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【レビュー】実力差はプレスで埋める Copa del Ray 準決勝1stレグ レアル・ソシエダ - レアル・マドリー

震えた。

前日に開催されたコパ・デル・レイ準決勝のもうひとつのカード、バルセロナ対アトレティコの試合があまりに激闘すぎた。
リーガ1の守備力を誇るアトレティコを相手に、バルサが4得点。かと思えばアトレティコもアウェイの地で同点に持ち込む4得点。

高いインテンシティと技術の応酬に感動を覚える一方で、このレベルの相手とソシエダが対等に渡り合えるのかと不安がどんどん募っていった。


そんなわけで、今回はコパデルレイ準決勝
レアル・ソシエダの相手はレアル・マドリー

1stレグはソシエダのホームで行われる。
次がベルナベウということを考えると、ソシエダは出来れば勝ちがほしい。

でも、言うは易し。
バルセロナ対アトレティコの激闘を見た後とあっては、2ndレグに望みを繋げられるスコアなら上出来とも思えてしまう。



準々決勝オサスナ戦はこちらに



チームコンディション

  • トラオレが6ヶ月振りに復帰

  • アゲルドとスチッチも大丈夫とのこと

  • ザハリャンはまたしても怪我でお休み


スターティングメンバー

  • 完全に照準を絞ってきた

  • 直近のレガネス戦からの変更は6人(赤字)

  • マドリーはエンバペバルベルデクルトワがお休み

  • ともに中2日



試合結果

 0ー1

チームスタッツ

数値は FotMob.comより

シュート位置

前半

xG: 0.48

後半

xG: 0.61

マドリー (前後半)

(結構打たれた)



試合内容

ハイプレスからショートカウンター

ソシエダは当然ハイプレス

満員のサポーターで埋まったスタンドからの声援を背に、試合開始直後から積極果敢にハイプレスを仕掛ける。

(GKルニンがショートパスを繋いでくるならルートは2つ)

ハイプレス時はスチッチが6番カマヴィンガをマンツーでつかむ。スビメンディは5番ベリンガムを担当。ブライスは19番セバージョスを背に置き、GK13番ルニンからのパスコースを1つ消す。

この状態から、まずオヤルサバルがGKルニンにプレスを掛ける。

もしGKルニンから22番リュディガーにパスが出れば、ブライスが猛プレス。

(キーパーへのバックパスはもう出来ない)

スチッチとバレネチェアがスライドして、19番セバージョスと6番カマヴィンガを捕まえる。ソシエダは高い位置から同数でプレスを掛けられるし、ロングボールを蹴られても、後ろにはスベルディアが余っている。


もうひとつのパスルート、GKルニンから6番カマヴィンガに出された時のパターンが目新しい。

GKルニンから縦パスが出ると同時に、オヤルサバルが14番チュアメニへのパスコースを消しに行く。6番カマヴィンガはスチッチを背負っているため、残されたセーフティなパスコースはGKルニンへのリターンのみになる。

そしてリターンパスが出されたら、今度はスチッチがスピードアップ。

最短距離でGKルニンにプレスを掛けることで、6番カマヴィンガへのパスコースを消す。このスチッチの動きにブライスとスビメンディ、さらにはスベルディアまで連動。縦にスライドして、19番セバージョスと5番ベリンガムのマンツーを受け渡す。
パスコースの無いGKルニンは、スチッチのプレスを受けてクリア(あるいはロングパス)に逃げるしかない、という寸法。

このハイプレスの形が序盤は見事にハマる。ソシエダは高い位置でボールを奪ってマドリーゴールに迫る。


WGの守備意識

ハイプレス時のバレネチェアと久保は、相手SBとの距離を少し離している。

(バレネチェアの方がカバーするエリアは広く、そのため守備意識も高い)

スチッチが前に出てしまっている分、中盤のスペースをケアする必要があったためと思われる。クリアボールの回収や、マドリーの強力なカウンターへのリスク管理という面で考えると、とても合理的。

