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敵は「自分たち」にあり。改善されつつある攻撃にフォーカスする。

鹿児島戦まで3日に迫った木曜日の朝、ヴェルディサポーターに激震が走る衝撃的な一報が届いた。「この度、渡辺皓太選手が横浜F・マリノスに完全移籍することが決定しましたので、お知らせします」。日本代表の一員としてコパアメリカに参戦し、先日、新キャプテンの就任と結婚を発表し、まさにこれからという時期の移籍に多くのファンは驚き、大いに悲しんだ。そんな中、今節からは「FUSION 50」の50周年記念ユニフォームを着用し、悲願の昇格に向けて、永井ヴェルディは「ヴェルディらしさ」とともにひた走る。それでは試合を攻撃の中でもビルドアップ・崩しの局面に分けて振り返る。

1. 両チームのスタメンとフォーメーション

両チームのスタメンとフォーメーションは以下の通りである。

ヴェルディは今夏新加入のカン・スイルが先発デビュー。藤本が渡辺の後を引き継ぎ、キャプテンマークを巻いての出場となった。

一方、鹿児島は前節久々の勝利を飾った流れそのままに連勝を目指す。

2. 攻撃

・ビルドアップ

鹿児島は2トップのプレッシャーである程度中央のコースを限定しながらプレッシャーをかけ、SBに入った瞬間に圧縮し、ボールを奪いに行く形。

これに対して、ヴェルディは上福元が高い位置を取り、3vs2の数的優位を常に作り出す。序盤、鹿児島の2topはヴェルディの2CBをマークしに行くことを選択。結果、中途半端に高いDFラインをGKからのロングボールで攻略することもできていた。

ビルドアップにおける各々の役割をまとめると、以下のようになる。

① 最終ラインは上福元を含めた3枚で数的優位を確保
② 基本的にフォローに入るのは奈良輪・山本の「サイドアタッカー」と「リベロ」に入る井上のみ
③ 「フロントボランチ」は敵MF-DFのライン間を常に意識する
④ 小池、カン・スイルの両翼は的最終ラインを広げる役割かつ、「フリーマン」であるレアンドロが中盤に降りたとき、裏抜けによって敵最終ラインを押し下げる役割も担う

図1は実際に最終ラインでの数的優位の確保からチャンスにつなげたシーンである。

まず、最終ラインでの数的優位の確保によって、敵の2topは上福元に効果的にプレスをかけられない状況を作る。その際、敵最終ラインの4枚は中央を固めるため、ペナ幅での守備を行なっていた。これをみた上福元は小池に正確なロングフィードを供給。このロングボールに対して、敵左SBが対応するものの最終ラインのスライドは間に合わず、結果としてチャネル(SB-CBの間のスペースのこと)を広げることに成功。最終ラインでの効果的なビルドアップからチャンスを作り出すことに成功する。

また、藤本の負傷交代により前半途中に「リベロ」に入った山本も効果的な働きを披露。常に敵FW-MF間に位置する絶妙な立ち位置を見せつけ、鹿児島の前からのプレスを機能不全に陥らせた。

前半はほとんど最終ラインでのビルドアップのミスは見られず、安定したビルドアップができていたが、後半に入るとその様相は一変する。

原因は主に2つある。

1つは選手交代によって鹿児島の敵陣内でのプレスの強度が高まったこと、もう1つは藤本の負傷交代による右サイドの配置換えが挙げられる。

まず、鹿児島はパワー系FWハンヨンテを後半に投入し、GKまでの2度追いを行うなど、全体的なプレスの強度を上げてきた。その中で、狙われたのが近藤である。

ヴェルディは藤本の負傷交代によりプランの交代を余儀なくされることになる。これにより、右サイドはワイドストライカーに井上、フロントボランチに森田、小池がサイドアタッカーにポジションを落とす。この策があまり上手くいかなかった理由と河野投入で巻き返した理由については後述するとして、今回はビルドアップにおける影響を考察する。

図2を見てもらいたい。

図2は失点につながるスローインを献上した56分のシーンを表している。

ヴェルディの右サイドはトライアングルのポジションチェンジによってボールの前進を図った。しかし、ポジションチェンジのタイミングが選手同士でおそらく効果的に共有されていなかったのだろう。結果として、前半にあったようなビルドアップ時のバランスが崩れ、近藤がボールを持った際に孤立した。そこで鹿児島は牛之濱を前に出すことでヴェルディのビルドアップを阻害。これが先制点につながることになる。

・崩し

ヴェルディの崩しの目的はボールを回しながら、ポケット(ペナ角)を取ることだ。
これにはプレーの簡素化かつゴールに直結しやすいこと、またペナルティエリア中央を崩すより簡単であるという利点がある。

ポケットにおけるゴールに直結するプレーは以下の3つしかない。

① シュートを打つ
② キーパーと最終ラインの間にクロス
③ マイナスに折り返す

この3つしかないのだ。
だからこそ、ポジショナルプレーを標榜するチームはハーフスペースの活用を掲げ、ポケットを目指す。あのマンチェスターシティもその1つである。

永井ヴェルディになって3週間。少しずつポケットを取る回数も増えてきた。この試合も立ち上がりはサイドのトライアングルにレアンドロも加わることでポケットを取るシーンも見られた。

