プロDD・M ~その513

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

「名前を知る必要なんかありません」
「何と?」
「今からあなたは死ぬのだから」
「ほっ!?」
 気づけば、ヒロマルは女に刺されていた。
「おのれ…刺客じゃったか…..じゃが!!」
 刺された身体のまま、ヒロマルは女の首を掴んだ。
「残念じゃったな…..この程度では致命傷にならぬ….」
「そ…う…かしら…」
「!!?」
「毒が…回ってきたようね….」
「ほほほ、用意周到でおじゃるな…じゃがこれほどの刺客と相討ちなれば本望でおじゃる……」
「何を…」
 その時、女は見た。幕の後ろから、もう1人のヒロマルが入ってくるのを。
 ゴキュッ。刺されていたヒロマルと首を絞められていた女は同時に力尽きた。
 入ってきたヒロマルは、恍惚な表情を浮かべていた。

「潜入させていた女から連絡が途絶えた。使えない子ねェ…..」
「カエル様、これ以上は」
「何?君は僕に逆らう気かい?」
「ぐっ…かはっ…おやめくだ……」
 カエルが首を掴むようなポーズを取ると、女は苦しみだし、その身体は宙に浮いた。
 そして、カエルが手を離すようなポーズをすると、女は地面に落ちた。
「ふん、つまらない。ライチから借りた女をもう3人も消費しちゃったな…」
「カエル様…..」
「じゃあ、次は君が行ってきてよ」
「ひ、ひぃ……」


「で、アッキーさん、これからどうするんです?」
「白を取り戻す。コイケの野郎、目をかけてやったのにふざけやがって」
 荒ぶるアッキーを見て、ライコはやれやれと言った表情で告げた。
「とりあえず、今、食ってる手羽先を置いてください」

(俺は……全てを失った……春霞は幻だった……)
 彷徨うケイ。そんな彼の前に現れたのは、かつての仲間達だった。
「おい、ケイ会長さんよ、何をそんなところでぶらぶらしてんだ?徘徊?そんな感じ?」
「 …..カシワギか。元気だな」
「ったりめぇよ!俺が元気じゃないことあるか?」
 そこにもう1人男が走ってきた。
「マサ……」
「会長。早く戻ってきてください。あなたにはあの赤い服がよく似合う
 ケイの目からは涙が溢れていた。
 なぜだか拾った命。春霞の力は失ったが、代わりに、その空いた隙間から、膨大な赤い力が流れ込んでいた。
(なんだ、この溢れるばかりの力は…..今までずっと干されていたのに….俺に同情してくれているのか?優しさをくれるのか?ぱんの女神よ……!)
 より強い結束を得た遊戯機構。
 そして、完全復活したケイは、次々と他の組織の拠点を潰して回った。
 それはアオクマ教会が用意した四大組織も例外ではなかった。


「四大組織の拠点が攻撃を受けているようですね」
「ライチパーティーに、遊戯機構か」
「ライチはともかく、ケイの野郎、あの死に損ないめが…」
「顔が怖いぞ、神父」
 レジェンドが軽く嘲ると、神父は冷静さを取り戻した。
「ケイは、若き頃の力を取り戻し、完全復活したと聞きます…さらに力をつける前に潰した方が良いかもしれませんね…レジェンド頼めますか?」
レジェンドちゃうわ!


 アオクマ教会側が警戒を強める中、ケイの取った作戦は、驚くべきものだった。
 そして、その作戦を受け入れた側も知る人が知れば驚きだっただろう。
 だが、この会見は秘密裏に行われた。
「ふふふ…あの男、全盛期の力を取り戻したようね…伝わってくるわ…この距離でも…」
 消し炭の魔女。彼女を奥に、ずらりと構成員が並ぶ。
「来るゾ☆赤服が」
「若ェ衆ハ下ガッテロ、身ガ持タネェゾ」
 トンジルスキーとイーが注意を促す。
 そして、ケイがその並びの真ん中を堂々と歩いてやって来た。
 触れてもいないのに、次々と並んでいた構成員達が倒れていく。
「半端な覚悟じゃあの男の前で意識を保つことすら出来ないゾ☆」
「相変ワラズ、スゲェ覇気ヲタクエネルギー
 ケイは消し炭の魔女の前まで来ると、ゆっくりと座った。
「失礼。敵地につき…….少々威嚇した。女神の遺産を持参した。戦闘の意思はない」
「いい物持ってきたんだろうねェ、小僧が」
 各地の残された女神の遺産。より形を残したものほどもたらす力は大きい。
 ケイが手渡した女神の遺産には、6文字のひらがなサインが遺されていた。
「これほどしっかりと女神の名が刻まれたものは珍しい……これほどの逸品を渡すってことは、よほどのことだねぇ…..」
 消し炭の魔女も思わず感心するほどだった。
「悪くないねぇ……ターロック、ノコッチ、アネンゴ、あの頃の世界を知るものも随分と少なくなった。1万年経った…当然だ。あなたもよく成り上がったものね、春霞の族のただの見習いだった小僧が……。伝説と語り継がれるカシワギとの決闘の日々も、私の耳にはまだ新しい」
 懐かしむような目でケイを見下ろす消し炭の魔女。昔話に花が咲く中、ケイは自身の傷を指しながら言った。
「消し炭の魔女、俺は色んな戦いを越えて、数々の傷を負ってきたが、今疼くのは、この傷だ」
「私にどうしろってんだい?」
「手を組もう。奴を野放しにしておくのは危険だ。今すぐに奴を葬った方がいい。わかるだろう!遥か昔、あんたの仲間を葬った野郎だ!」
「くっくくくく、言うようになったね、ケイ。あの男が現世に戻ってきたのは知っていたさ。だからこそ…奴は…奴は..ふっ…..」
「わかっているのなら!」
 さらに強く押すケイに対し、消し炭の魔女は怖い顔になった。
「仁義を欠いちゃあこの人の世は渡っちゃあいけねえんだと、カエルのバカに教えてやるのが、私の責任だろうがよ……!!」
「奴はまだまだ力をつける…!誰にも止められなくなるぞ!暴走するカエルを!!
恐れるに足らん!!私は消し炭だ!!!
 2人の気がぶつかり合い、天が割れた。

 そして、ちょうどその頃、とある隠れ家で1人の男が長き眠りから目覚めていた。
「ふぅ……ありがとう、ツムギ。ずっと看ていてくれたんだね」
「おかえり……..マルス」

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