東京#7
新宿駅の丸の内線のホームで、飛び込み乗車しようとするサラリーマンと肩がぶつかった。
僕は若干のイラつきを覚えたが、反射的にすみませんと言っている自分に気がつき情けなくなった。ホーム内に発車のベルが鳴り響き、電車がゆっくりと動き出す。僕はせめてもの抵抗として、サラリーマンの顔を見てやろうと振り返った。目の前を通り過ぎる電車、車両の中で肩で息をするサラリーマンの顔を見た。その人は大学時代の先輩Aだった。
「アクション俳優になるんだ」
先輩Aはそう言って卒業していった。僕が通っていた芸大ではそこまで珍しい話ではなかったが、殆どの人が定職に就く中で、先輩Aは少し輝いていた。先輩Aとは一緒に短編映画を作った事がある。僕がヒーローで、先輩Aは敵役だった。時間がない中で2人でアクションを考え、何回もテイクを重ねながら長時間アクションを撮影していた。撮影が終わる頃には朝日が登っていて、早朝のファミレスで栄養を補給するようにハンバーグセットを食べたのを覚えている。先輩Aはその時も笑いながら、アクションの話をしていた。
そんな先輩Aがスーツを着てネクタイで首を絞めていた。車窓越しとはいえ、とてもアクション俳優には見えなかった。卒業から3年、夢は諦めてしまったのだろうか。過去の輝きを乗せた電車はとっくに通り過ぎてしまった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?