現に前半6分には、バレネチェアがマドリーのカウンターに対して、ちょっとありえない距離を移動してきたシーンがあった。

(スチッチのシュートがブロックされ、マドリーに拾われたところから)

スビメンディが入れ替わられ、ベリンガムに独走を許す状況。
ソシエダの最終ラインは1人余裕があるが、ベリンガムに持ち運ばれると同数になってしまう。

ここにバレネチェアがプレスバック。
ベリンガムの進路へ先に入り、なんとか時間を遅らせた。

こうした高い守備意識はオヤルサバルも持っていて、マドリーのカウンター局面に対して、数的同数の場合にはCFの位置からでも全力で戻る姿が印象的だった。


ミドルブロックからハイプレスへ

この試合でソシエダが攻撃の軸に置いていたのは、ハイプレスで奪ってからのショートカウンター。これは言い換えるならば、GKルニンをビルドアップに絡ませることを意味する。

これを実現するため、ソシエダはミドルブロックの局面でも高い強度でプレスを掛け、マドリーを押し戻していく。

ブロックの形は4−4−2

(並びはハイプレス時とほぼ同じ)

右サイドのアランブルと久保は素直にマンツーでプレスを掛ける。

久保がサイドに出ていったら、ブライスがそのスペースを埋める。5番ベリンガムがポケットを狙いに来たら、スベルディアに受け渡すといった感じ。

プレスは基本的に縦パスを切るように掛けるが、7番ヴィニシウスに収まってしまった時には久保がヘルプに行ってダブルチームを形成する。

もしCB22番リュディガーにバックパスが出れば、ブライスがやはり前を塞ぐようにプレス。

ブロック全体を少しずつ押し上げ、マドリーを自陣に押し戻す。
このままGKルニンまでバックパスを出させられれば、再びハイプレス局面へ移行する。


左サイドは、大外の35番アセンシオを捨てる

アイエンはゾーンを意識しつつ、35番アセンシオよりも、ハーフレーンにボールを引き取りにくる15番ギュレルへの対応を優先。
もちろん35番アセンシオにパスが出たら、アイエンかバレネチェアが寄せるが、そもそもパスは出てこない。

マドリーの右SBがバルベルデやカルバハル、ルーカス・バスケスならいざ知らず、35番アセンシオのポジショニングは完全におとり。
本命は6番カマヴィンガへのプレスを外すことにある。

(マドリーの狙いの図)

もしこうなってしまえばプレスは掛からない。
なおもプレスを掛けようと、それまで6番カマヴィンガのマークについていたスチッチが出ていってしまうと最悪。

中央にがっつりスペースを作られかねない。

なのでそうならないよう、バレネチェアは35番アセンシオよりも6番カマヴィンガへのプレスを優先。

ここでも前を塞いでバックパスを誘導。
バックパスさせることに成功したら、やはりブロック全体を押し上げる。
プレス強度を維持したまま、GKルニンまで戻させ、ハイプレス局面に移行できれば完璧。

ソシエダの強みである守備を攻撃に繋げる、素晴らしいプランだった。


マドリーのカウンター設計

ビルドアップの局面を見ていく。

ソシエダの4−3−3に対し、マドリーは4−4−2。

スベルディアかアゲルドがボールを持っている時、7番ヴィニシウスと16番エンドリッキはスビメンディへのパスコースを消すようにポジショニング。
とはいえ、ここが非常にゆるいのはマドリーならでは。

この段階で詰まることはまずない。

それでもソシエダが縦に急がず、後方でのパス交換が多かったのは、守備でハードワークを要していたためと思われる。

攻撃時はペースを落とし、ボールを持つ時間を長くする。

マドリーのブロックの外でパスを繋いでいると、スビメンディのところがぽっかり空く。

ただ、マドリーはここを奪いどころに設定してきていた。

スビメンディが中央でパスを受けた瞬間、7番ヴィニシウスがトップスピードでプレスバック。ファウルすれすれのプレーでボールを奪われ、マドリーのカウンターが始まる。

スビメンディのところでロストしているため、本来スビメンディがマークすべき5番ベリンガムが一瞬フリーになる。ここから寸分の狂いもないロングボール。
16番エンドリッキの超絶トラップからゴールを奪われた。

