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FUJIFILM SUPER CUP から考えるサンフレッチェ広島の進化と強さ

割引あり

シーズンを開幕を告げるFUJIFILM SUPER CUP。今年で最後になるこの大会。このタイトルを賭けて戦ったのは昨季リーグ連覇と天皇杯を制したヴィッセル神戸とスキッベ監督の下、確かな強さを継続的に発揮しているサンフレッチェ広島。共に良いシーズンを切るために勝利を欲した一戦でした。そして見事に制したのはサンフレッチェ広島です。今季のサンフレッチェ広島の進化とその強さを垣間見た一戦だったと思います。

では今回はFUJIFILM SUPER CUP から考えるサンフレッチェ広島の進化と強さを考察していきますので、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


積み上げつつある保持

この試合で僕が感じたことは「強引に敵陣に入ること」が少なくなったことです。ロングパスを使いながらトランジションを発生させて前進することの多かったサンフレッチェ広島でしたが、この試合を見てみると下のパスで丁寧に進んでいくことが多かったです。

では昨季とどのように違うのでしょうか。それはきっとプレーエリアの棲み分けとタスクの明瞭化にあると思います。まずそのタスクから考えていきます。

棲み分けとタスク明瞭化

棲み分けとタスク

昨季と大きくことなるのがWBのタスクとプレーエリアです。昨季以前はWBが深さを作り出すことの多かったサンフレッチェ広島。特に中野選手がWBに入っている時には彼を目掛けて積極的にロングパスを使っていた印象を受けます。しかしこの試合は両WBとも低めの位置でサポートや起点に回ることが多かったです。だからこそ、ヴィッセル神戸のプレッシングを止めることに成功していました。さらにCBのサポートを積極的に行なったことにより、プレッシングプレーヤーの内側と外側にパスコースを創出することに成功していました。

これに付随してSTのタスクもブラッシュアップされています。プレーエリアがハーフスペースと大外レーンになっており、深さを当然作り出すのですが、ライン間に留まることが多くなっています。これは相手の最終ラインからDFを一枚引っ張り出す効力があります。さらにWBのサポートとCBからてパスを引き取るための繋がりを作り出すことができるようになっていました。加藤選手とアルスラン選手のタスクは若干違いますが、大枠はライン間に留まることがタスクとしてあると言えそうです。昨季よりも深さを作りに行くタイミングが遅くなっていること、その回数が減っていることは確実です。

では誰が深さを作り出すのか。それは当然CFです。今冬加入したジャーメイン良選手はレーンやラインを跨ぎながらボールを引き取ること、さらにサイドに流れて深さを作り出すことも得意とする選手です。彼の加入によって深さを作るタスクが基本的にCFに固定された印象を受けます。ここで重要なのが、STのタスクとリンクしていることです。STが最終ラインから相手を引っ張り出せるポジションを取っているので一番奥が空いてきます。この3トップの連携があり、さらにそのタスクを支えるWBのプレーエリアの棲み分けがあるからこそ、下からの前進ができるようになっています。

そしてこれらを支えるのが3CBとCHです。この土台の安定感はヴィッセル戦を見ているととてもレベルの高いところにあるなと強く印象に残りました。特に佐々木選手と塩谷選手の配球能力を生かすためのCHの立ち位置と影響の与え方はとても良かったと思います。佐々木選手と塩谷選手が攻撃の始まりとなっていましたし、さらに荒木選手の配球能力も昨季からどんどん成長しています。この3CBにしっかりと時間と空間を渡していくために、田中選手も中島選手も安易に手前に降りずに1stプレス隊を止めること、ヴィッセル中盤の選手を動かすこと(共に影響を及ぼすこと)を考えながらプレーしているように見えました。

