【5.元伊勢皇大神社(京都府)〜レイラインツアー2024】
やべっち機関車
時刻は7:00。若狭町世久見漁港にある民宿・勇晴さんに無理を言って、早めてもらった朝食を食べ終えた玄関口で、僕と手塚は自転車から荷物を外し、チェーンオイルや空気圧などをいつも以上に入念にチェックしていた。
なぜならこの日は、あの矢部周作がやってくる。前回レイラインツアー2023を僕らと共に全区間走破した仲間であり、日本の自転車界ではその名を知られたローディーである。
初めての方に説明しておこう。彼は国内の名だたるアマチュアクライミングレースで、優勝したり上位に食い込んだ一級品のクライマー。僕も出場(2019年)した世界一過酷といわれる《台湾KOM》で、2011年には総合3位になったこともある強者だ。
そんなレベル違いの彼は大阪在住で、サイクルアパレルメーカーを退職後にレイラインツアーに参加、そのすぐ後に四国お遍路(1000kmもちろん徒歩)を完遂した鉄人。そして今は《はいからデザイン》という会社を創業し、経営者として活躍している。
『おはようございます!』
その矢部周作ことやべっちが、クルマサポートの藤原さんと共に現れた。藤原さんも前回の初日【出雲区間】にてカメラマン&サポートとして伴走してくれたので、
『おお、藤原さんもお久しぶり!』
と、皆で再会を分かち合った。
外した荷物をクルマに積み込み準備が完了。ルートを確認して、まず目指すは元伊勢皇大神社。多少のアップダウンを含む85km。一味異なる緊迫したスタートだ。さぁ、矢部機関車を先頭に出発。
若狭湾沿いの鄙びた風情の国道162号線は、沢山のトンネル開通のおかげでずいぶんとショートカットされ、またアップダウンも穏やかだった。国道27号であっという間に小浜を通過し原発銀座の若狭路をひた行く。京都府へ入ったら直ぐに舞鶴。前回立ち寄った赤レンガ倉庫のある軍港の町だ。ソフトクリームが恋しいのでまた寄りたいところだが、今日は時間が圧しているので我慢。
国道175号に移って由良川を渡る橋が見えてくれば、元伊勢皇大神社は近い。この川を遡ったところに前回泊まった福知山の街があって、たらふく食べた焼肉が懐かしい。たかだか一年半前だから、風景や雰囲気はそのまま。記憶に新しく、通った道を直ぐに思い出せた。
『もう少し行ったら右折で神社だね!速いわー』
目標よりも30分早く到着出来るのは、やべっちのおかげ。真円を描く美しいペダリングは機関車のロッドそのもので、後ろから見ていても相変わらずに惚れ惚れする。今回は自転車乗りの聖地《乗鞍ヒルクライム》に出場の直後なので、絞った体はさらに鋭い。なんと、ここまで平均時速30km/hは驚愕だ。
といった感じで、あっという間に神社に着いてしまった。道すがら彩雲も現れて、きっと神様にも歓迎されているようだ。
元伊勢皇大神社外宮
レイラインツアーのスタートからひと月ほど遡る2024年8月23日。愛守花さんに降りてきた、アメノトコタチノミコトという神様からの不思議なメッセージ(全文が気になる方は、2日目【寒川神社】区間《二つのコノハナサクヤヒメ》掲載のそちらを)。
そして9月20日の今朝、別のメッセージを受け取ったそうで
『そしてそこは豊受大神でなく、
アメノミナカヌシがおられるそうです』
と言う。今回のレイラインツアー2024は前回とは対にすべく、伊勢神宮外宮の豊受大神を背負って走ってきた。ゆえに、ここ元伊勢皇大神社も外宮の参拝を中心に考え、そちらへと向かった。
レイラインツアー2023を走り終えてから一年後。守山八幡宮を主とした歴史神社ツアーを、愛守花さん・石川千春さんと共催した。それを機に歴史に興味を持ち、随分と深掘りして調べた中には、封印されたり置き換えられた日本の神々もあると判った。
