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【6.大神山神社(鳥取県)〜レイラインツアー2024】

6日目の走行ログ

動かぬ脚と山陰海岸

 この6日目は、全行程の中で最もリラックスしてサイクリングを楽しめた一日、と言ってていい。天気は曇り。はじめて秋めいた優しい気温。暑さがどれだけの難敵かがよく分かるライドだった。
 しかも、距離はわずか157km(このキョリを僅かと言えるようになっている)・獲得1000mは前半の山陰海岸沿いのアップダウン。しかも全線を2度走ったことがあり、ほぼほぼ憶えのある道。注意点は大神山神社のお札を受ける参拝時間が16:30まで、の一つだけ。それでも連日してしまったスケジュールに辟易へきえきしてきたので、余裕を持たせて早めの出発。とはいえ8:30なので随分とゆとりがある。

 序盤の海岸沿いのエリアは、とにかくゆっくりと行くことにした。なぜなら昨日の矢部道場のダメージが思いのほか大きく、それは朝に出発する時の顔や身体のむくみにも見てとれる。矢部君も決して抑えて走ったわけではなく、

『僕は今日だけなんで、精一杯引かせてもらいましたわ』

と言って、燃え尽きた表情で香住の温泉に浸かって癒していた。だから、僕らには正直しんどかったのは当然で、と言えどもそれをしなかったなら決して間に合ってはいなかったのもまた確か。
 ただ、このことは長期間のロングライドにおいてはヒントになる。
 同じ長距離であってもツールドフランスのようなプロレースであれば、彼らにはメカニックやマッサージャーが帯同し、身体のリセットもして貰えるうえに、トラブル整備や洗濯など走る以外の事はやる必要が無い。全てお膳立てされているのは、勝利のために最大のパフォーマンスを出し続けるためだからである。
 それに対しこういったロングツーリングでは、いわゆるL4と呼ばれる、最大運動強度の91%を超えるような領域をいかに《使わないように》走るかが鍵。持続可能なL3領域を主にして走り、その日のダメージを出来うる限りその日のうちにリセット(その日の汚れその日のうちに!って、昔のマジックリンのCMコピーみたい)する。
 僕等はまだ宿の宿泊だから良いとして、キャンプ泊の長丁場となれば尚更そうは問屋が卸さない。疲労回復を求めるよりも、いかに疲労を作らないかが大切になる。
 その意味ではまさしくウサギとカメの逸話通りで、ゆっくりでも良いから休みを減らして地道に走り続けることが肝要になる。休憩時間に損失した距離を取り戻すことが、どれだけ至難の業かは3日目の250km【3.富士山本宮浅間大社】区間に語った通りだ。

 そんな内容の会話を手塚としながら、まるで西伊豆の海にそっくりな海岸を走る。餘部あまるべ・居組・東浜、浦富といった海辺の小さな集落は、黒い播州瓦の整った街並みも相まって、いかにも日本海を感じさせるネズミ色の曇り空と調和していた。
 それにしても、脚が重い。ペダルが進まない。速度も上がらない。なんとか11:00までには鳥取へと着いて、大神山神社参拝のゆとりを作り出したいところだ。

居組の七坂八峠展望台
黒瓦の街並み

復活の牛骨ラーメン

 県道265号で鳥取砂丘の横を通り抜け、鳥取市街へと向かう。千代川を渡り国道29号を跨いだら、調べてお目当てにしていた牛骨ラーメン店がある。到着は11:20なので多少の遅れはあるが、幸い《麺屋たけ田》という人気店も、ギリギリ混み合う前だった。なのですんなりとラーメンにありつけて、ロスタイムも発生しなかった。
 それにしても…考えてみたら、ちゃんとした昼ごはんを食べるのは6日目にして今日が初めて。いつもは自転車で走りながらおむすびやら羊羹やらを食べるのが関の山。なんて贅沢なことでしょう!。せっかくだからチャーシューもたっぷり乗せてスープも飲み干した。美味かった。
 実は牛骨ラーメンを食べて復活した経験が以前ある。それは4年前の【チャリ鉄の旅その1〜サンライズ出雲と風まかせな自転車旅】に書いた。スープに溶け出すコラーゲンとはタンパク質。分解されてアミノ酸は筋肉の回復を促すから当然かも知れない。『そんな食べてすぐに』という気持ちもするからひょっとすると*プラセボかも知れないが。
 ちなみにレイラインツアー2023の時はほとんどの店が定休日ゆえに、牛骨ラーメンにありつけさえしなかった。二つの理由で絶対に食べたかった鳥取名物・牛骨ラーメン!。一年半越しの念願が叶った。
 おかげでお腹も気持ちも満たされてのリスタート。このまま県道318号を行こう。