これらのプレーとエリアの棲み分けが明瞭化したことによって、丁寧にしたから進むことが可能になっているのだと思います。

では次は具体的な進み方となぜその進み方で押し込んでいけるのかを考えていきます。

具体的な進み方とその効力

右サイドの進み方

ヴィッセル戦で見せた進み方は左右で少し違っていました。ではまず右サイド、塩谷選手と中野選手サイドから考えていきます。

塩谷選手から始まる前進

先にも触れたように、CHが3CBに時間と空間を作り出すことを考えながらプレーしていきます。そのためCHはDF−MFのライン間でプレーしながら、1stプレス隊や2ndラインの選手を止めたり動かしたり、影響を与えていきます。これによって得られた時間と空間を享受していたのが塩谷選手です。ここで彼は相手を待つことができるので、さらに中野選手と加藤選手にその時間と空間を渡すことができます。改めて本当に物凄い選手なだあと感じます。
ここで彼はWB↔︎SBの距離とヴィッセルCH、ここだと齋藤選手を見ながら中野選手にパスを出すのか、それとも加藤選手へパスを出すのか、はたまたヴィッセル最終ラインの背後にボールを落とすのかを選択していきます。 
ここの判断が抜群に良いのが塩谷選手です。

まずWBでSB、STでCBを引っ張り出せた時のプレーの優先順位について触れていきます。

背後に落として2nd回収とサポート

まず昨季以前からよく使う上のパスによる前進です。昨季以前からブラッシュアップされているのが「CBを動かしてから」上のパスを使うということです。これを行うために前項で話したSTがライン間に留まることをタスクとして課しています。さらにWBでSBを引っ張りだすことができれば、ボールサイドのハーフスペースと大外レーンが自然と空いてきます。ここにCFのジャーメイン良選手が流れて起点を作ることで全体を押し上げていきます。さらにプレスを呼び込むことに成功しているので、自分たちは前向きに、相手は背走している状況でサポート・2nd回収に入ることができるようになっています。ここの深さの取り方も整理されたことでしょう。

次に3トップでDFラインを止めた場合です。

この場合はWBがフリーになれることが多い

一番怖い背後を使われ続けると、やはりそこを空けたくなくなるのがDF心理です。だからWBに対してSBが出ていくことが難しくなっていきます。この状況を作り出すことができれば、多くの場合はWBで時間を作り出すことが可能になってきます。当然ですがヴィッセルSHがWBを切りながら(外切りプレス)CBに向かってくる場合はCHもしくはSTへの縦パスかやり直しを選択していました。
この試合に関してはヴィッセルSHは真っ直ぐCBに向かっていくことが多かったので、塩谷選手は中野選手を見つけて彼が起点を作り出すことができていました。

ここからが昨季と大きく変わったことだと僕は思っていて、WBからCHへの横パス、並行のサポートがスムーズになりました。なぜこのルートが確立されたかというと、まず前進の局面においてCHが手前に降りずにライン間に留まってプレーする機会が増えたからだと思います。スキッベ監督は1stプレスラインの手前に降りてプレーすることを嫌っています。その最もたる例として、昨年のエディオンピースウイング広島で行われたグランパス戦で、川辺選手が手前に降りてプレーすることが多かったのですが、交代を告げられてしまいました。パフォーマンス的には悪くなかったです。そして次の試合からは手前に降りるプレーが格段に減りました。この理由として、きっと進んでいく際に人数を前に揃えていたいからだと思います。

話しを戻すと、それゆえにCHがライン間でプレーすることによって並行ルートを確立できました。さらにWBで起点を作ることができているので、ヴィッセルCHは3トップへのフィルターをかけるために一度戻らなくてはなりません。なぜなら1stプレスラインを超えられて、全体を押し戻す時間を稼がなければならないからです。

これによって、先ほどの画像のように並行を使って前進をしていくことが可能になっています。ではここでもう一度、その画像を確認してみてください。

これで全体を押し上げながらコンパクトに進んでいくことができています。だからこの試合、田中選手や中島選手のボールタッチ数は多く、彼らがゲームをコントロールすることができていたのではないでしょうか。さらに左利きの田中選手が右CH、右利きの中島選手が左CHに入っていた理由は、ボールを引き取った時に、スムーズに逆サイドまでボールを持っていけるような意図があったように僕には映りました。縦を意識させたがゆえに横断を使っていけるお手本のような前進だと思いました。