豊受大神もその一例で、伊勢神宮・外宮で元々祀られていたのはアメノミナカヌシらしい。おそらく時の権力者の都合によって、隠された《真実の歴史》があるのは間違いなさそうだ。
そんな古代における闇と彼女からのメッセージを頭の片隅に置いて、元伊勢皇大神社外宮の参拝をすべく石段を上る。写真を撮ってLINEへと連絡を入れると、直ぐに返答があった。
しかし東側は崖で、その向こうには川と山しかない。少しでもヒントを探ろうと本殿の東へと周る。出雲大社?一体どう言うこと?見渡すと不思議なことに、ここは八百万の神々が本殿を取り囲むように祀られている。これは出雲大社と同じ形だ。そしてその一箇所に立ち枯れた木のある、門のように開いた部分を見つけた。ひょっとしてここかな?写真を撮って送ると
確かに不可思議な光の玉が二つ写っている。興奮する愛守花さんに被せて、出雲の成瀬ユウコさんからもメッセージが入った。
内容を話すその前に紹介しておこう。彼女はまるでイタコのように、見えない存在(=精霊・神様・ヒカリなどのエネルギー体)が人間の言葉を話せるよう口を貸すという特殊能力を持つ。それを《口貸し》と呼んでいて、様々なエネルギー体が彼女を通して必要なメッセージを届けてくれるのだ。
ゆうこさんからのメッセージは続く
との事だ。すると愛守花さんが
おお〜ここだったのか!、案内されると言われていた秘密の場所とは!!
続けざまに2人から、さらにメッセージは届いた。
このサイキックヒーラー2人に、始めて触れた人は理解不能かも知れない。しかし、どれだけ凄いのかを僕は知っている。まごうことなく正真正銘のホンモノ。にわかには信じられないような特殊能力と崇高な使命を持った方々が、この世界にはいる。そして、人間や動植物以外の《視えない存在達》もいる。今まで僕が信じていなかっただけで、間違いなくどちらも、この地球にも宇宙にも存在している。
メッセージを手塚にも伝え、ありがたく心に秘めた。よし、天橋立へと向かおう。目指すは真名井神社だ。
元伊勢皇大神社内
…と、その前にこの外宮では残念ながら社務所は閉じていてお札を受けられなかった。なので元伊勢皇大神社内宮も立ち寄ることにして、急いで移動。到着したら長い山道のような石段の参道を登らねばならない。晴れ間が多くなった空は陽射しを増やし、気温は鰻のぼり。立っているだけで汗だくになるほどに暑さはえぐく、足取りを重くする。参道は、前回の参拝の時よりもはるかに長かった。
外宮・内宮と二つの神社に寄ることになり、また暑さで足取りも重く、予定以上に参拝に時間が掛かってしまった。やべっち機関車が作り出した折角の余裕を失い、今日もスケジュールが圧してしまっている。先を急ぎたいところだが、兎にも角にも暑すぎる。
手塚が『暑さが致死量に達しそうです』と書き込むと、
『静岡でも39℃を超えたとニュースでやってます』
と2日目のライドで暑さを体験した石井、がグループLINEに応える。あの日よりも今日はさらに暑い。
さっきから『暑い』『暑い』と何回言っただろうか。愚痴っていても進まない。でも暑すぎる。さぁ、ここからは大江山の長い登坂区間。峠越えの前に水分補給をして鬼の棲家へと向かおう。それにしても暑い。吐き出す呼気はまるでドライヤーのように熱風だった。
まだふみもみず天橋立
幼少期よりなぜだか百人一首が好きで、高校生の頃にはソラで80首以上を言えたくらいだ。和泉式部の娘が読んだこの名句は特に好きで『自分もいつか大江山を越えて天橋立を観たい』という想いが、今、40年以上の歳月を経て実現している。真夏のような暑さも、進まないキツい坂も含めて、いかにも鬼が住んでいそうなこの光景を、眼に焼き付けながら走った。
