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【読書】事実はなぜ人の意見を変えられないのか-2

第一回では、自分が正しいと思うことの裏付けを探して確信を深めていき、人を説得するときに自分が正しくて相手が間違っていることを浴びせた結果、お互いがさらに頑なに自分の意見を支持していく過程を見てきた。

第二回は、どのようにして人が物語に入れ込み熱狂していくのか、脳の動きを見ながら考えていく。


2.ルナティックな計画を承認させるには?

まず、ルナティック(Lunatic)とは「狂気」の意味である。「ルナ」の部分は「月」を意味しており、この章は人類が月を目指したというまさに狂気的な物語から始まる。

月を目指すことに熱狂したアメリカ人

1962年に当時大統領だったケネディはあることを全米の人間に説得しなければならなかった。それはソ連との熾烈な宇宙開発競争に先行すべく、多くの税金を投じて月へ人間を着陸させることだった。この時に行われた17分40秒の演説は人々を熱狂させ、国家予算の約4%をこのプロジェクトにつぎ込むことが可能になったのだ。

反響は絶大だった。大統領が演説を終えたとき、近くのヒューストン動物園にいたライオン、ペンギンたちには、聴衆の沸き立つ歓声が聞こえたことだろう。

事実はなぜ人の意見を変えられないのか  P47

皆の脳を同期させる

それではこの「熱狂状態」の時、皆の脳では何が起きているのか。端的に言うと脳が「同期」しているのだ。MRIスキャナで脳を見てみると、力強い演説は性格や経験が違う人々に同じ脳の動きをさせている。ケネディは聴衆にケネディ自身と同じような視点からものを見させることに成功したのだ。

演説が引き起こした広範囲の神経活動をMRIで調べると、まったく違う二人の脳がそっくりに機能しているのがわかるのだ。

事実はなぜ人の意見を変えられないのか  P49

感情の喚起とカップリング

「脳の同期」という現象には2つの要素がある。
1つは感情の喚起で、例えば映画で銃を突きつけられるシーンがあったらその場にいる人全員が同じような反応(例えば体がびくっと硬直する)をするだろう。銃を実際に突きつけられているわけではなく、絶対に安全なのはわかっているのに脳がそれより早く反応しているのだ。
もう1つはカップリングで、例えば相手の話を聴いている時に相手の感情が伝染して次に相手が話すことが手に取るようにわかるということがあるだろう。この時、聴き手の脳活動が話し手の脳活動より先行していることが観察されている。話し手の世界を聴き手が共有していることがわかるだろう。

感情は聞き手と話し手の生理状態をも結びつける。

事実はなぜ人の意見を変えられないのか  P55

SNSでの熱狂

ツイッター(X)やFacebookを見ている時、自分の感情はどうなっているだろうか。多くの人は自分は中立的な状態だと思っているかもしれないが、実際は表示されている投稿に影響されている。実験ではポジティブな投稿が多く表示されているユーザーはポジティブな投稿を多く行い、ネガティブな投稿が多く表示されているユーザーはネガティブな投稿を多く行った。

あなたは、感情は自分の中で起こる私的なプロセスだと思っているかもしれない。しかし、感情が外部へ漏れ出しあらゆる場所へ伝わっていくことを思い出してほしい。

事実はなぜ人の意見を変えられないのか  P61

我々の精神世界は唯一無二ではない

ここまで見てきたように、人は銃を見ると同じような反応をするし、タイムラインにポジティブな投稿が並んでいると自分もポジティブな投稿を行うようになる。そして、同じように自分も他人の感情に影響を与えているのだ。

人間の基本的な脳構造は驚くほど類似しており、同じ出来事や刺激を経験すれば、往々にして同じ反応が導き出される。

事実はなぜ人の意見を変えられないのか  P67

ちょこっと感想

自身が意識的にポジティブに振る舞う理由になると感じた。よく他人は自身の鏡と言われるが、脳科学的にも間違っていなそうで、ポジティブな感情にはポジティブな感情が返ってくる。
組織に新しく入るときにはすでに出来上がった構造に身をさらすことになるのだが、「ここに自分はいないなあ」と感じるのもこういうフィードバックの効果なのかなあ。

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