当然ですが、ヴィッセルのCHの戻しが間に合わない場合、もしくは意図的に並行を消してくる場合もあります。その場合のWBの選択肢も多く残されているのが今季のサンフレッチェ広島だと思います。

多くの選択肢を持てるWB

WBで起点を作った場合、「持ち出す」「STの深さを使う」「CFの深さもしくは基準点を使う」の3つの選択肢が主にありました。これを安全に提供することができていたので、たとえ並行を潰されたとしてもスピードを上げずに前進をしていくことが可能になっています。さらにここでもジャーメイン良選手のポストプレーが効いていて、彼が時間を作ってくれること、もしくは2ndボールを能動的に発生させてくれることで、ここでも自分たちは前向きにプレーすることができるようになっていました。これらを上手く駆使しながら進んでいたのが右サイドです。

では次は左サイドの具体的な進み方について考えていきます。

左サイドの進み方

左サイドは特にアルスラン選手にある程度の自由が与えられているように見えました。というのもジャーメイン良選手がDFラインを押し下げてくれる、止めてくれるので、ライン間でのプレーエリアが広がっていることによってそのように映るのかもしれません。
さらに東選手、中島選手と彼らのリンクの作り方はさすがの一言です。では具体的に進み方について触れていきます。

リンクの作り方

まずこの試合とても目立っていたのが中島選手です。ボールを持った時の技術やビジョンは彼の最大の特徴として挙げられますが、それに加えてリンクプレーと相手に影響を与えるプレー、そして列上げでのサポートが抜群に上手いです。ボールプレーヤーなのは間違いないですが、そのボールを引き取るまでの文脈も完璧で、改めてとんでもない選手だなと感じました。

その中島選手は佐々木選手に時間と空間を渡していくために相手を止めれる場所に入ることが多くありました。この際に田中選手がDMF化していることでバランスを取っています。ここにも田中選手が加わった大きな影響があると思います。
このリンクを作り出すために、最前線ではジャーメイン良選手と加藤選手が最終ラインを止めています。これにより、先ほど触れたアルスラン選手のプレーエリアが広がっていました。ジャーメイン良選手の加入によって一番その影響を享受しているのはアルスラン選手だと思います。

1つ前のライン間へ侵入

そしてこのように東選手経由と中島選手経由の2つのルートで次のライン間に侵入していきます。ここでも中島選手の良さが詰まっていて、相手のプレスを見ながらターンして前に進んでいくのか、それとも簡単に捌いて2手、3手先のプレーで関わるのか、ここの判断をしながらプレーしていました。ここで中島選手が列を上げれるのも田中選手がアンカータスクをほぼ完璧にこなしてくれるからです。
これによってアルスラン選手がライン間で前を向ける回数が多くなり、レーンを跨ぎながらドリブルしていくことで全体を押し上げる時間を作りつつ、崩しの準備をしていました。

このように左右それぞれ違う進み方をしていますが、きちんと「全体を押し上げる」ことができるようになっています。ではこの全体を押し上げる効力はどこにあるのでしょうか。

丁寧に進んでいく効力とは?

