オンライン9割、リアル1割でチームビルディングはできるのか

注記:チームビルディング論の専門家ではないので、この話はあくまで1事例としてお読みください。

約1ヶ月ほどかけて、表題の問いにチャレンジしていた。チームに経験者採用で1名入社し、同時にプロジェクトチームを立ち上げていく段階だった。時は緊急事態宣言下。会社には出社禁止、完全にリモートで実施する必要があった。上司とも「これはチャレンジだ」と話していて、どこまでちゃんとできるか分からなかったが、最善と思われることを試行錯誤してやるしかなかった。結果、「工夫すれば意外とできる」という手応えを得た。そして今後、新人の方を受け入れる時の一つの「型」として横展開できるのでは?という話になったので、まずは文章でまとめてみようと思う。

1. ゴール設定とスケジューリング

まずどこまでを育成期間にするかを他のメンバーと話した。新人さんが「案件の依頼を受けたら自走・完走できる状態」を目指し、それに必要な知識をインプットする時間を設けたり、練習案件を用意して身につけてもらうこととした。

なお前提として、我々のチームは自社のWebサービスに紐づくデータ分析チームである。サービスの企画担当やマーケティング担当、営業担当から、分析やデータ抽出、データ可視化の依頼を受けて、Githubでタスク管理を行いながら案件を遂行していくのが主な業務である。

1週目:
・パソコンなどの業務ツールセットアップ
・担当サービスのビジネス環境のインプット
・業務内容の説明(関係者、プロセス、ツール、お作法など)
・担当業務で必要なデータのインフラ面の説明
・日常業務で使うDBと各DBのテーブル定義などの説明
・業務で使うBIツールのハンズオンレクチャー

2週目:
・DBの特性を理解するための練習問題(もともと社内で新入社員研修用にあったコンテンツの流用)
・担当サービスをテストアカウントで使用し、サービスの挙動とデータの関係がどうなっているかを調査
(既存社員が同じ作業を並行して行い、情報をGithubのissueで共有しながら進行)
 →今考えると擬似ペアプロ的なことをやっていた
・他部署からのシンプルなデータ抽出依頼の対応
(既存社員1名がコーチ役で付き、新人さんは作業面を担当)
 →業務の流れを一連体験するOJT機会の早期創出ができた

3週目:
・初対面(緊急事態宣言解除されたため1回だけオフィスで対面)
・シンプル案件の対応完了
 →初仕事が完了した達成感
・担当業務の一部分を切り出しお任せする
 →適宜メンターを中心にフィードバックすることで業務の進め方や文化に慣れてもらう

4週目〜:
・担当業務を1人でお任せする(既存社員は大体1〜2週間程度で対応するボリュームの案件)
・空き時間にテーブル整備のための調査(既存社員が手が回っていなかったことのヘルプ)
・業務に関連する社内セミナー等での知識インプット

6週目:
・担当業務の1人遂行がほぼ完了
・チーム立ち上げも同時並行だったので、1Qの振り返りを実施

ざっくりサマると、
インプット
→自己学習
→シンプルな小さな案件でハンズオン&OJT
→実際の業務の一部工程を自走
→業務の全工程を自走 
という形で進めていった。順を追ってハンズオンの割合と任せる範囲を広げていった形である。

2. コミュニケーションの工夫

・朝会と夕会の実施 1週目〜4週目までは朝11時〜、夕方17:30〜
 1日2回顔を合わせる機会を作った
 朝会は軽く、雑談と、新人さんから今日やる予定の作業の共有を15分程度
 夕会は、1日の間で解消しておきたい業務上の課題や疑問を話す場で30分程度
 5週目以降は朝会のみ実施
 6週目からチーム全体の共有の場に切り替え

・オンライン歓迎会を実施(第1週目)

・1 on 1 の実施
 2週間に1回程度実施
 朝会のみにしてからは毎週実施
 メンター1人だけではなく、複数人がそれぞれ1on1を実施して、
 必要なケアがあるかを多面的に検討

