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アビスパ福岡の監督人事について

先に書いておくが、私はアビスパ福岡のサポーターでもなければ関係者でもない。この投稿も閲覧数や注目目当てで書くのではなく、大好きなサッカー(並びに私の愛するベガルタ仙台が加盟しているJリーグ)とそれを愛する人たちに届き、その心を動かすことで、サッカーとサッカーを取り巻く社会環境が少しでも良くなって欲しい。という思いの元に書くことをここに明言する。

知らない人たちのために説明しておくと、サッカーJリーグに所属するアビスパ福岡が来シーズンの監督に金明輝(キムミョンヒ)氏を招聘。12月13日に就任が発表された。
しかしキム氏は以前、監督を務めていたサガン鳥栖とそのU-18チームにて、選手とスタッフに対して暴力行為や暴言を繰り返していたことが判明。複数の告発を受け、日本サッカー協会(JFA)はキム氏へ対しJFA公認S級コーチからA級コーチへの降格と研修受講、社会奉仕活動を科すことを発表した。
その後はFC町田ゼルビアのヘッドコーチを経て、前述のアビスパ福岡監督就任へと繋がる訳である。

アビスパ福岡のサポーターからの意見は是々非々であり、キム氏個人のみならず招聘したアビスパ福岡フロント陣に対する批判であったり、スポンサーから撤退する法人も複数件見られた。かと思えば、「結果で黙らせてやれ」「もう一度チャンスを与えるべきだ」といった擁護の声もあるのも事実である。

監督就任記者会見を見て

この投稿を書くにあたり、新監督就任記者会見の配信やそれに関する記事を複数読んだ。記者会見で言ったことをキム氏がひとりで考えたのか、それともアビスパ福岡のフロントないし運営会社の人と一緒に考えたのか不明だが、同情を誘おうとしているようにしか見えなかった。どのコメントや質問に対する回答を見ても大体フワッとしていて何が言いたいかよく分からないし、「サッカーへの想いが…」だったり「新監督を信じ…」だったり、まるでスラムダンクの三井みたいなスピーチばかりだ。それより「今後このようなことが二度と起きないよう、どのような具体的な対策を講じていくか」が全く触れられていない。本当に当人が反省しているのかが分からないし、こう言った監督を受け入れるにあたってチームが何をしたのかが全く伝わらない。

冒頭で経緯を書いた際、JFAはキム氏に対し指導者ライセンスの降格を命じたが、JFAはいつの間にキム氏のライセンスを再発行したのか。
おそらくFC町田ゼルビアのヘッドコーチ就任時に再発行されたのだと考えられるが、はっきり言って甘い対応だと言わざるを得ない。再チャンスを簡単に与えすぎだ。こうやって甘やかしてチャンスを与えることで本人は「俺は何をしても大丈夫だ。またどこかで雇ってもらえる。」と思ってしまうのではないだろうか。

話は逸れるが、日本の再犯率は47.9%。およそ2人に1人が再度犯罪に手を染めている。無論、犯罪(といっても暴行は立派な犯罪なのだが)とは簡単に比較できないし、社会復帰へのプロセス、サポートなど単純比較はできないが、罪を犯しても簡単にチャンスを与える日本社会の風潮が、「もしまた問題を起こしても大丈夫だ」と加害者を甘い考えに至らしめる気がしてならない。だから社会全体でそういったハラスメント加害者が一向に減らない。それどころか、加害者が昇進し管理職になることで、被害者は更に増える一方になる。これを読んでいるあなたにも思い当たる節があるのではないだろうか。

確かに彼が以前、規模や資金面で不利なチームで優秀な成績を収めた事は誇るべき事実である。日本サッカー全体で見ても有益な指導者なのかもしれない。が、そのために何人もの選手、特に18歳以下の若い才能を傷つけたのは許されることではないし、そんなことをしてまで手にした成績には、少なくとも私は何の価値も魅力も感じない。
そして、彼がまた表舞台に立つことで辛い記憶を思い出す人がいるかもしれないこと。彼のせいで二度とサッカーに関われなくなった選手がいるかもしれないということを、アビスパ福岡は考慮したのだろうか。そもそも考慮していたらオファーは出さなかったと思うが。