*プラセボ…、有効成分が含まれていない薬剤によっても、症状の改善が見られること

麺屋たけ田の牛骨ラーメン

伯耆大山とソフトクリーム

 鳥取市街あたりから、山陰海岸の様相は一変する。若狭湾から続いていた、山陵が海へと迫り出した激しく険しい箱庭めいた風景から、小高く平坦な丘陵に日本海の荒波が打ち寄せる、長大な灘が続く地形へと移ろう。河川に削り取られて砂礫となった中国山地は、日本海に砂丘や砂浜を造り出す。それを覆うように被さるのが伯耆大山の山陵だ。
 因幡の白兎の逸話の舞台・《白兎海岸》に代表される小気味良い丘越えを繰り返す。とまりなどの浜辺の町を通り過ぎて湯梨浜町に入る頃、ようやく脚が回り始めた。

『やっとだな、牛骨ラーメン効果』

走りながらの消化は1時間は掛かる。それともここまでのゆっくりライドが回復走となったのだろうか。

『結局のところ、昨日のライドが一番ダメージデカいです。まさしく矢部道場です』

『だな。これ完全回復したら速くなるよな!そう思うと今後走るのがまた楽しみになる』

強者に引き摺り回されるトレーニングが、結局のところ一番手っ取り早い。そんな会話をしてるうちに伯耆富士こと大山が見えてきた。

 北東から眺める大山は激しく崩落が進み、荒々しい山容を呈している。今は横向きで済んでいる今日の風は南西からなので、あの山の真横に並んだくらいから向かい風となるだろう。案の定、その辺りから風向きは変わり巨大な風車を悠然と回している。急に僕は脚が止まり、坂道を上れなくなった。離れた手塚はしばらくして気がついてスピードを緩める。

『理由は分からないけど、足に力が入らないんだ』

結局、原因は不明のままスローペースにして丘陵地帯の緩いアップダウンをこなした。

『なんかさ、ソフトクリーム食べたくねっ!』

そこへタイミングよく道の駅の看板が現れる。大山と言えば牛乳も有名。美味いヤツにありつけるはず。ルートから少々外れるけれどその道の駅《大山恵みの里》に立ち寄った。『やった、ソフトクリームだ!』と小学生のように喜ぶ。ミルク味と紅茶味。ここは欲張りにやはりミックス。ううぉ〜生き返る。
 ここから大神山神社までは残り16km。時間にしてこのペースでも45分。今、時刻は15:00。社務所の営業は16:30。よし、充分間に合う。気を取り直して出発。

白兎海岸
道の駅《大山恵みの里》の紅茶ソフトクリーム

大神山神社から皆生温泉へ

 大山は、北西に回り込むに連れ徐々に富士山によく似た紡錘形コニーデ火山の山容に変わった。国道9号線が市街地へと入る。ここまで本当に走りやすいサイクリング環境をありがとう。山陰海岸地方の方々の運転は優しい。嫌がらせもクラクションも一度もなければ、こちらの難ありな走行マナーをも許してくれた。すれ違ったロードバイクは一台だけ。珍しい乗り物は旅人だと許容してくれているのかも知れないが、この温和な運転はスローライフな土地と環境がそうさせるのだろう。人口密集地帯でも、ぜひ見習いたいものだ。
 一本通り過ぎてしまった見覚えのある道の次の角を曲がる。やがて集落が見え、神社の鎮守の森が盛り上がっている。着いた。大神山神社へとロードバイクを滑らせる。

 この神社の御神体は大山。レイライン上にある霊峰のその中腹に奥宮があって、ここは下宮にあたる。お札を受け参拝すると、全身がビリビリした。出雲のユウコさんによれば

ここの神社で、何やら勉強する事があるよ、とヒカリが言ってます…
何だろう?

はて、なんだろう?
 今日は終日のんびりと余裕を持って走れた分、昨日のメッセージを反芻しながら過去の出来事を思い出していた。人生52年も生きていれば、それは悲しいことも辛いことも沢山ある。他者からしたら無邪気に楽しんでるようにしか見えないかもしれないが、それなりに艱難辛苦かんなしんくに翻弄されて生きてきた。
 手塚はどんな事を想って走っていたのだろう。3日目に悪霊を引き寄せたのは、彼のネガティブな思考が原因で、その大元はプライベートの問題だったよう。家族が霊障に苦しむ中、この旅への参加を決意した。果たしてそれが吉か凶かは直ぐには答えは出ないだろう。

 そうしているうちにこの日の曇り空はさらに暗く重くなり、ボツボツと雨が落ち始めた。

『急ぐか、宿へ。』

 皆生温泉へと通勤帰りで渋滞する米子市街地を抜ける。雨足は強くなり、すっかり路面は濡れている。時間は僅か15分。ようやく着いた宿は、予約が入っていないというまさかの状況。僕と手塚の互いの連絡の行き違いが原因だった。『勉強することになるってまさかコレ?』。そんなことはなかろうが、なんとか別館に一部屋用意して頂けた。ありがたい。
 この日の夕飯も本当に美味かった。奮発して前回も立ち寄った《なる美寿司》にした。従業員の方が覚えていてくれて、尚のこと再訪を喜んだ。連日の魚料理に物足らず焼肉屋で二次会。はては爆食ツアー?!
 明日はいよいよ最終日。出雲大社までのたった85km。ようやく完走の目処がたった安堵に加えて、今日はご馳走にありつけた手塚も、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

大神山神社
伯耆富士こと大山
満足
皆生温泉、なる美寿司

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