3. 何が良い方向に機能したか

もちろん、新人の方の育成は、最初にいつまでにどんな状態を目指すかというゴール設定と、そこに向けたコンテンツの用意は重要。その上で、リアルでは当たり前のようにできて、オンラインにそのまま持ってくることができない要素を、ITツールの力を使ってどうにか実現することに取り組めたことが、良かったのではないかと考えている。

「いつもの時間に、いつもの場所に行ったら、いつものメンバーがいる」

オフィスは仕事をする場という機能だけではなくて、意味合いとしてこういう存在だったのだと思う。何か落ち込むことがあったとしても、オフィスに行って仲良しの同僚とコーヒーでも飲んで話したら、気が楽になったりする。これをオンラインで再現したのが「朝会」。何はともあれ11時にオンライン会議システムにログインして、いつものメンバーと雑談をするのは繋がりの維持のためには重要だったし、今後も継続予定である。

ちなみに常時カメラ接続したらもっとオフィスっぽいじゃないかという意見もあるかもしれない。実際そういったアプリがあるのも知っている。でも個人的には、常時カメラ接続というのは自分の目の前(PCのカメラの位置)に誰かの顔があるのと一緒の感覚で、なんだか気持ち悪いし集中できない。オフィスでは隣同士やモニター越しに人が常時?座っているのであって、自分の至近距離の位置にヒトの顔はない。私はファミレスやカフェで仕事をするのが捗るタイプだが、雑音は全く気にならない。一方で、視線は気になる方で、必ず前に誰も座らない1人席か、端っこの席を希望する。そこにたまたま知り合いの人がやってきて近くの席に座ったら落ち着かないし、たとえ友人でも目の前に座って作業されると落ち着かない。むしろ横に座ってくれた方が良い(ちなみに普通のご飯やお茶はそういうことはない。あくまで作業をする場合の話)。そのくらい視線が嫌なので、常時接続アプリは導入しなかった。逆にそれを強制される職場だったら、ごめんなさい無理ですと表明したであろう(そんな仕事スタイルを強制されることが一切ないので良い職場だ)。

「早めに一員になれた実感を作る」

私自身が1月から新職場に入社したニューカマーであり、コロナのためにリモート推奨になる前までの約2ヶ月間を振り返ると、当初はオフィスで毎日上司や同僚と顔を見つつ仕事をしていた。思い起こすとオフィスで新しい仕事をスタートした時は、やっぱり無意識に「ありがとう」とか「よろしく」といった一言のコミュニケーションがあった。新入りの立場からすると、まだまだ業務知識が不足して手間をかけてしまう中でも、そういった一言で、自分が必要とされてこの職場に存在していることを感じやすかったし、早く独り立ちしようと奮い立った。オンラインの場合、そうした一言コミュニケーションは、Slackのコメントやスタンプで代用されがちだ。いかに多くの人からコメントやスタンプの反応をもらったとしても、数が問題なのではない。自分がチームの一員として役に立てているという実感を持てるかどうかの方が重要だと思う。そして完全オンラインの世界では、その承認は一言コミュニケーションの量ではなく、仕事というパフォーマンスの発信と、その仕事に対する承認でなされるのではないかと思う。そこで、オンライン化した人材育成の中では、いち早く新人さんが小さな案件を完遂する機会を作り、「初仕事おめでとう!お疲れ様!」というコミュニケーションによって一員になれた感を実感できる工夫が必要なんじゃないかと思っている。

今回は、たまたま我々の業務上、最適な案件があったので2週目以降に小さなシンプル案件をOJT的に一緒にやってもらった。会社への慣れも相乗効果があったかもしれないが、実業務に関連する作業を開始してからの成長スピードが明らかに速かったと思う。自分達で作り出せない場合は、他部署の協力を得るなど、期限が決められた案件を新人さん自身が責任を持って遂行する機会は、早めに提供ができると良いのではないかと考えた次第。

