2020年振り返り_副業ワークショップ編
副業ではサービスデザイン系のワークショップを大学や企業向けに行っており、私は主にエスノグラフィという定性リサーチのレクチャーを担当している。
こうしたワークショップ型の講義は、これまではリアルの場で実施しており、ホワイトボードと付箋と、4〜5人のグループワークによるいろんな意味で「密」な議論を大事にしていた。
それが、コロナ禍突入により、やり方を根本から変えることを余儀なくされた。様々なオンラインワークショップの先人たちの知恵や工夫を借りながら、年末に至る前に我々なりのワークショップの型を模索できた気がするので、それを記しておきたい。
準備編
すでにあちこちで言われていることだが、リアルの場で臨機応変にトラブル対処して乗り切って来れたとしても、オンラインではそうは行かない。そこで事前に使用機材とツールを含めた事前準備が必須である。
ツール選定
コンテンツのデリバリーに使用するツールがZOOMなのか、Teamsなのか。またグループ別に分かれて議論する想定なのか(完全座学式か、ブレイクアウトセッションをやるのか)、議論の過程やその後のやりとりを何でやるか(例えばTeamsチャットなのか、Slackにするのか、GoogleDocsなのか)。これを決めてツール選定を行い、参加者に伝達とパソコンへのインストールなど用意をしていただく必要がある。
我々で使用したのは、以下3つ
・ZOOM(用途:座学&グループ討議)※受講生の出席確認をするために、アカウントを作成してもらい認証済みにしてもらう
・Slack(用途:講師からの周知&メンバー間の緊急連絡&グループ討議)
・Google Docs(用途:グループ討議のメモ、ファシリテーション用)※使用したのは、Spreadsheet、Document、Presentation、Jamboard
セットアップ
遅くとも講義の1ヶ月前には、使用ツールと使用機材での動作確認まで受講者に依頼し、事前にトラブル解消をしていただくことが必要。
大学の場合は授業ページで周知。企業向けには事務局担当の社員の方にガイド資料を送付して対応を依頼。特に企業の場合、会社のメールアドレスでZOOMやSlackのアカウントが作れるか、Google系ツールを会社の端末からアクセスできるか依頼事項を具体的にチェックリスト化した方が良い。必要なツールに会社支給端末でアクセスできない場合、アクセス可能な端末に設定変更or可能な端末を貸与してもらうのか、私用端末で対応してもらうのか、その辺りも事務局とすり合わせながら準備が進む。
写真1:ガイド資料 このぐらい具体的な方が良い
セットアップまで済んだ人は、済んだ旨をSlackで表明してもらうといった完了確認まで設計しておくと良い。基本的な連絡ツールとして使用するアプリケーションをスマホにも入れておいて「いつでも確認する」という新たな習慣を、受講前に身につけていただくためだ。
チーム分け
グループワークを行う場合、事前のチーム分けをしておく。これはリアルでも一緒。参加者名簿を受領して、ダイバーシティのあるチーム編成を行う。
・ジェンダー、ジェネレーション
・学部/専攻、職種/業務内容
・その組織における在籍年数(だいたいは≒ジェネレーションだが比較的若いベンチャー企業では初期メンバーか中途かは考慮した方が良い)
・役職経験(リーダーシップが取れる人をばらけさせるため、またフラットな関係を作るために部長など権限のある人とその部下を一緒にしない)
企業向けの場合、事務局担当に上記の意図を伝え、企業側でうまく調整してもらうことも大事である。
アイスブレイク
セットアップまで済んだら、残りの時間は受講生同士の事前交流期間を設けた。具体的にはSlackで自己紹介をしてもらう。
・名前、職種(学生は学部・専攻)、普段の業務(学生は研究内容)
・趣味
・自分を一言で例えると?
最後の自分のヒトコト化は、各自のキャラが見えて面白かった。無難に行く人なのか、ネタに走るのか、なかなか時間かけたフレーズを考えたか、でなんとなくその後のキャラと通じる人物像が見えた気がする。
講師側の準備
Slackで以下のチャンネルを用意
・全体周知部屋(general)
・アイスブレイクなど雑談部屋(random)
・チームごとのチャンネル
・質問&連絡部屋(講義やワークショップ自体の質問、PCフリーズやネットワークが落ちたなどのトラブル時の周知)
ワークショップ編
冒頭
事前準備ガイド資料で依頼していたセットアップがちゃんと済んでいるか、再度確認。
発言ルールを設ける場合は、それも周知。以下は例の一つ。
・挙手制にする
・ZOOMのチャットに書く、Slackの質問部屋などルールを設ける
また可能な限りカメラオンにしていただくなど「スクリーン前にいるのか」が分かるようにお願いする。
講義編
これはまだ試行錯誤だが、1時間近く長々と話すのは得策ではない。コロナ禍によって、オンラインラーニングコンテンツが注目を浴びているが、そうしたサービスは講義を複数のパーツに分け、10〜15分ほどのコンテンツに分割して配信→トレーニングという構成にしている。オンラインワークショップでも、ある程度その方式を参考にして、座学10〜15分→Q&A/ミニワーク/ミニグループワーク といった構成にする方が受講者の集中力が途切れなくて良い。この点はまだ我々も工夫の余地がたくさんあるので、2021年はコンテンツ構成を少し練り直したい。
コンテンツ編
これは個別具体の話だが、備忘録として。
これまでの進め方
大まかに以下の通り。