おそらく《鬼》とは*朝敵とその末裔または縄文系の民で、大和との争いに敗れた出雲側を指すと考えている。《桃太郎》などの昔話や《かごめかごめ》といった童謡は、この権力争いの隠喩を含む物語や唄とも言われ、目指す*真名井神社は、まさしくその舞台となった場所らしい。
元伊勢皇大神社外宮の八百万の神々は、封印したアメノミナカヌシを見張っているのではないか。そう浮かんだのは、旅を回想しながらこの文章を書いている最中だ。巨大な前方後円墳が現れる3世紀後半~5世紀初頭は、《空白の四世紀》といわれる。《日本》を揺るがす歴史的な政変?戦?定かではないが、その時、何かがあったのだろう。神々は信仰。その対象が為政者によって変わるのは歴史の常。
それにしてもキツイ上り道だ。サポートの藤原さんが所々にクルマを停めながらカメラ撮影してくれている。物静かに投げられるその応援が、坂に折れそうな気持ちの背中を押してくれる。ありがたい。
やべっちは勿論、手塚も坂が強い。あっという間に見えなくなって一人旅となった。普甲峠はまだまだ見えぬ、やはり大江山は遠かった。
峠を過ぎて少しゆくと、宮津の街並みと日本海が遠く見下ろせた。この峠道を降り切って一っ走りすれば天橋立。ようやく彼の地を踏むことが出来る。ほとんど対向車の来ない府道9号の長い下り坂を、慎重に、そして大胆に、右へ左へとつづら折れに旋回しながら、スピードを上げて降りた。
下り切った先のコンビニで軽く昼食&給水の休憩をとって、宮津の街を抜けたら彼の地・天橋立。ようやく踏むことが出来た。嬉しい。感無量だ。石造りの太鼓橋を渡ったエリアからは歩行者と自転車のみ。ああ、ここをチャリで走ってみたかったんだ!
『天橋立』は陸奥の『松島』・安芸の『宮島』とともに有名な日本三景の一つ。陸繋砂州が幅20〜170m・長さ3.6kmに渡って宮津湾に天然の橋を架ける。世界でも珍しい地形は神々しく、籠神社とその奥宮・真名井神社はこれを渡った先にある。白砂青松を噛み締めながら、僕ら3人のトレインはゆっくりとゆく。時間にして15分ほど。圧している時を忘れて存分に堪能した。
中を走る分にはなんの変哲もない松原。しかし、それにしてもなんて美しいのだろう。また来たい。今度はゆったりとこの地に泊まろう。急かされる道程を記憶に引き戻しながら、いよいよ真名井神社へと向かった。
*朝敵…大和朝廷に逆らう国や民のこと
*真名井神社…籠神社の奥宮。
降ろされたメッセージ〜真名井神社
『レイラインツアーで通るところに《まない》ってつく所はある?』
そう愛守花さんから尋ねられたのは、レイラインツアー2024を旅立つ日よりひと月ほど前。例のアメノトコタチノミコトからのメッセージ以降、《まない》はすっかりとキーワードになった。
『ユウコも両方ともだって、ヒカリが言ってるって』
有名な二つの《まない》を挙げると出雲のユウコさんからも返答があった。
真名井の滝といえば、宮崎・高千穂神社で、ツアーのルートとは程遠い。そしてもう一つが天橋立の真名井神社。
『どうしてもそこは立ち寄れ!って神様が言ってるよ』
ツアーの計画を立てていた2024年7月。どうしても天橋立をルートに入れたくて、5日目の日程とその前後日も含めて地図と睨めっこしながら頭を捻っていた。前回2023ツアーでは距離と日程から断念。今度こそ絶対に立ち寄る、と決めていた。
その神はなぜそんな僕の想いを知っているのか。ひょっとすると、真名井神社に立ち寄らせるために天橋立をルートに組み込ませようとしたのか。どれも定かではないけれど、愛守花さんは地理も歴史も疎く、真名井神社のことは全くの無知。それだけは間違いない。つまりは、その場所へ行くことは僕にとって必然なのだろう。
