プロDD・M ~その502

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

「外の世界を見よ!不浄な連中が、野蛮極まりない生活をしている!我らこそが選ばれし民!私を崇める者達には等しく富を与えるぞ!!」
 女神の祭壇に近い壁に囲まれた街では、最前管理組合のトップと思われる人物が自身の配下達に食料を与えていた。
 一方、壁子によって厳重に出入りが管理された壁の外は、女神の恩恵を受けられない者達が溢れていた。
 そこではまさに弱肉強食。明日を生きるために壮絶な略奪、戦闘が行われていた。
 その内の1つの勢力下に入ったマルスは、めきめきと頭角を表し、頭領セルーの片腕のような存在へとなっていた。
「今日も大漁だな」
「ふっ、どうやらここでの生活にも慣れてきたみたいだな、マルス」
「お陰さまで」
「それにしても、不思議な奴だ、まるでこの時代の人間ではないかのような」
「あ、いや、そんなことはないぞ、わっはっは」
 この時代、この場所で何をすべきなのかを忘れかけていたマルス。それほどに、この一味は、強い絆で結ばれていた。
「大変だ!ラルクマがやられた!」
「何!」
 急いでやってきた仲間。そして、その後ろから来た仲間の背に大怪我をしたラルクマの姿があった。
「ちくしょー!どこの奴らだ!行くぞ!お前ら!」
 誰かがやられると、必ず報復に行った。
 そうしていく内に、セルーの一味は、勢力を増していった。
 次第に周囲を巻き込み、一大勢力となった一味は、遂に壁越えを決意した。
「見ろよ、マルス。あの壁の中には、富がある。食いもんがある。それが女神の恩恵だ。それを一部の人間が独占しているんだ」
「いくのか、ついに」
「ああ、外の世界も大方、俺の傘下に入った。今こそこの間違った世界への終止符を打つ時だ」
「最後まで付き合うぜ、セルー」
「お前ならそう言ってくれると思っていたぜ、マルス。それに見ろ、こんなにも強い仲間達が出来た」
 見渡すと、セルーとマルスの後ろに死をも恐れぬ大軍勢が築かれていた。
「セルーのオヤジィ!俺たちゃいつでも行けるぜェ!!」
「オヤジ!今日こそ憎き最前管理組合の首をォ!」
 勢いを増す仲間達。
「スペ!ラルクマ!お前達に俺の命を預けるぜ」
「おおおおおお!もったいねぇ言葉だぁ!野郎共!行くぞォ!!」
 こうして、最前管理組合との最後の戦いが始まろうとしていた。


「教祖様!ユケ教祖様!」
「何事だ、騒がしい」
「壁の外の連中が!!」
「何を…性懲りもなく…無駄なことを。壁子を動員しろ、バカどもを適当に追い払え」
 最前管理組合をまとめる教祖ユケは、この時点で、セルー一味をなめていた。
 しかし、今回のセルー一味の規模は、以前、壁の中へと攻め入ろうとする連中とは桁が違った。
「ユケェ!!壁に守られてるなんて思うなよォ!!」
 セルーの叫びが、ユケの耳に入ったのかどうか、それはわからない。
 だが、ユケは一旦眠りにつこうとしたのに、嫌な予感を覚えて、飛び起きた。
 慌てて外の様子をみたユケは一瞬言葉を失った。
「壁が……!!バカな……!!」
「ユケ様!大変です!敵が!敵が押し寄せてきます!!」
「この楽園に踏み入る蛮族どもめェ~~!!壁子を総動員しろォ!奴らを1人残らずぶち殺せェ!!」
 興奮したユケの様子に焦った側近達は、彼を押さえて、奥の方へと下がらせた。
 その間にもセルー達は壁のところで、猛攻を展開していた。
「ポイント3、ラルクマ隊かかれェ!」
「おう!!」
「ポイント6、壁子の反撃に遭っています!」
「マルス!応援を頼む!」
 マルスもその戦いで次々と敵を倒していた。既に信頼を得ていたマルスを、仲間達も頼っていた。
 だが、戦いを続けながら、マルスには疑問が浮かび続けていた。
(俺はいったいこの時代で何をすればいいんだ?神々の母は、いったい俺に何を見せようとしているんだ?)
 そうこうしている内に、セルー一味の猛攻は次々と壁子を突破し始めた。
 奥の間へと下がり、一旦冷静さを取り戻したユケだったが、壁子達が倒れていく光景を見て、怒りと恐怖で拳を握りしめた。
「セルー…..か。よかろう。貴様を我が敵と認めよう。そして」
 その時、ユケの目には光が戻っていた。
 彼の頭脳はめぐる。敵を排除するために、いや、自身の繁栄のために。
「壁子を倒したぐらいで調子に乗るなよ。女神の恩恵を受けし、選ばれた人間の力…お前達に思い知らせてやろう。奴を呼べ」
「奴……まさか…..!」
「そのまさかだ。確かに奴が暴れれば、この街も無事では済まない。だが、外のバカどもがこれ以上何も出来ないという恐怖を植え付けること出来よう!!」

 壁の中に突入したセルー一味は、それぞれユケのいる奥の間へと向かっていた。
「ぐああああああ!!」
「ひっひっひいいい!来るな!来るなぁ!!ぎゃああ」
(悲鳴…..?俺たちが優勢だったはず。いったい何が!?)
 マルスはその声の方へと向かった。
「ま、マルスさん…逃げて…..あれは人間じゃ……ない……」
 すると、そんなマルスの前に地面を這うように仲間が現れた。
「おい!大丈夫か!?」
「へぶっ」
 次の瞬間、空から降ってきた何かに、仲間は踏み潰された。
「へへへ、ひひひひ。もう1匹みーーっけ」
「てめぇ…何者だ」
「何者だはねぇだろ、下民がよ」
「ふん、名前も名乗れない程度の雑魚か」
「あぁん?てめぇ、俺をなめてんのか!?俺は最前管理組合のナンバーズの1人だぞ!」
 マルスは突入前にセルーが言っていたことを思い出した。
「マルス、ナンバーズに出会ったら1人で対応せず応援を求めるんだ。奴らは女神の力を過剰摂取して、もはや人とは言えない肉体を手に入れた者達……」
(こいつがナンバーズ……セルーのいるところまで逃げられるか……?)
「逃げたそうな面してんなァ?逃げられねぇぜ、俺はナンバー6…ダ・サイゼン・サク・ジャンパーだッ!!」 


 

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