(立場忘れて、すげーすげー騒ぎ散らかしてしまいました)


7番ヴィニシウス(と16番エンドリッキ)のプレスバックからのカウンターはもう明らかにマドリーの狙いで、前半だけでも4度5度とやられている。

空いていると思ってこのエリアに入った瞬間に、横からコースを限定され、後ろからプレスバックを受ける袋小路

7番ヴィニシウスのプレスバックは画像としてもちゃんと残っている。

これも

ここまで7番ヴィニシウスの守備での献身性が高いと、アンチェロッティ監督がそのモチベーションのために、初となるゲームキャプテンを任せたのではないかといぶかしんでしまう。

いや、絶対そう。


失点後

失点後もソシエダの勢いは落ちない。
上手くいっていた守備のプランはそのままに、攻撃のプランを変更。

左SBのアイエンが長い距離を走ってポケットを取りにいけば、右のアランブルも高い位置まで積極的に上がって久保をサポート。
久保とバレネチェアに高い位置でボールを収める回数を増やし、1対1の形からチャンスを作っていく。

ただ、1点が遠い


後半

マドリーがしっかり対策を練ってきた。

前半終了間際にイエローをもらっていた右SB35番アセンシオを代え、17番ルーカス・バスケスを投入。両SBを高い位置まで上げてくる。

(後半2分)

前半と違い、右SB17番バスケスへのマークを捨てることは出来ない。
両WG久保とバレネチェアの位置を押し下げられたことで、CB-SB間へ下りてくるマドリーのピボーテ2人(カマヴィンガとセバージョス)を捕まえられない。

前半よりも前線からのプレスが掛からなくなり、プレスに行くその距離も伸びてくる。こうなると、ミドルブロックからマドリーを押し戻すことはなかなか難しい。


ハイプレスにしても、前半ほどの効果をもたらすには至らない。

これはマドリーが右SBの位置を前半よりも低くしたことに起因する。
こうなるとソシエダのハイプレスの設計上、バレネチェアのプレスがどうしてもワンテンポ遅れる。
プレスを掛けたところで、ロングボールに逃げられてしまいかねない。

(後半9分)

でも、ソシエダはハイプレスをやめない

もう後ろが同数になろうが、高い位置で奪えなかろうが関係ない。なんとしてもこの1stレグで、まずは1点を返さなけばならない。そのためにはひたすらプレスを掛け続け、ボールを奪い、ゴールを目指す

そんな気迫が伝わってくる後半だった。


必然、マドリーには何度も際どいカウンターを受ける。シュートで終わられるシーンも、目に見えて増えていく。

ソシエダはそれでも構わず、ひたすら攻撃と、そのためのプレスに比重を置き続ける。

薄氷をむかのようなスリリングな展開は、結局スコアが動かないまま試合終了の時を迎えた。


あとがき

あと一歩のところまで追い詰めた、という表現は違うのかもしれない。

マドリーはターンオーバーでメンバーを落としていたし、もしソシエダが1点を返していたら、マドリーは逆にギアを上げてきていたようにも思う。

それでも、中2日という過密日程を物ともせず、前半からあれだけ飛ばしまくってマドリーに圧力を掛け続けたソシエダの気迫には胸が熱くなった。

疲労の色が濃くなってきた後半途中からは、プレスの連動が少しずつ遅れて奪い切れないシーンが増えていったが、そんなのは当たり前のこと。
むしろ、それでもインテンシティを高く保ち続けていた方に驚かされる。

ピンチの数と同じくらいチャンスを作り、その度に、もしかしたらという希望を抱かせてくれた。興奮が途切れることのない、素晴らしい試合だった。

負けてしまって残念な気持ちはもちろんあるが、その何倍も、誇らしい気持ちで溢れている。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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