入院日誌|病と。③季節の話
入院4日目。今日は大晦日。
点滴は無事すべて終わり、右手首に刺さって不便この上なかった針も抜けた。同室の3人はすでに退院したか外泊するかで、この部屋には私一人だけだ。このnoteを覗きに来る物好きもそんなにいないだろう。
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どうせ一人だし、勝手に季節のことでもしゃべろうかな。
なぜ「季節」かと言うと、今年の初めの頃、私がとても苦しい気持ちだったときに、年上の友達から「季節を感じながら過ごそうね」と言われたことを思い出したからだ。その言葉をなんとなく覚えていて、今年は季節をたっぷり吸い込みながら日々を送った。会社で働きだしてから、社長の趣味に影響されて俳句を始めたことも大きかった。
私にとって、各季節の体感はこんな感じ。
春 生命に負ける
夏 太陽に殺される
秋 心と外の温度が合ってくる
冬 人も自分も大事にしたくなる
何もかもが鮮やかで、生命の匂いがたちこめる春。この季節が好きという人は多いけれど、私はなんだか、咲き乱れる花々に生命を吸い取られるような、夢の中にいるような心許ない感覚に陥ってしまう。寒くなったり温かくなったり、不安定な天候のせいもあるかもしれない。でも桜の花は好き。
夏はこのごろ年々暑くなっていませんか。まず日差しがおかしい。太陽さんどうしたんですか、人間に恨みでもあるんですか。じりじり炙られながら鳴く蝉の声は、生きることに飽きた人間に聞かせる命がけのノイズ。地面にくっきりとできる物の影、綿のワンピース一枚で寝っ転がる畳の感触。
すべてのものがセピア色に染まる秋。私はようやく一息つく。心の中にいつもある寂しさの温度と、外の気温が合ってきて、お互いに侵食しない心地良さ。毎日ちがう秋の空は、毎日世界を新しくしてくれる。そうだこれを忘れちゃいけない。毎年咲き始めた頃に思い出す、金木犀の香り。あの香りを胸いっぱいに吸い込むと、一瞬で幸せになれる。
冬。一番好きな季節。昔は寒いとじんましんが出ていたから好きじゃなかったな。でも今はそれも治って、ぴりっと冷たい空気も、幾重もの布に包まれる安心感も、余計な音がしない静けさも好きだ。雪が降ると物音が吸い込まれて静かなのは分かるけれど、雪が降らない東京でも、冬はしんとしている。生命の気配が薄いからだろうか。人間も鳥も着ぶくれて、この寒さから身を守ろうとしている。その健気さにキュンとするのだ。
病院にいると、外の匂いがしない。それが何より寂しい。
毎日の温度や湿度、どんな風が吹いていて、どんな匂いがするのか。どんな花が咲いていて、空はどんな様子か。何を食べて、どんな服を身に着ければ気持ちがいいのか。来年はもっと、全身で感じてみたい。
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さ、紅白歌合戦でも見て踊りましょうか。
皆さんも良いお年を。
毒にも薬にもならない文章ですが、漢方薬くらいにはなればと思っています。少しでも心に響いたら。