しかし、選手交代後はこの形を形成することが著しく減った。

一つの要因として、図3の様に右サイドで完全な縦関係になっている場面が散見された。

縦、横パスの悪い点としては、敵DFの視界が変わらないことが挙げられる。縦パスや横パスは比較的容易に敵を同一視野に捉えられるのだ。

一方、この点において「斜め」のパスは秀でたところがある。「斜め」の様な複雑な方向性では敵を同一視野に捉えることは難しくなる。また、斜めのパスでは攻撃側は常に半身で、ゴールを向いた状態でボールを受けることができる。だからこそ、ポジショナルプレーにおいて、「斜め」のパスは重用される。

話を元に戻そう。特に右サイドにおいて縦の関係性になっていたものを斜めの関係性に戻したのは何を隠そう河野広貴である。

それでは得点シーンを見てみよう。

反撃の狼煙をあげるゴールとなった1点目から。

ポケットへの走り込み、見事なアシストもさることながら時計の針を10秒ほど戻すことにする。

このゴールの起点は近藤から河野へのグラウンダーパスから始まっている。

図4の様に右サイドの関係性が斜めになっており、さらに小池が内側をフリーランすることで河野にスペースを与えていることが分かる。理想的な立ち位置からスペースを作り出し、これが結果的に反撃のゴールにつながることになる。

さらに、一時逆転ゴールとなったシーンを見てみよう。

図5のようにここでも河野・小池が斜めの関係性を作り出し、チャネルランを行うことで敵の守備陣形を下げさせることに成功。これをみて河野はカットイン。

そして、図6に続くことになる。これまでで近藤から河野への斜めのパスと小池、森田のチャネルランにより、鹿児島の中盤は無理やり下げさせたことがわかる。そこに河野がカットインして、梶川に横パスを送ることで完全に鹿児島の守備陣の視点を斜めにずらすことに成功した。これにより、河野がカットインしたことで空いたウイングの位置に入った小池が、ちょうど鹿児島のDFの死角に入っていることがわかる。ここに梶川から絶妙なボールが出され、河野の逆転弾が生まれることになる。

このように効果的なサイドの立ち位置を取ることと「斜め」の関係性を作ることで鹿児島守備陣を攻略し、2得点を生み出したことがわかる。

3. まとめ

ビルドアップにおいて徐々に選手が適切な立ち位置を取ることができるようになり、安定感が生まれてきた。しかし、右サイドのポジション変更の狙いは筆者にも理解はできたが、ピッチの選手が困惑していたように思えた。それが文字通りの「自滅」である1失点目につながってしまった。

一方、崩すことは、立ち上がりはできていたが、藤本の負傷での配置換え以降では、最後の10分にやっとできるようになってきた。ヴェルディの崩しに関しては「再現性」がかなり高い攻撃であるため、選手が状況に応じて「相手」を見た立ち位置を取りながらポジションチェンジを繰り返していけば決定機は自ずと増えていくことを予感させてくれたゲームである。

井上のワイドストライカー起用だが、せっかく大外の小池にボールを運び、チャネルを広げたにも関わらず、そこに走りこむタイミングが合わないというシーンも見受けられた。これはワイドストライカーとしては致命的であるように筆者は感じる。このポジションに不慣れである現状を踏まえれば経験を積むことで化ける可能性は持っていると思うが、現時点では小池をワイドストライカーで起用した方が効果的だろう。

カン・スイルは要所で自らの能力の高さを見せつけたが、まだ裏抜けするタイミングが合っていない場面も合った。ただ、その身体能力の高さはJ2屈指。戦術にフィットしてくれば結果も付いてくるはずだ。期待の新戦力である。

トランジションはあまり触れなかったが、アンカーの山本がおそらく負傷の影響もあり、激しくタックルを受ける中央を嫌い、ボールサイドにサポートに行く形が後半は見られたため、ボールを不用意に奪われた際、一気にゴール前まで運ばれる形が目立った。このサッカーなら「リベロ」はボールを奪われた際に中盤でのフィルター役も担わなければならないポジション。攻撃時の「リベロ」の立ち位置は早急に修正すべきだ。

守備はおそらくまだほとんどトレーニングできていないはず。守備戦術が確認でき次第、本ブログでも触れていきたいと思う。

ゲームのクローズには大失敗を犯し、あわや勝ち点を失う状況まで行ってしまったが、攻撃に関してはポジティブな要素が出た一戦だったように思う。
今後、攻撃において課題となるのは「ポケットに走り込む人の整理」「ワイドストライカーとサイドアタッカーの関係性」になるだろう。ここを整理できた時にはかなり再現性の高い攻撃ができるようになるはずだ。

未だ前途多難な「永井ヴェルディ」だが、その先には「ヴェルディらしさ」があることを信じて、筆を置きたい。