スキッベ監督が就任してからのサンフレッチェ広島と言えば?と問われると、きっと多くの人は「ハイプレスを仕掛け続け、縦に早いチーム」と答えると思います。もちろん、これがスキッベ監督が作り上げてきたチームカラーです。しかしこの試合を見る限り、いや、昨季夏ごろの試合内容を見る限り、スキッベ・サンフレッチェは保持を積み上げています。

そう感じるのはロングパスが少なくなったこと、試合テンポの管理ができていること、そしてそれを裏付けるここまで説明した棲み分けやタスクの明瞭化、具体的な進み方にあります。

そしてちょくちょく触れている丁寧に進んでいく効力やメリットはどこにあるのでしょうか。
結論、これは「ずっと俺のターン」ができるようになるということです。今までは強引とはいかずとも、少し無理やり敵陣に入っていくことが多くありました。それゆえにCFは強靭なフィジカルが必要で、なおかつハイボールを収められる選手が重宝されてきた印象です。なぜならそこで起点を作っていくことで、トランジションを発生させてゲーゲンプレスを発動させていくからです。当然この試合もそれを使うことはありましたが、その回数は激減しているように感じました。
この方法はかなりの体力を使い、さらに2ndボールを仮に相手に拾われてしまうとそのスピードが跳ね返ってきます。擬似的な被カウンターの発生に繋がってしまうことも少なくなかったです。それでもここまで好成績を残せたのは、それを覆い隠すだけの、上回るだけの3CBの強さや大迫選手のビッグセーブがあったからです。基本的にカウンターを受ける場合は、3CBが晒されてしまいます。ここがサンフレッチェ広島の弱点の1つだったと言えます。

しかし丁寧に進んでいくことによって、被カウンターを未然に防ぐことができます。なぜなら進んでいくときに相手を動かして分断しているからです。この分断を作れば作るほど、ネガティブ・トランジション、よく言うネガトラを優位に進めることができます。さらに自分たちは「整った状態」でプレーをしているので、仮にボールを奪われたとしても即時奪回に割ける人数を揃えることができます。だからロングパスを使い、トランジションを発生させた際にも、2ndボールを拾える確立がグンと上がっています。ヴィッセル戦に関しては、昨季よりも回収できた回数は多かったはずです。

さらに相手のプレスを1つ1つ剥がしていくことによって、プレスを止めることができます。そうすると敵陣に入れる回数が多くなり、相手を自陣に押し付けることが可能になっていきます。現にヴィッセル神戸はプレッシングが止まってしまい、さらにはWBまでSHが下がることが多くなったので、6バックのような形になっていました。ここまで後ろが重たくなると、前に出ていくことはとても難しくなります。それを作り出したのがサンフレッチェ広島です。こうなってくると、より中央の中島選手や田中選手のボールタッチは多くなり、CBの攻撃参加も促すことが可能になってきます。CBも高い位置を取れると言うことは、奪われた瞬間の守備の強度も上がっていくことになりますし、相手は前線に人数をかけれない状況になります。
もちろん、剥がされてしまうとピンチになりますが、それ以上にメリットの方が大きいです。

このように丁寧に進んでいくことによって、相手のバランスを崩して、尚且つ体力を温存しながら試合を進めていくことが可能になっていきます。トランジションを発生させても自分たちが整い、コンパクトなのでそこでの勝率も高くなっています。そしてサンフレッチェ広島は基盤にトランジションの強さがあるので、この使い分けができるのも強いと言われる理由かもしれません。だから押し込んで押し込んで、「ずっと俺のターン」を作り出すことができます。

ではここからは押し込んだときの崩し方に触れていきます。

押し込んだときの崩し方

ここまでは押し込むための方法と丁寧に進んでいく効力やメリットを考えました。ここから先はどのようにフィニッシュワークまで持っていっていくのかをヴィッセル戦を参考にしながら考えていきます。

まず基本的にサンフレッチェ広島はクロスからのフィニッシュワークが多くなっています。これはスキッベ監督が就任してからずっと行い続けたことで、今季もこれが基本形になるはずです。

しかし昨季と「お、なんか違うぞ?」と思わせてくれる場面が多々ありました。それはサイドの崩し方です。尤も丁寧に進んで押し込んでいるので、その方法が変わってくるのは当然かもしれませんが。