「みんなでじっくり話す時間をとる」

これは自分の備忘録的に書き残しておく。チーム全体の振り返りは、新人さんが自走して動き始めて一つの区切りがあったタイミング(今回だと6週目)で、全員で膝付き合わせた感じのミーティングを行なった。四半期に一度ではなく、まずは1ヶ月くらいのキリの良いタイミングで全員で振り返って、それぞれから「良かったこと」「よくなかったこと」「次のアクション」を出し合って、改善策をみんなで決めていく。そこで決めたことを、次の四半期の振り返り会でKPTとして振り返る。そうすることで、既存の社員も、新人さんも、同列に意見を出し合える空気が作れそうだ(という私なりの感覚値)。そしてこれはリアルで会う機会が増える前にやるのが良いかもしれない。後述する「人物像」が見えてくると言い出しづらい空気が逆にできてしまうかもしれないので、むしろ初期はオンラインでじっくり話に集中することが大事かなと思った次第。

「ちょっとした相談」

Slackで新人さんの育成専用のチャンネルを作り、そこで気軽に聞ける工夫をした。業務で近しいメンバーしかその部屋にはいない状態で、日々の業務で疑問が生じたら投げてもらう形にした。ちなみにここでも雑談は時々投稿していた。画面を見ながらの方が良さそうな時は、MTGを提案するように働きかけた。とはいえ、ここはまだ「気軽」の定義が人それぞれでSlackでやり取りを続けるか、オンライン会議か迷うポイントがある。またSlackで意図を明確に聞いたり、回答しようとするととても書くのに時間がかかる。この辺りは、聞く工夫と、業務への慣れ、気軽に声が掛けられるための空気が必要で、引き続き工夫を考えていく想定。

何処かの会社がやり取りが5回続いたらオンライン会議に切り替えというルールを打ち出したように、回数や、文面を考え始めて30分近くかかったなどの基準を決めて切り替えていけるようにする工夫もある。あとはふわっとした質問でも投げたら誰かが受け止めてくれて、気持ちよく回答してくれたり、困ったことを助けてくれるという安心感の醸成。これは後述する「人物像」理解を深めながら醸成していく必要がありそうである。

「既存メンバーのノリ」

今回は4人程度の既存メンバーがいる中に新人さんがジョインした形だったが、既存メンバーが積極的に雑談を仕掛けてツッコミしあう形で朝会や夕会の雰囲気が出来上がったのが良かったと思う。全員が雑談する時もあれば、主に2名ほどがずっと雑談している時もあり、会話の7割くらいは雑談だったのではないか(真面目な業務の話もしているけれど)。最近ハマった漫画の話や、趣味の話、バーチャル背景へのツッコミ(これは主に私が面白おかしくバーチャル背景を設定していたからなのだが)など。これは主にはオンライン飲み会から派生したものである。ムードメーカー的な社員の人が、いろんな人に雑談を仕掛けることができると、みんなが心を開きやすくなる。これはリアルの場でも同じだと思うので、オンラインだから特別ということはない。

「やっぱり対面する機会は作る」

第3週目に、新人さんの業務ツールをセットする関係で、出社が必要になり、結果的にチームほぼ全員が出社して初対面を果たした。緊急事態宣言は解除されて、現場のマネージャー許可で出社ができるようになっていた。それまで2週間、朝会をやって色々な人となりを観察はしてきたものの、やはり対面で会うとホッとした感じがした。「やっと会えましたね」といった言葉が思わず出るほど、SNSで交流していた人と初めて会ったかのような、オフ会的な感覚だった。

そこで、実際の身長や恰幅など物理的な情報と、声、表情、動きが組み合わさって、「人物像」が出来上がるんだと改めて実感した。オンライン会議で表情豊かに話しているつもりでも、笑いすぎたりオーバーアクションで画面からハミ出たり揺れまくるわけにもいかないので、まっすぐの姿勢をあまり崩さないなどジェスチャーは無意識に自制しがちになる。でもそれはあまり自然な姿ではない。自然な状態で何回か会い、人物像に関連する情報をバーバルでもノンバーバルでも蓄積することで、より関係値が深まると思う。そしてその自然な状態の方が心を開きやすいタイプもきっといる(人見知りしがちな方とか、控えめな方とか)。

そのため、今後は様子を見ながら同じ空間でMTGをしたり、仕事をしたりする機会を少し増やし、より関係性を深める時間をリアルで作りながら、オンラインでのやり取りをベースにサポートをしていきたい。