東京#12
地元に帰る度に思い出す事がある。
高校時代の恋人Aは、上京する僕に「何で東京に行ってしまうの」と言った。その言葉がどれだけ時が経とうとも、ささくれのように少しだけ痛みを感じさせながら、心に残っている。12月初旬の真夜中である。当時の僕はその言葉には酷くゾッとしたもので、「まぁ、すぐに帰ってくるから」とあからさまな嘘をついてしまった。彼女は僕を地元に引き止めようとした唯一の存在であったことは確かで、今となってはもっと上手い返しが出来たらとは思っている。
それから数年間恋人Aとは色々あり、連絡を取らなくなるのだが、この間久しぶりに連絡をした。彼女は開口一番に「死んでなくて良かったよ」と笑いながら言った。「君はさ、何でも自己完結しちゃうから怖いんだよね。眉間に皺を寄せて、何か考えてるなーと思ったら次にはもう別の話を切り出してくる。もうそこに私の入る余地なんてなくてさ。やっぱりね、自他共に厳し過ぎるんだよ。もうちょっと許していかないと、君が苦しいだけだよ」相変わらず僕のテリトリーに土足で入ってくる。僕は眉間に皺を寄せて、それを辞められたら楽なんだけどねと自嘲気味に返した。
あれからだいぶ時は経った。東京では窓を開けて電車が走るようになった。地下鉄を抜ける風が、うらぶれた田舎の風に似ている。何で僕は東京に来たのだろう。6年目にして迷子になりそうな気分だった。
久しぶりに帰郷すると、ひび割れた歩道は補正され、友達と遊んだ遊具は危険とみなされ取り壊されていた。僕がいてもいなくても、故郷はゆっくりと時間をかけて変化していた。また、あの言葉を思い出す。景色が変わりゆくその最中に、高校生の僕がまだ取り残されている気がした。
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