね。

――今の二十歳に伝えたいことは

「自分を守るな」。斜に構えようとするな。勉強でも恋愛でも全力でやるべきだと思うな。本気でやるからこそ、現状が分かり、次の行動への改善点が分かる。みんなが学生時代にやった失敗を今自分がしているような気がする。全力でやる失敗には、すごい価値があると心から思う。今日一番いいことを言ったかもね。 

【感想】
インタビューで印象に残ったのは、今の二十歳に伝えたいことについての話だった。私の世代は失敗することを恐れているように感じる。失敗はかっこ悪く、恥ずかしい。しかし、失敗を繰り返さなければ、何事においても成功につながることはない。久しぶりに百瀬さんと話せてうれしかった。これからもオタク話をしたいと思った。