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あれから20年②【スポットライト】

 目指せスーパースター。蕎麦宗です。

 前回の続き。教員最後に作った学級通信にエッセイを二つ書いた。一つが前回の【①カウントダウン】、そしてもう一つがこれ。
 あの頃、生徒に向かって書いたつもりでいたけれど、何時ぞや読み直した時に明らかに自分自身に向けて書いていたということに気がついた。
 年甲斐もなく【目指せスーパースター】とか言ってるあたりこの辺にもルーツがあるようで、それをさらに紐解くとしたら【サッカーはやめてしまったけれど】で繰り返された挫折にあるのだろう。

 誰しもが順風満帆に日の目を見て成功するわけではない。地味であれ派手であれ、それでも何度も立ち上がって挑戦して行くことに意味があると思うし、繰り返して行くうちに成功を手にすることだって出来るかもしれない。
 そんな想いが若い人達に伝わって、ちょっとだけでも刺激になって、何かをやってみようってなったら良いなぁ〜と、今回も載せることにします。

エッセイ   「スポットライト」


 『将来の夢は何ですか?』

 アナウンサーがマイクを向ける。

 『Jリーガー!』・『アイドル!』

  小学生の低学年位だったら、屈託のない笑顔浮かべてそんなふうに答えるだろう。思えば自分が小さい頃は仮面ライダーになりたかった。悪の敵キャラをバッサリとなぎ倒すその勇姿は子供心をくすぐった。その後もパイロット、新幹線の運転手、プロサッカー選手、声優…と続いた。
 自分に限らず、皆いろいろな夢が浮かんでは消え、齢が上がるにつれて、やがては現実的なものへと変わっていく。けれど、いくつになっても変わらないのは、その夢に対しての憧れだ。


 たくさんの聴衆の注目を集め、われんばかりの大歓声の中で歌い、踊り、またホームランを打ったり、ゴールを決めたり。そういったスターと呼ばれるような人の一挙手一投足が、羨ましさとともに心を惹きつけて止まない。きっと多くの人々が自分もあんな風に活躍できたら、と願うだろう。
 けれども自分にはそんな芸も力もカリスマ性もないからと言い聞かせて、しがないサラリーマンに落ち着いていく。自分には輝いた人生を送ることがきっと無理なんだ、仕方がないと、まるでそうでない人生が不幸であるかのようにため息をついている。
 でも本当にそうだろうか。

 ずいぶん前のことになるがサッカー日本代表がワールドカップに*初出場ということで日本中が大騒ぎしていた頃。監督と同じ名前の岡田さんと言う人は、日夜トレーニングに励んでいた。
 彼は日本でも数少ない国際A級審判である。ワールドカップの審判は世界で選りすぐりのメンバーが行う。各チームがしのぎを削って決勝トーナメントを目指すように、審判も予選リーグでのレフェリングが評価され、決勝トーナメントで笛を吹けるかどうかが決まる。
 彼は決勝での主審を務めたいと言う。そのために毎日を己を高めるためのトレーニングに費やしているのだ。

 サッカーの審判と言う仕事は決して表舞台に出る事は無い。*ルール上ではボールがぶつかっても石ころと同じ扱い。だが少しでもミスジャッジを犯せば、チームやマスコミから袋叩きに会う。
 けれどそんなことにはお構いなく、スタープレイヤー達がまばゆいばかりのスポットライトに照らされているその横で、何事もないかのように黙々と仕事をこなす。決して不平不満は言わない。誇り高く手を上げ、笛を吹くその姿は輝いている。

 誰もが憧れるスポットライトのもとで、その技や芸を披露して観客を魅了する人たちは確かに輝いている。けれど、ある意味光が当たっているのだから輝くのは当たり前ではないだろうか。
 むしろ、そのスポットライトの横でひたむきに働いている人たちが、スターたちを支えている。そうやって日陰の中で自ら輝いている。

 学校の帰り道、キョロキョロとあたりを見渡して、ほんの少しだけ目を凝らして欲しい。駅の改札で、道路工事の片隅で、 スーパーの搬入口で。様々なところでひそやかに輝いている人たちがいるはずだ。誇り高く生きている人たちが…。

2001年3月17日   山川 宗一郎

*初出場…1998年のフランスワールドカップ。予選におけるジョホールバルの歓喜やキングKazuの代表落選は有名。

*ルール…現在は変わって審判は石ころ扱いではない

#教員 #スーパースター #市井の人  #スポットライト

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山川宗一郎
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