サイドの崩し隊とフィニッシャー

まずサイドの崩し隊とフィニッシャーの明確化です。昨季は松本泰志選手がいたので、ポケットを取る選手が彼になっていましたが、今季はそこがSTもしくはCBになっている印象を受けました。CHがチャンネルやポケットに突撃しなくなった理由として、ネガとらの担保があると思います。3列目からの攻撃参加は有効的なのですが、仮にその崩しの途中で引っ掛かるとネガトラのフィルターがいなくなってしまいます。そうすると中央を突破されて、せっかく全体で押し込んだのに、一気に全体を自陣まで下げなければならなくなります。
CBやSTにすることによって、そのリスクは減りますし3CBなので最終ラインに人数を最低限揃えることもできます。何よりもクロスを上げて弾き返された時にCHがその2ndボールを拾えることは大きなメリットです。これも先ほど触れた「ずっと俺のターン」を行なっていくことに繋がります。

そしてこれはフィニッシュワークの棲み分けにも繋がっていました。

クロスの棲み分け

サイドを攻略していくためにCBの持ち出しや攻撃参加がある分、最終ラインや2ndラインを動かしていくことができます。この試合に関してはヴィッセル神戸のSHがWBまで下がることが多く、CBで最終ラインから1人引っ張り出すことができるようになっていました。だからこそ大外が空くかハーフスペースに立つSTが開くことが多くなっていました。とはいえここの崩しはどのチームに対しても同様のものを見せていけそうです。

そしてサイドを取った後のフィニッシャーの用意の仕方もとても整理されている印象を受けました。昨季はファーに入っていく人数が多かったですが、きっと今季のキャンプで入っていく棲み分けを明確にした印象をこの試合から受けました。アルスラン選手のゴールは彼の上手さが詰まったゴールなのは間違いないですが、そのクロスにはアルスラン選手の前にジャーメイン選手、アルスラン選手の後ろには逆WBの東選手、そしてマイナスクロスを待ちつつ、弾き返された時の2nd回収要員として中島選手がいました。

ヴィッセル戦のゴールシーンだけでなく、何度もクロスが入っていく中でフィニッシャーがどこに入っていくかが明確になっていた印象です。これも丁寧に押し込むことができるようになっているからこそ、クロスを丁寧に供給することができ、さらにはクロスに合わせる選手たちも準備をすることができるようになっていました。焦らず攻撃構築ができるようになっているので、フィニッシュワークの質も上がっているように映りました。

早さや強さに頼らずとも丁寧に進めるようになった結果、チャンネルが誰がとるのか、どのように崩していくのか、フィニッシャーの揃え方はどうするのか、この辺りがはっきりした印象を強く受けた一戦だと思います。

プレッシングと加藤の存在

次にプレッシングの局面です。今季のサンフレッチェ広島も攻撃的な守備を行なっていくことを示した一戦だったと思います。しっかりと制限をかけていくことで、3CBの強さを存分に生かす守備を行なっていました。

スキッベ監督が就任してからプレッシングの根底は変わっていないのですが、やはりシーズンを重ねていくにつれてそのプレッシングはブラッシュアップされています。ヴィッセル戦もそれを感じさせるものだっと僕は感じました。

どこにそれを感じたかというと以下の4つになります。

①:WBのエリアと人の守備の線引き
②:CHのカバーの意識
③:1stプレスラインの2度追いの線引き
④:加藤選手のポジティブトランジションタスク

大枠は変わらず、プレッシングを行なっていくときにこの4つを意識している印象を強く受けました。  ではこの試合で行われていたプレッシングを題材に考えていきます。

433に対するプレスの形

上記の図がこの試合で行われていたプレッシングの形です。CBにはジャーメイン選手とアルスラン選手がマークを行い、アンカーには加藤選手がついていました。昨季までだと、アンカーの管理は近くの人が行うようになっていましたが、この試合は基本的に加藤選手が行うようになっていました。ここも詳細を詰めたところだと思います。昨季はアンカーがいるチームに苦戦したので、そこの修正だと思われます。