アビスパ福岡の(一部の)サポーターへ

あまり他所のチームのサポーターについてこう言ったことは言いたくないのだが、私は正直言って擁護の声については理解できない。そういった何も考えない盲目的なサポーターがいるから、氏がどれだけ酷い事をしても何事もなかったかのように監督業へ復帰できるのではないだろうか。
これまで氏に暴力を受け、侮辱された選手たちのことを何とも思わないのだろうか。こういう例えはあまり使いたくないのだが、もし侮辱され、暴行を受けたのが、あなたの友人、家族、恋人、自分自身含む大切な人で、一生心に消えない傷を負っても「結果で黙らせてやれ」と言えるのか。
その心の傷が原因で精神を病み、自殺するかもしれないというのを想像できないのだろうか。
もしこれを読んでいるあなたが、「そう簡単に人が病むわけない」「そんなことで自殺するのは甘え」「たかがサッカーでそこまで」などと思うのであれば、それは暴力や暴言、精神障害をあまりに軽く捉えていると言わざるを得ない。そして、あなた自身が人を追い詰め、苦しめ、自殺という形で人を殺そうとしている可能性が高いということを自覚したほうがいい。

暴力・暴言は普通じゃない。もしあなたが通っている職場、学校、コミュニティでこういった事が横行しているかと問えば、大概の人がNoと答えるだろう。普通じゃないからだ。もし「サッカーだから、指導だから。」という理由でそれが曲がり通るなら、それはスポーツでも教育でもない。少なくとも第三者的に見た場合、氏の行動には擁護のしようがない。

それとキム氏に対して、「パワハラのような強い言動、行動こそあれど、それ以上に人として、指揮官として魅力的な人物。」と評した意見があるようだが、本当に魅力的で優秀な指揮官はパワハラのような強い言動、行動はしない。はっきり言って魅力的な人物の基準が低すぎるし、そう言った甘い評価基準を設けているから、社会からこういった問題がなくならないのだ。あと、パワハラという表現も、事態の深刻さを日本語特有の表現の曖昧さでぼかそうとしている気がして気分が悪い。氏が行ったのは暴力と暴言だ。特に暴力に関しては人を怪我させる、命を奪う可能性を秘めている犯罪行為であるという事を強調しなければならない。

最後に

私の大好きなベガルタ仙台でも2020年、似たような事件があった。厳密には監督ではなく選手だったし、内容もパワハラではなく交際中の女性への恫喝だったし、チームが発表する前に写真週刊誌にすっぱ抜かれたりと相違点は多々あるのだが、表に立つ人間の問題が発覚し、世間からバッシングを受けたという点では似ている。あの時は本当に酷かった。チームの対応も最悪だったが、それ以上に世間からの声が厳しかった。SNSでは対応を失敗したチームへの批判が飛び交い、YouTubeのコメント欄は「こんなチームを応援している意味が理解できない」などの言葉が溢れた。インターネットでその選手の写真を見るだけで心が傷んだ。チームに関わる全ての人が奈落の底へ落ち、簡単に立ち上がることのできない傷を負った。その後、経営不振も重なったチームが勝てるはずもなく、ベガルタ仙台は翌年J2へ降格。5年が経とうとしているが、未だその傷は癒え切っていない。

何が言いたいかというと、こういった問題行為に対し対応を間違えるとピッチへも影響するということ。特に監督という現場で大きな権力を持つ人間にそういった問題があるのなら、少しの傷が致命傷になりかねない。
チーム全体で細心の注意を払えばいいと思う人もいるかもしれないが、その道はあまりに茨だ。リスクとリターンが釣り合わないよう見えるし、そもそもリターンが得られるようには思えない。

認めたくはないが、今、サッカー全体が世間から批判を浴びがちである。特にインターネットではスタジアムやチーム運営に対する厳しい声が大きい。正直なところ、その批判の大多数はツッコミどころが多かったり、あまりに偏った意見が殆どなのだが、一度湧き上がったネガティブな意見はなかなか消えない。私もベガルタ仙台をあまり知らない人から「あの問題起こした選手はどうなったの?」「経営がやばいってあったけど、今も上手くいっていないの?」と言われ、ネガティブな意見や出来事の傷の深さを実感したことがある。
見てない人にはネガティブな情報だけが残るのだ。

世間はサッカーへの不祥事には特に厳しい。他の影響力のあるスポーツと違って、チームを変えたくらいで過去の不祥事をなかったかのようにしてくれる程甘くはない。特にメディアは。
だからこそ、サッカーは不祥事に人一倍厳しく、健全に運営していかなければならない。誰しもがサッカーを楽しみ、愛されるためには、暴力や暴言は不要であると声を大にして言えるようにならなければならない。今のアビスパ福岡がサッカーファミリー、そしてこれからサッカーを愛する人に受け入れてもらえるのかを、私は問いただしたい。少なくとも、過去に暴力行為を働いた監督率いるチームを私は応援したいとは思わない。もし自分の応援するチームでこういった人物を監督にするのならば、私は就任した瞬間からファンであることを辞めるだろう。

余所者が口出しして不快になった人も多いかと思うが、サッカーそしてJリーグから(言葉含む)暴力がなくなり、サッカーで傷つく人がいなくなること。真に社会へ受け入れられ、胸を張って日本の人気コンテンツと言えるようになる日が来ることを切に願っている。

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