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こども部屋おにいさんは、自由である。

実家はマンションの一階で、こども部屋の窓には、柵がついていた。二階より上には柵がなく、友だちの部屋が羨ましかった。窓を開けたら外に出れてしまいそうな、開放感が。

昔から禁止されることが嫌いだ。「しなさい」は平気だけど、「やめなさい」と言われるとだめ。カッとなるよりも、ぐつぐつと腸が煮えくり返る。選択肢を奪うな、と。本能で、反射で。込み上げた怒りは、目と口から飛び出したりする。禁止するな。ぼくは、気が向いたときにこの窓から飛び出したいのに。

かつて束縛の象徴に見えて憎たらしかった、19本の黒い鉄格子は、今年の春、突如として外される機運が高まる。防犯として義務付けられていた設置が、各家庭の判断に委ねられたのだ。そういう感じでいいんだっけ、防犯って。撤去して、泥棒が入ったら、補償とかあるのかい。それは置いといて、ぼくはどうしたかと言うと。

自室で仕事をしていると、窓の外を、知らない親子が歩いていく。おなじマンションに住んでいた友だちは、みんないなくなった。自由を愛する少年は、三十路にして柵の中にいる。なつかしい景色を変えるのが、なんとなく嫌だったから。

窓を開けて、柵のすきまから手を出してみる。からだ全部は無理だけど、だいたいのものは通るのだ。駐車場で遊んでいると、母さんが柵の向こうから麦茶をくれた。雨が降れば、傘をもらった。忘れ物は、ここで渡す。思えばぼくは、わりかしずっと自由だった。

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