⑴ テーマ設定
・ワークショップとして立てる場合と、テーマ持ち込み型と両パターン
⑵ 観察計画
・観察場所、観察タイプ(以下参照)を選定
⑶ フィールドワーク
・潜入や傍観は、なるべく様々な人がいる場所に出向いて観察する。参与観察やデプスインタビューは、相手の家や現場に訪問する。グループで同じ場所に行くことを前提としていた。
(4) 観察のメモを記述
・フィールドワーク後に座学を行なった場所に戻り、付箋紙に記入。
(5) 観察結果の共有と分析・考察
・グループワーク
何を変えたか
試行錯誤段階なので、これが本当に機能するかは今後も継続して検証する必要がある。
(1) テーマのフレーミング、「問い」を立てる工程を追加
・グループワークがオンラインになると、その後の延長戦(例えばチームビルディング兼ねて飲みにいって色々深めるなど)が難しい。少しでも観察をシャープにするために「問い」を持って現場に行くように明確に仕向ける工夫をした。これまでエスノグラフィ体験版ではそこまでやっていなかったが、変えた大きなポイントはここである。
(3) 個別の観察→共有のサイクルを1〜2週間
これまでは2日か、3日連続で短期で行うことが多かったが、今回はDay1→1〜2週間の個人ワーク→Day2という長期型に変更。
途中の個人ワークでは、チームごとに決めた方針に従い、個別に動いていくが、その動きを逐一Slackで共有してもらい、それに対して講師陣がフィードバックを即座に返すというやり方を取った。
フィードバックの内容は個人ごとに違う。観察の視点の持ち方の場合もあれば、記述の仕方の場合もある。参考として講師自らがサンプルとして投稿する対応も行なった。
フィードバックの手法は、私がかつて受講した松岡正剛さんのイシス編集学校の師範代育成プログラム「花伝所」で学んだことを大いに生かしたつもりである。個人の投稿をまず「受容」する。その上で、その人が向き合った観察対象であるインフォーマントとそれを見た当事者のことを想像し、どういうモデル(視点)で見ているかを把握した上で、「問いかけ」や「別解」がないか投げかけた。これも実践次第ではあるので、このスタイルのワークショップ形式を今後も継続しつつ、ワークショップでの「指南」が流れるようにできることを目指したい。(実は、まだ師範代デビューしていないことが引っかかっているが、これはまた別の話)
ちなみにこれがうまく機能していくと、(3)の工程で、(4)(5)もある程度含めて行なってしまうという時間短縮効果も期待できる。
ファシリテーション編
リアルの場でグループワークを見回って時折ファシリテーションをしつつ、軌道修正を図っていたことが、オンラインではできなくなった。
そこでどうしたか。2020年にトライしたことは以下。
A:発表とは別で、講師陣との「壁打ちタイム」を設定する(10-15分程度)
B:ブレイクアウトセッションに講師アカウントで乱入する
Aは、各発表前に設定することで、論理破綻しているケースやもう一段の深掘りをフィードバックできる時間になりうると感じた。中間発表の前であれば、現在感じているモヤモヤも含めてアプローチを一緒に考える時間にできる。最終発表前で行うと、いくつかのアイデアの方向性や、コンセプトの言語化をシャープにできる時間になる。
Bはやり方に注意が必要。事前に講師が見回りますと言ったとしても、議論の途中で講師の顔がいきなり入ってくると違和感があるので、カメラオフで最初は入る方が良さそう(さらに写真なしか、無害な風景写真など、空気感を醸し出す方が良いかもしれない)。
そして議論の様子をしばらく聞く。活発に複数人が議論していたらそのまま次の部屋へ。どう進めるか悩んでいそうだったら、悩み事を聞くところからスタートして少しファシリテーションを行う。この時、チームリーダーだけが講師とキャッチボールをするのか、他のメンバーもそれに参加するか、はチーム状況のバロメーターとしてよく見ておく必要がある。というのは、1人だけが頑張っているチームは、結局は意思統一まで至らないケースが多発することがこれまでのワークショップ運営でわかっているからだ。沈黙しているチームにはどういう状況かヒアリングから行う。しかし沈黙しているチームでも、もくもく作業タイムをしている可能性もあるので、それも少し様子を伺う必要がある。
リアルの場であれば、議論が活発なチームとそうでないチームを見分けるのは一瞬でできる。議論が活発なチームは大抵、全員がホワイトボードの前に立ち議論している様子が見える。一方、スタックしているチームは全員座っているか、1人が書記として頑張ってファシリテーションをしているもののフォロワーがいない状態。オンラインの場合、それがパッと可視化されたものがないのがとても辛い。そこで仕方なくブレイクアウトセッションに乱入していくことになってしまう。議論状態を何かしらの形で計測・可視化する仕組みが作れないかと思いつつ、乱入時になるべくそのチームのペースや議論を乱さず、良い議論ができる方向にナビゲートする方法は、今後も試行錯誤が続きそうだ。
今回も結構長くなってしまった。2020年はNew Normalなワークショップスタイルを試す機会があった。オンラインでもできるワーク、リアルでやりたいワーク、リアルでできていたことと同程度までオンラインで持っていくにはどうするか、そこに直面した1年だった。
2020年はお互いに模索中という段階だったが、2021年はこの方向性をある種の「当たり前品質」にしつつ、もっと良くするための方法を磨いていくことになりそうだ。