入院日誌|病と。①夢よ醒めないで
平成最後の年越しは、病院で迎えることになった。再発だ。
悔しい。
気をつけていたのになんで。
なんで何回もこんな目に。
仕事はどうなるの。
あの人との約束は。
誰も答えてくれない「なんで」が脳内を駆けめぐる。
働き始めてから、自分が元気に外を歩き回ったり、誰かの役に立ったりできる日々が嬉しくて、夢のようだった。今度こそは、いけるかも。再発せず、ここで元気に。覚悟はしていたはずなのに、心のどこかで期待していた。
この日々もまた、終わってしまうのだろうか。いつものように、ぷっつり、はい目を覚ましてね、とばかりに。今度ばかりは、良い夢で終わらせたくない。
再発が分かった日の夜、くそ、くそ、と心の中で悪態をつきながら、目をつぶって車の流れる音を聞いていた。ああ、こういうときにちょっと間違えたら、人は死にたくなったりするのかな、さすがに死にたくはないけど。ワン、という甲高い声で我に返る。振り返ると白い子犬がこっちを見ていた。
恋人に再発のことを話したら、「自暴自棄にならないこと。あと、死なないこと」と、至極まっとうな強い言葉が返ってきた。それはそれで一理ある。大丈夫、私はまだ死なない。
会社の上司からは「これからもあなたにいてほしい。働く場所はあるから、気をしっかりね」と電話口で言われて、ちょっと泣きそうになった。こんなにあったかい言葉があるだろうか。居場所がある。帰る場所がある。というのは、なによりも大きい肯定のような気がする。
でも今回は希望がある。新しい薬を使って、これ以上の再発を抑えることができるかもしれないからだ。最近の新薬の発展はすごい。30年前なら私は腎不全になって死んでいたらしい。かの寺山修司も同じ病気で亡くなったというから、本当なのだろう。
年中行事のように入院しているせいか、点滴の針を入れる腕はこっちがいいとか、血糖値を測る機会の強さはこれくらいがいいとか、大体のことは分かってくる。
看護師や新米の医者は私よりも年下か同じくらいと見えて、なんだか初々しい。それで余計に遠慮なく「え、右手に刺しちゃいます?利き手なんで左がいいです」とか「強さ2でいいです」とか言ってしまう。やたら手慣れた患者だと思われていることだろう。
病院で暮らすために必要な荷物は、昨夜のうちに全部用意して持ち込んだ。タオルに洗面用具に枕、お気に入りのマグカップ、本7冊、パソコン、その他もろもろ。すでに生活感がある。
新年を病院で迎えるなんて、人生でそう何度もない貴重な経験かもしれない。
1ヶ月のバカンスを楽しもう。
また書きます、入院日誌。
毒にも薬にもならない文章ですが、漢方薬くらいにはなればと思っています。少しでも心に響いたら。