チームに残る前任者の偉大な「影」。進まない「破壊と進化」。困難を極めるチームビルディング。
完成度の差が如実に現れる
「今節は我々本来のサッカーをお見せする」。ギャリー・ジョン・ホワイトは報道陣に向かって力強く話していたそうだ。対するはこれまたボールを大切にするサッカーを志向する愛媛FC。地上戦のぶつかり合い。まさに、今季のサッカーを披露するには打ってこいのシチュエーションだった。しかし、蓋を開けてみれば、点差以上の完敗ぶり。それぞれのチームの完成度の差がそのまま結果に反映される形になってしまった。
試合の展開を、順を追って振り返る前に同じく今節の試合を扱ったレビューを載せておきたいと思う。私のプレビュー記事はシステムこそ違うが、原則は同じなので、読んでいない方はぜひ読んでいただきたい。どのブログも大変参考になり、勉強になるブログばかりである。ヴェルディ界隈で戦術の話をする同士がいることを大変うれしく思う。
川井体制2年目で高まる完成度。攻守におけるアグレッシブなサッカー、その本質に迫る。|あ @soccerverdy07|note(ノート)
これがホワイトヴェルディだ!|Haru @oaowegasb10|note(ノート)
【雑感】2019年J2リーグ 第2節 対愛媛FC|tad|note(ノート)
試合の振り返りの詳細は、tadさんやHaruさんのブログに詳しく書いてあるので、そちらの方もぜひご覧ください。
なお、スターティングメンバ―は以下のようになった。
愛媛FCは前節とは打って変わって4バックを採用。守備時は4-4-2で守り、攻撃時は近藤がインサイドハーフ、吉田が右のウイングまで目一杯幅をとり、4-3-3に代わる可変システムを採用。また、左サイドは左ウイングの神谷がハーフスペースに位置を取り、幅はサイドバックの下川がとる形だった。
ヴェルディは前節から1枚の変更。小池を左サイドに配置し、レアンドロと佐藤の縦関係の配置を採用した。
立ち上がり20分は優勢に出たヴェルディ
序盤からヴェルディは攻勢に出る。センターバックではなく、ボランチでのワンタッチでのパス交換を軸に右サイドの藤本、佐藤、レアンドロが絡みながら、左サイドの小池に高い位置でボールを渡す。奈良輪と小池の2枚がサイド攻撃に厚みを加え、愛媛守備陣を苦しめていた。小池が外に張るときは奈良輪が内側に入り、奈良輪が外側にいるときは、小池がハーフスペースから外側に流れる動きを見せるなど、まずまずの連携を見せた。ただ、個人的には両者とも大外レーンの選手なので、プレーエリアが被る同サイドでの起用にはやや否定的ではある。積極的な仕掛けで相手を翻弄した小池は、昨シーズンまでは見られなかったサイドでの1vs1に強いプレーヤーで、今季のヴェルディのキーマンになるかもしれない。
徐々に持ち味を発揮する愛媛のボール回しと脆弱な守備組織
20分を過ぎ、試合が落ち着いてくると愛媛のボール回しがヴェルディのディフェンス陣を苦しめる。私が書いたプレビュー記事でいう“ビルドアップ隊”を3+2ではなく、2+3で形成した。ここでいう2は西岡、前野のCBで、3は長沼、田中、野澤である。左サイドバックの下川が高い位置を取るので、その位置にボランチの野澤が降りてくる形が頻繁に見られた。立ち上がりは愛媛のビルドアップ隊に対して、藤本のプレッシングに呼応するようにGKまでプレスをかけ、空いてしまう藤本がマークしていたスペースを右サイドバックの田村、あるいはボランチの片方(主に梶川)がカバーをする形で前線からのプレスを積極的に行い、これが攻を奏していた。ところが、前半中盤あたりからDFラインが近藤の裏へのランニングを警戒したのかなかなか上がらなくなり最終ラインと中盤の間が間延びしてしまい、そこのスペースをうまく活用されてしまった。
こうして、疑似カウンターを食らい続けると、否が応でも守備組織はミドルゾーンまでの撤退を余儀なくされる。佐藤とレアンドロが縦関係の4-4-1-1でブロックを組むが、特に前野から斜めのクサビを簡単に打ち込まれてしまう。これは、ヴェルディ守備組織が人につくのか、スペースを守るのかが全くはっきりしないことが原因であることは明らかであった。その後、4-1-4-1にブロックを組みなおすもシステムのかみ合わせではなく、問題はより根本的なところにあった。この流れから失点を食らい、前半は終了することになった。
後半も流れは変わらない。レアンドロは運動量がもともと多い選手ではないうえ、前線では佐藤や内田が主に人に対する守備を行い、その他の選手はスペースを守るディフェンスをしているため、全くボールを奪うことができない。奪ったとしても守備で体力を奪われ、前に出ていくことができず、即時奪回を許してしまう悪循環に突入していた。また、愛媛FCは常にボールを受けるときに半身になることができる斜めのパスを繰り返すため、中途半端なプレスではワンタッチで簡単にいなされてしまう。さらに、ビルドアップも田村が真横でサポートを行い、藤本も右サイドの幅をとらないので、右サイドのビルドアップが窮屈になってしまった。この状況を受け、ベンチが動く。
