東京#17
今日、セブンスターを吸った。数年ぶりに旧友に会ったような気分だ。昔、恋人にタバコは身体に悪いからダメだよと言われた。確かに身体に悪い味がした。
同時に懐かしさが込み上げてきて僕は少し、泣いた。
今の仕事には何不自由はないし、正直不満もない。
プロデューサーになりたいと言う夢も2年目にして叶った。上司にも同期にも恵まれ、色々な現場で可愛がられてて理想の社会人ではあるはず。
だけど、心の何処かで満足していない自分がいる。
本当にこのままで良いのかと毎日自問自答している。
この間久々に会った友人がいる。
その友人とは性格が全く合わず、友人が太陽なら僕は月のような存在だった。価値観や考え方、味覚まで何一つとして合わないけれど、何故か一緒にいる事が多かった。今思えば友人の器の広さに僕がすっぽりとはまっていただけだとは思うけど。
そいつは何をやるにしても結果を残す人だった。
僕はそいつに負けたくなくて必死に喰らいついたが、結果はいつも友人の勝ちだった。いや、僕が勝手に劣等感を抱いていただけかもしれない。
気がつけば僕はそいつを友人である以上にライバル、引いては憧れとしてみていた。
正直、僕がプロデューサーになりたかったのは、社会人としても同じ立場で戦いたかったからだ。また学生の頃のように戻って、いつかは一泡ふかしてやりたいと思っていた。
しかし、久々にあったそいつは、何もかもが変わってしまっていた。僕が憧れた友人は、価値のないものを信仰する様になっていた。もっと分かりやすく言うと「胡散臭い人」になっていた。今までは自分が世界の中心と思っていても過言ではないほど、自信満々だった彼が、他人の言葉に左右され、自我のない人間に成り下がっていた。彼と話していても彼の意見は出てこない。「○○が言うには」「ネットでは」そんな主語で話さないでくれ、頼むから。
きっと彼は僕よりも早く望むものを手に入れてしまった。彼は今の人生に満足してしまった。
「映画はもういいかな」と彼は自嘲気味に笑った。
僕たちが熱く語り合った時間は既に過去となり、
彼の生き甲斐ではなくなっていた。
彼と別れたあと、辞めていたタバコをファミマで買った。お店を出てすぐにセブンスターを口に咥え火をつける。熱い煙が喉を通り越して肺に充満する。僕は思わず咽せた。咳が止まらなくなって、苦しかった。周りにいた人が怪訝そうな目で僕を見つめる。
それでも、あいつが夢を諦めた事の方が悲しかった。
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