プロDD・M ~その525
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
少し前。
「化様、ここで少しお休みください」
「ツバサ、苦労をかけます」
「いえ、私はあなたにお仕えする身…水を汲んで参ります」
人のおちる街で杖の神器を手に入れたツバサと化様は、人目を避けながら中央へと向かっていた。
しかし、現世へと出た化様は日に日に衰弱していった。
(思ったより化様の力がもたない。早く走馬灯を手にし、化様に本物の生命を与えねば…)
水を汲み終えたツバサは化様のもとへと戻った。
しかし、そこには化様の姿はなかった。
「化様!?化様ァァァ!!」
遠くで音が聞こえる。
「ツバサ…」
「そこか!!」
必死で追ったツバサだったが、既にその姿はなかった。
(どこの誰だか知らねぇが…このツバサを完全に怒らせたな……)
「アッキー様、私はこの世界に真っ白な楽園を築くことを夢見ておりました。そして、あなたについてきた」
「ふん、それがどうした?俺は不死王アッキー。超越者たる存在。全ての女神は俺にひれ伏す」
「このコイケ、司るのは審判。今宵、あなたを諮らせていただきます」
時ににらみ合い、そして打ち合う。アッキーとコイケ。かつての主従は今や最大の敵となった。
互角。一瞬の危機感を抱きながらも、迷いなくその均衡を破る強引な一手を踏み込んだのは、アッキー…..ではなく、コイケだった。
「オラァ!!」
(足技…!?)
「ポイポイポイポイポイポイ!ポイポイパッ!!」
下に気を取られたアッキーの上半身に、コイケのラッシュが激しくぶつかる。
「くおぉっ!!」
アッキーがなんとか前蹴りで距離をとって逃れるも、そのダメージは甚大だった。
(何だ、この荒々しさは…コイケはもっと落ち着いた戦いをする男だったはず…..)
「ムネッチィ!ナオユゥ….!!」
ライコがその両腕から雷を走らせる。
その雷から左右に分かれ、ムネッチとナオユがライコに迫った。
軽く打ち合った後、3人は近くの部屋へと雪崩れ込んだ。
「どりゃああああ!」
「っしゃああああ!」
ライコとムネッチの叩き合いの横でナオユが冷静な声で告げた。
「もういいんだよぉ、2人とも」
すると、驚くことに、ライコもムネッチも戦いの手を止めた。
そして、ライコはにやりと笑って、請求書を渡した。
「毎度どうも。お約束通り、アッキーをここに誘い込みましたよ」
「さすが期待通りの腕前なんだよぉ。管弦楽団、これからもよろしく頼むんだよぉ」
「ええ、どうぞ、ご贔屓に」
なんとライコは既に白と繋がっていた。だが、そんなライコにも1つ疑問があった。
「連れてきたのはいいんですが、コイケはアッキーに勝てるんですか?」
それを聞いたナオユとムネッチは顔を付き合わせて笑った。
「わはははは」
「なんだ、そんなことかよぉ」
「コイケが負けるはずがない」
そう言い切ったムネッチに、ライコはさらに突き詰める。
「だけど、元々コイケはアッキーの手下。それに戦っているところを見たこともあるが、アッキーの方が数段上手…..」
「ふふふ…コイケには2つの顔がある」
そう切り出すと、ムネッチは語り始めた。
「1つはこれまでの負けない戦い。相手の出方に応じて形を変えながら、確実に相手より有利な体勢を作ってから前に出る。慎重に…可能な限り負ける確率を下げてから戦う守りの戦い方…だが、それは後ろに守るべくものがあってこそ…今から見せるであろうもう1つの顔は、かつての王から真に王座を奪うための、攻めの戦い方…..勝つ戦いだ!!」
乱の時代。生前のコイケと覇を競った者達は皆このように口を揃えたと言う。
「その姿、あまりに狂暴、思い出すだけで背筋が凍る」と。
故にムネッチもナオユも、コイケの勝利を確信していた。
それに対して、ライコだけがそこに疑念を挟む。
「勝ちに拘るコイケ、確かに最強なのかもしれない。だが、はたして本当にそうなのか」
「何だと?」
「君達も、ずっとアッキーを見てきたこの俺でさえも、いまだに本当のアッキーを、アッキーの全力を知らない…」
「ポイポイポイポイ!!」
コイケは焦り始めていた。攻めているのに、圧倒的に攻めているはずなのに、なぜか…アッキーが遠く感じる。
「……!!」
そして、その時は来た。
アッキーの右手がコイケの肩を的確に押した。コイケの動きが一瞬止まる。
(この男…戦いの中にありながら、恐ろしく静かで何事にも動じぬ強さを秘めた…やはりこれが…これが私の憧れた……)
「不死王…….!アッキーッッッ!!」
その一瞬で、アッキーの手がコイケの中心に突き刺さり、その勢いで空間の壁まで走り抜けた。
「スプラッシュアンカー!!」
叩きつけられたコイケの肉体からは激しい血飛沫が上がった。
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