次にWBです。彼らは絶対にSBに出て行く!ではなく、まずはWGを消すところから始まります。これは昨季も行なっていたことですが、少し昨シーズンと違うのが1stプレスラインの手前か背後かを意識しているように見えました。ゆえにSBが1stプレスライン手前(ジャーメイン選手とアルスラン選手の手前)にいる場合はWBはプレスに出ずに、1stプレスラインの選手たちに2度追いを行わせます。一方でSBが1stプレスラインよりも高い位置を取った場合はWBがSBにプレスをかけることが基本となっていました。ここのプレスに出るか出ないか、受け渡すのか、受け渡さないのかも明確になっているなと強く感じました。

そしてCHです。昨夏移籍した川村選手が行なっていたタスクを中島選手も田中選手も行なっていました。そのタスクというのがDFラインのカバーです。サンフレッチェ広島の3CBが迎撃に出る際、どうしても最終ラインが空いてしまいます。昨季は迎撃に出てひっくり返されることが何度かあり、そこに迷いが生じてしまうと、サンフレッチェ広島の強さが半減してしまっていました。しかし、この試合やトルコでのトレーニングマッチを見る限り、CHのカバーの意識が植え付けられており、ゆえに3CBは安心して迎撃を行うことができていました。

図で表すとこんな感じです。

このようにCBがマーカーに対応してもカバーを行うタスクが絶対にあり、さらに逆WBはバックラインまで戻ることが多くなりました。だからこの図だと逆CBの佐々木選手がマーカーを捨ててカバーのポジションに比重を傾けることができますし、仮に入れ替わられても人数を担保することができていました。2−3回、入れ替わられることがありましたが、どれもしっかりとカバーがいたのでピンチになる前に潰し切ることができていました。

次にWBがSBに出て行かずに1stプレス隊に2度追いを行わせる守備です。

1stプレス隊の2度追い

このように2度追いの線引きも明確になったので、守備ブロックを作れる場所も高くなった印象です。最終ラインが5枚にならないと言われることが多いですが、僕はそうじゃなくて守備ブロックが高く設定できるようになったので、5枚になる必要がなくなったように見えました。3−4で構えられるようになったので、より安定してボールを回収することができるようになっていました。

これらの意識がキャンプで相当落とし込まれたものだと思います。

ポジトラの住人、加藤陸次樹

この試合でかなり重要なタスクを背負っていたのが加藤選手です。プレッシングの際にアンカーを消す役割を担っていましたが、同時にボールを奪った瞬間のリンクプレーにも関わっていました。奪った瞬間のリポジショニングがとても上手なので、攻撃にスムーズに移れるようになっています。だからこそ、昨季にあった『DMFの近くの選手がマーク担当を行う』から『加藤がDMF番を行う』に変更されたのかもしれません。3CBやCHがボールを奪った瞬間の動き出しやポジショニングが確実にサンフレッチェ広島を支えています。派手なプレーではないですが、加藤選手がいるからこそチームが回っている部分はたくさんあると断言できるプレーヤーです。特にポジティブ・トランジションでの加藤選手の貢献度は計り知れません。

優勝候補?

優勝候補と断言していいと思います。多くのコンペティションがある中で、スキッベ監督は全ての試合を全力で挑み、全てのタイトルを獲りに行く監督です。今冬の補強でチームもさらにスケールアップし、その選手層も十分だと思います。井上選手がU 20のアジアカップで1ヶ月いないことによるジャーメイン選手の控えと佐々木選手と塩谷選手の唯一無二感のせいで、これらのポジションは薄いように感じますが、CBはイヨハ選手や松本選手、山﨑選手の成長に期待が寄せることができます。十分に選手が揃っていると思いますし、積み上げてきているものも疑いようがありません。
FUJIFILM SUPER CUPを良い形で制したサンフレッチェ広島。ACL2、天皇杯、ルヴァンカップ、そしてJリーグ。紫の戦士たちが全てを手に入れる準備は整っていると言えるのではないでしょうか。とても楽しみです!!!

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