東京#5
「スカイツリーまで」
故郷離れた東京で酔っぱらった僕達は、深夜2時にタクシーに乗り込んだ。片道8000円の大冒険。少し空いた窓から淀んだ夏の空気が吹き込んでいた。明日も仕事だ。その事実が僕に高揚感を与えていた。運転手が少しアクセルを踏み込む。まるで空を駆けるよだかのように首都高をタクシーが駆け抜けていく。
さっきまで馬鹿騒ぎしていた友人達は各々窓の外を眺めている。なんらかの不安を抱えたタクシーは、僕たちの現状にも似ていた。「このままでいいのか」そう思いながらも進むしかない。そんな風にさえ思っていた。確かに世の中にはおかしいと思う事は沢山ある。その度に反発し、若さ故の奮起に至るも結局は居酒屋チェーンで愚痴るだけの日々に落ち着く。僕たちは何処へ行けるのだろうか。昼間は煩い社用携帯も今は眠っている。
そうだ、僕たちは自由じゃないか。今なら何処へでも行けるじゃないか。そもそも僕たちを縛り付けていたものはなんだろうか。今日だけは将来への不安は隠そう。いっそ、夢や希望もトランクに置き去りにしよう。よだかの様に自分の居場所を探しに行こう。そんな僕らの未来とは相対的に、窓から流れるビルの明かりがあまりにも煌びやかであった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?