入院日誌|病と。未来へのエール
入院するたびに、人生をつかみなおす。
自分を支えてくれる人たち、必要なこと、好きなもの。
そのたびにシンプルになっていく。
こんな機会が定期的に与えられるなんて、なんと恵まれた人生だろう。
入院生活を助けてくれた夫、両親、義両親にも、心から感謝を。
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1カ月の入院と言われていたけれど、予想以上に体調は早く回復し、2週間ほどで退院できることになった。
仕事は結局、ほとんどしなかった。職場が労務規定などを調べてくれている間、就労許可が下りなかったので、最初の1週間ちょっとは休職扱い。もどかしさはありつつ、先輩方が仕事を巻き取ってくれ、上司もいろいろと制度を調べてくれて、本当にありがたかった。
今回もいろんなモノに助けられて、心を枯らさずに過ごせた。こういうときに触れるものは、きっと私の核に近いものなんだろうから、書き留めておく。
今回の入院生活を支えてくれたモノたち
①本
『海をあげる』上間陽子
『あわいの力』安田登
『点滴ポール 生き抜くという旗印』岩崎航
『桜前線開架宣言』山田航
『天才による凡人のための短歌教室』木下龍也
『短歌ください』穂村弘
『海をあげる』は、すばらしい本だった。誰かの文章を読むことは、その人の思いや人生を受け取ること。世界にあふれる悲しみの、ほんのひとかけらでも、分けてもらいたいと思う。
②短歌
本にもあげたけど、こつこつ続けてきた趣味の短歌もよかった。
人の短歌を読むのも、自分で詠むのも好き。
入院中にしかできない短歌というのもある(マガジンにまとめています)。
③映画
『パーフェクト・レボリューション』
『蜜蜂と遠雷』
『この世界の片隅に』
『アバウト・タイム』
『私をくいとめて』
『little forest』
『マチネの終わりに』
久しぶりに、こんなに映画を観た。『この世界の片隅に』と『私をくいとめて』は、のんさんの演技がすばらしかったし、『little forest』では心身ともに癒されていく感覚があった。病室で、外の空気に触れていないせいだろうか。自然の音や空気感、自分の手でつくって、食べることって、やっぱりすごい力がある。
④石
これは完全にマニアックな趣味で、昔からきれいな石を集めるのが好きだった。今回のお守りは、義理の祖母からいただいたアンモナイトとメノウ。
義理の祖母とは不思議に趣味が合って、こうしてときどき古代の宝物をくれる。石を見ていると、悠久の時間と美しい造形に見とれて、いつまでも過ごせてしまう。これはもう、ずーっと好きなんじゃないかなぁ。
⑤塗り絵
入院する前、仕事の息抜きにと買っていた大人の塗り絵。最後の3日間くらいで急にハマって、朝晩ずっと塗っていた。
輪郭は見えていて、どんな雰囲気にしようか、どんなふうに塗ろうか、何色を使おうか。全体からディテールへ。最後に足りないところ、もっと丁寧に描きたいところはないか確かめて、完成。原稿を書くのにも似ているな、と思った。
出会い
病院という狭い世界の中でも、いろんな人に出会う。その人たちに思いを馳せるのも、私にとっては大事な時間だった。
病院の談話室で出会い、3日間にわたって人生の話を聞かせてくれたおじいさん。私のつくっている雑誌の話をしたら、その場で定期購読を決めてくれたおばあさん。自分が情けなくてねぇ、ごめんなさいねと看護師さんに謝るおばあちゃん。私はどうしたらいいの、と体を震わせて泣くおばあちゃん。いま病院にいることが、どうしても飲み込めないおばあちゃん。
それぞれ心の奥底に、いろんな想いを抱えて生きている。そういう想いにふれると、胸がキュッとなる。
仕事について
最後の4日間は、時短で少しだけ仕事をした。
原稿を書き上げて、やっぱりこの仕事をもうちょっと頑張りたいなと思った。
好きとか楽しいという言葉ではうまく表せないけど、社会の中で何か役割があるということは、それだけで生きていく力になる。
褒められることや評価されることは、オプションでいい。すぐには評価されないし、褒められなくて当たり前だ。ただ、いまいる場所で、できることを精一杯やりたい。仕事での評価と人格の評価は別なので、そこだけは忘れないように。
そしてやっぱり何より、いま携わっている雑誌と、書くという仕事が好きなんだと思う。いつか、この仕事を通じて得た知識やスキル、人とのつながりは、きっと財産になる。
病室から、未来の私にエールを送ろう。
大丈夫。
あなたはこの世界に、いていいよ。
毒にも薬にもならない文章ですが、漢方薬くらいにはなればと思っています。少しでも心に響いたら。