いつも誰かがそばにいる:映画【夏へのトンネル、さよならの出口】感想
「出口のないトンネルの中で見つけた、希望の光は実は現実世界という入り口にあった。」この映画を一言で表すとこんな感じだと思います。結局、希望の光というのは今の現実にしかないんですね。過去は受け入れて進んでいくしかありません。
誰しもが、人生のどこかで無くしものをしてしまいます。それはしかたがないことです。無くしたものに心を囚われてしまうのも仕方がないこと。それを受け入れるには時間がかかります。言葉のように簡単なことではありません。トンネルの中というのは、過ぎ去っていった過去、取り戻せない過去のメタファーなんでしょう。
でも、いつかは前を向かないといけないんです。なぜなら人生は有限でかけがえないものだから。下を向いている間にも時間は進むんですよね。その間に、大切な誰かを傷つけていたり、そばにいてくれる人との時間をないがしろにしてしまっているかもしれない。この映画はそういう映画です。
遠野くんはずっと過去を引きずって生きていて。
なぜなら過去にピークがあって、現状はモノクロでつまらないと思っているからです。妹がいてくれたこと、家族が笑って暮らしていたこと。その時期が一番良かったと思っているので、今の現実にとことんうんざりしている。
でも、そういうふうに考えているその瞬間にも、実は近くにいてくれる人がいる。思ってくれる人がいる。ふと顔をあげたら、実は幸せな光景が広がっている。実は何かをなくしたような瞬間にも、必ず隣に誰かがいてくれるんです。遠野くんは映画の最後でそれに気づいたんですね。花城さんがずっと思ってくれていた。そして、そのことは遠野くん自身にとっても大切なことだった。遠野くんはトンネルの中で過去に囚われていることに気づけたんですね。妹ときちんとお別れができたことはよかったのだと思います。亡くなった妹は、自分に囚われることで、兄自身の幸せを手放してほしくなかったのでしょう。
人によって希望の形は色々と違うと思います。それは誰かかもしれないし、自分の目標かもしれないし、好きなものかもしれない。仕事かもしれない。ペットかもしれない。いずれにせよ、どんなに絶望的な状況でもまったく光がないってことはないはずです。そう思ってしまう気持ちは痛いほどわかるけれど、でもそんなことはないんですよね。自分の視野が狭くなって、周りが見えなくなってるだけなんです。
遠野くんがトンネルから帰ってきて、錆びた傘を開くシーンがありました。あれは、遠野くんが囚われていた過去を受け入れて前に進もうという心境を表したものだと思います。
ちょっと真面目な話が多くなったので、もう少し映画の表面を追ってみようかな。
まず映画の冒頭ですが、ビジュアルだけみたとき、「わー、また美男美女かよ」と思ってゲンナリしていたのですが、主人公の喋り方が予想以上にインキャで良かったです。花城さんもヒロインらしからぬ言動と態度、同級生に初っぱなから黒閃をきめちゃう感じ。よきです。
僕が一番花城さんで萌えたシーンは、自分の漫画を読んでもらって、足をパタパタさせた後に「嬉しい」じゃなくて「喜んだ」と、まるで第三者が状況を説明するような感じで言ったシーンですね。ツンデレ感が最高にでてますよね。素直じゃないから、嬉しいとは言えないんですよね。でも嬉しいという感情を伝えたい、だから「喜んだ」という第三者視点で語ることで、直接的に自分の感情を語ることを避けているんです。例えるなら、赤信号のときに横断歩道を渡ろうとして、でも堂々と歩く勇気はないから、横断歩道には乗らず、その端をそそくさと渡るような感じですかね。とにもかくにも花城さん、ツンデレかわいくてサイコーです。
あと花城さんに関していうと、才能が欲しいから遠野くんについていって、それで1000年後に帰ってきてもいいよというのは、なんだろう10代っぽい危うさがあるなあとは思いましたね。その点に関して言えば遠野くんは随分と冷静。というか、遠野くんは終始冷静なんです。昔死んだインコが戻ってきたときも、トンネルを出た時に1週間経っていたときも、冷静にすぐ現状を受け入れるんですよね。普通の主人公だったら、その時点でかなり動揺をみせたり、リアクションするんですけどね。遠野くんは、おー、えーまじかー、みたいな感じなんですよね笑 とにかくリアクションが薄い。まあ花城さんもヒロインらしからぬので、たぶん脚本家か監督かどちらかがベタが嫌いなんでしょうね。捻くれてると思います。おそらくこのキャラクター像やシナリオを考えた人もインキャでしょう。でないとこの脚本はそもそも書けないですしね。
トンネルを出た後、これからのことはこれから考えると、二人で笑っていましたね。過去を受け入れて進むっていうのは簡単なことではないし、それが大きな傷であればあるほど難しいのだと思います。だけどやっぱり、人間笑って生きていたいじゃないですか。今そばにある希望を見つめていくことが、笑っていきていく秘訣だと思うので。そういうことを改めて考える機会になったので、よい映画だと思います。