指揮官が決断したシステム変更と愛媛の反応
これを受け、ラスト15分間で指揮官が動く。下を田村、李、平の3バックに変更。右に小池、左に奈良輪を配置し、端戸を頂点に佐藤、河野がシャドーを務める3-4-3に布陣を変更。両サイドに幅をもたらし、河野や端戸が積極的に背後へのランニングを行うことで深さを作り出す。すると、直後、奈良輪へのサイドチェンジを起点に最後は梶川がポストに直撃するこの日最大の決定機を作り出す。だが、しかし、そこはさすがの愛媛である。丹羽を投入し、前節の布陣である3-4-3に修正を図り、幅を無力化することに成功する。終盤、林の投入でよりパワープレーの要素を強め、セットプレーからこれまたクロスバー直撃のチャンスを作り出すもゴールは奪えず、試合終了。開幕2連敗となってしまった。
ホワイトヴェルディが乗り越えるべき難題
ここからは個人的にこの試合を観戦して露呈した新生ヴェルディの課題について考察していきたい。攻撃・ネガトラ・守備・ポジトラの順で書いていきたいと思う。
攻撃
試合の振り返りでも書いたが、下から丁寧につないでいくスタイルを採用するのであれば、ビルドアップのボールの逃がしどころとして幅を取ることは不可欠である。より流動的なサッカーを展開するにしても大外レーンには1枚は置いておかないと、逆サイドにボールを振っても敵を揺さぶることはできない。田村と藤本の関係性、小池と奈良輪の関係性のところをより細かく整理しなければならない。筆者は高い位置で幅を確保するための、昨季足りなかったところである1vs1で仕掛けることができるウイングアタッカーとして、小池、ヴァウメルソン、河野を獲得したのだと考えている。彼らをチームに馴染ませ、幅を取らせるべきだと思う。また、より攻撃的な采配として小池の右サイドバック起用も一つの手段ではないか。
ビルドアップは2+2で必要に応じて、他の選手が入ってくる形が理想形であり、あまり多くの選手がビルドアップに関わることは得策ではない。愛媛のようにサイドのウイングと真ん中のセンターフォワードでDFをピン止めするポジショニングは学ばなければならない。人に関しては流動的でもある程度サポートを行う位置をチームとして決めておくのもありかもしれない。また、レアンドロ、佐藤共にボールを足元で受けたい欲が強く、背後へのランニングが少ないことも気がかりである。だが、これに関しては端戸が解決策になりうる。ただ、あまり端戸がサイドに流れすぎるとゴール前に人がいなくなってしまうので、注意が必要だ。攻撃面では前線4枚とボランチの片方の5枚での創造性に任されているところもるので、アタッキングサードに入ってからの攻撃面での熟成はまだまだ時間がかかりそうだ。
ネガトラ
この局面でもヴェルディは問題を抱えている。昨シーズンまでと違い、ポジショニングが明確に決められていないため、奪われた後のフィルター役が明確に決められていない。奪われたあとの切り替えをより早くし、ボランチの片方が潰しにいく、即時奪回の形を作ることができれば理想的である。
守備
レビューでも書いたが、この局面でも前体制との違いに戸惑う選手が多い。スペースではなく、人にアタックし、相手からスペースを奪い取りに行くような守備が見られたのは結局立ち上がりだけであった。その後はずるずるとラインが後退していき、前線と最終ラインでの意識が乖離してしまった。おそらく、監督はボールサイドを限定し、相手サイドバックのところまでヴェルディのサイドバックがプレスをかけ、ボールを奪うことを望んでいるのだろう。そして、空いた背後のスペースはボランチがカバーする。よりボールにアタックするように指示をしているのだろうが、選手が戸惑いを見せているのだろう。監督がより選手に自信を与え、前から奪いに行くことにフォーカスしていかないと現状の改善は難しい。
ポジトラ
前からボールを奪いに行くことがうまくいっていないことがこの局面にも影響が出ている。奪った際にエネルギーを使い果たし、ボールを出すところがなくなったり、やり直したりすることを選択することが多く、新たな狙いでもあるショートカウンターに持ち込むことはなかなかできていない。サッカーはすべての局面がつながっており、どこかの局面での問題は必ず影響が出てくるスポーツである。これこそがサッカーの面白いところであり、戦術分析の醍醐味である。
まとめ
愛媛FCはプレビュー記事でも書いたが、戦術的にも素晴らしいチームであることをまず認めなければならない。チームとしての原則が明確でそのうえ、戦術的柔軟性も持ち合わせている。文字通りの完敗である。
一方、ヴェルディは偉大なる前任者の「影」に苦しんでいるという見方もできる。ここ2シーズンのロティーナとの「美しい旅」は失敗ではなく、むしろチームをJ1まであと一歩のところまで導いた。この成功体験から選手が抜け出すことにはやはりそれ相応の痛みと時間を引き換えにしなければならない。新指揮官に求められる「破壊と進化」は想像以上の大改革であり、改めてミステルの存在を我々に示すような開幕となってしまっている。