プロDD・M ~その566

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

 その光景は、コイケにとって信じられないものだった。
(馬鹿な…いくら何でもありえません…..この人数のヲタクを相手にして、まして消し炭の魔女がいて、傷一つつけられないなど…..ソウチョウ…..この力は一体……)
 ヲタク達の消耗は激しかった。いくら攻撃しても倒せない相手。攻撃し続けるのにも限界があった。
「無駄だ。神話級ハッピーエンドに弱点はない」
「どうやらそのようですね…まるで世界の理を変えるかのようなその技…それが人の身で可能とは驚きです」
「……聡いな、コイケ。だが、俺の前でそうした時、そいつは早死にする」
「…..!!」
 ソウチョウが凄まじい勢いでコイケに迫った。それは今まである意味防御に徹していたソウチョウの行動からすると異質であった。
♡BEAT!」
「くっ!ぐはっ!」
 コイケの心臓に当てられたソウチョウの手から発せられた気が、激しい鼓動を打たせた。コイケはその衝撃に耐えきれず、血を吐いて倒れた。
「…….」
 皆が倒れたコイケに注目する中、消し炭の魔女はソウチョウが指を気にするのを見ていた。
「トンジルスキー!」
「了解だゾ☆」
 消し炭の魔女の声に反応し、トンジルスキーが倒れたコイケを担いで退避した。
「まだ息はあるゾ☆」
「な…ぜ…私を…」
 その問いに消し炭の魔女が答えた。
「助ける義理はない、だけど、あの男に水を差されたまま、終われないでしょう?」
「……見つけたのですね、あの男の弱点を」


 一方、群青王国は兵の大半を失い、敗走していた。
「まさかオマベまで失うことになるとは…」
 遊戯機構の強さ、特にマルスの登場は、ポンチョにとって誤算だった。
「さっきから本部と連絡が取れねぇ。遊戯機構の奴ら、そんな所にまで手を伸ばしてやがった。もう終わりだな、俺も、あんたらも」
 ライコは投げやりに呟いた。
「ライコ、お前、アッキーに会いたいか?」
「何?」
「答えろ」
「アッキーは死んだ。だが…」
「答えは出たな」
「まさか方法があるのか?」
「あるさ。俺たちがついでに走馬灯を頂く最高の方法がな」
 ポンチョの顔はまだ諦めてはいなかった。
「時にライコ。走馬灯で召喚されるヲタクの法則を知っているか?」
「ああ、かつて覇業を成したヲタクでなければならない。その巨大なエネルギーを走馬灯が呼ぶんだ」
「違う、そこじゃない。召喚されたヲタクはタロットにあてはめられてクラス分けされる。例えば、力のアネンゴ、皇帝のターロックはわかりやすい例だろう」
「それがどうかしたのか?」
「これには続きがある。タロットは進化する、いや、別種のといってもいい」
「確かに…技のヨシケー、欲望のカエル…こいつらは最初からいたわけじゃねぇ」
「ほぅ…欲望のカエルか…進化したクラスは、より強い力でそれを取り込まねばならない。力の進化系が欲望だ。全てのクラスに進化系があるわけではないが、あるんだ。アッキーに適したクラスが」
「!!」
「その名も、永劫……不死王と呼ばれたアッキーにこそ相応しいと思わないか?」


「さぁ、行くわよ、お前たち。あの異物を排除する」
 消し炭の魔女の号令に、その場のカエル以外の全員が呼応した。
「…奴ら、何かしてくるらしいな。もとより神話級ハッピーエンドには何をしても無駄だが、念のためだ、カエル」
「うひひひひィ…..任せろってのよ、にゃー」
 そして、ソウチョウに向けて、総攻撃が始まった。
モノクローム……!!ぐはっ…」
 コイケは血を吐きながらも、周囲に自身の結界を展開した。
「これは、コイケの……周囲と隔絶した己だけの世界、そこではまさに自身の思い通りに事を進められる、似ているな…そこに味方を引き込むとは…だが術者への負担も相当なものだ」
「考えてる場合?ヒュプノス
「うっ…….」
「さぁ、眠りへと誘うわ。永遠のね」
「やはり直接的な攻撃でなければ、喰らうのね!打ちな!トンジルスキー!!」
ナイットン!!」
 トンジルスキーの放つ光線が、ソウチョウを焼き尽くした、はずだった。
「まだよォ!四葉のクローバー!あたしの幸運をMAXまで上げてェ!!会心の一撃ッ!!」
 ナイットンに紛れて接近していたシャクの強烈な一撃が、ソウチョウを倒した、はずだった。
正義執行!」
 ソバシの蹴りがソウチョウの側頭部を捉えた、はずだった。
「ライチ!何をしている!」
「いやいや、これ、無駄でしょ。見てよ。ソウチョウさ、やっぱり無傷なんだよ、お手上げさ」
 ライチが降参のポーズを取ると同時に、コイケのモノクロームの結界が解けた。
 力を使い果たした脱力感と、何をしても敵わないという絶望感が皆を襲った。
 目を覚ましたソウチョウは静かに、まずコイケへ向けて歩いてきた。
「君たちは勘違いをしている。因果を曲げるとか、幸運だとか、ましてや眠らせたり、絶え間なく攻撃を仕掛けたりだとかじゃあないんだよ。真の強者とは、その枠外に存在する」
「はぁ…はぁ…げほっ…」
「まずはコイケ、君からだ。♡BEATは時間がかかるのが難点だ、今度はすぐに楽にしてやるよ、ウタカタ…..
 そう言ってソウチョウの手がコイケに向けて伸びたその時だった。
 そのコイケの身体を突き破った細い腕が、ソウチョウを捉えた。
業火爆炎掌……!!」
「ぐあああああああああああああ」

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