…といった事情も手塚には話してあったので、彼も興味津々だった。天橋立を渡り切って国道178号を横切り、民家の小脇を縫った細い坂道を上った先に真名井神社の一ノ鳥居が現れた。クルマの藤原さんは遠回りを強いられているのでまだ来ていない。とりあえず3人で参拝を急いだ。《天の真名井の水》という名水が湧く巌の口で手指を清め、ニノ鳥居を括ると、明らかに空気が変わった。
『なんですか、これ。寒気がする』
手塚がそう叫ぶ横で、僕も異様な全身のビリビリと寒気に覆われていた。最近敏感になってきたのは、出雲のユウコさんが開催いたスピリチュアルプログラムのおかげ。元来持っていたこれまで隠さざるを得なかった能力の解放が、ようやく始まったばかりだ。
本殿の前に立ち、挨拶を済ませる。奥には御神体とされる磐座が鎮まる。そこから大きな木が生え、得体の知れぬオーラが放たれている。
『ここ、やばいな。ここまで回ってきたどの神社よりも凄い。いわゆるホンモノのパワースポットっていうのはこういう場所を指すんだろな』
手塚も同意見だった。世俗にまみれて神々を失った話は、昨日の【琵琶湖・竹生島神社】のくだりに書いた。ここ真名井神社はそれとは真逆。神的エネルギーが充満しているとはこれを指すのだろう。
そこへ愛守花さんからメッセージが入った。
正直言って、一体なんのことなのかは分からない。しかし、神からの啓示は後々になって嗚呼!と分かる瞬間が来るもの。こうして書き付けて、心の奥底に魂に刻みつけて置こう。
ここもまた天橋立とともに、またゆったりと落ち着いて再訪したい。しかも遠くないうちに。そんな風に感じて、真名井神社を後にした。
矢部道場とカニの宿
『宿へは18:00にチェックインしたい、18:30の食事時間には間に合わせてくれ、と電話で念を押されてるんだよ』
本日のゴールは兵庫県、香住町にあるカニの宿《三宝》。そこまでの距離は74km。国道176号、312号と乗り継ぎ、178号で豊岡を経由して香住へと向かう。地図ではどのくらいの獲得標高なのかは分からないが、かなりのアップダウンがあるのは間違いなさそうだ。
結果、この日の走行距離は202kmで想定よりも20kmも長かった。さらに獲得標高は1500m。それをアベレージ28km/hでこなせたのは、やべっち機関車の鬼引き以外の理由はない。一重に彼のおかげだ。けれど、それは僕と手塚にとっては過酷な鍛錬。4日間で650km以上を走って来た疲労、加えて矢部君のレベル違いの走力。合わせてくれているとはいえ正直言って『キツかったぁ〜!』。
とはいえ最初からわかっていたこと。だから、僕と手塚は
『今日は矢部道場だ!気合いを入れよう』
と、朝飯を早めてもらった民宿・勇晴の玄関口で入念なチェックと心の準備をしっかりとしたのだ。
何はともあれ間に合って無事についた。香住湾に浮かぶ夕焼け雲はその充実感を表すようにことさらに美しかった。
一つだけ僕の失敗は、手塚が甲殻類アレルギーだということをすっかり失念していたこと。まさかここまでカニ尽くしたとは思っていなんだ。なので、せっかくのご褒美の夕食に彼はありつけない。代わりに矢部君と藤原さんにお礼がてらに食べてもらう。2人は喜んでいた。当の手塚は
『白菜と豆腐を食べました』
とグループLINEに書き込む。すまぬ。お詫びに餃子の王将へと出直し夕飯に出掛けた。僕は一人で蟹三昧なのに、彼は生ビールと餃子定食が主食。すまぬ。もちろんその日はご馳走した。
餃子の合間にコインランドリーを終えて、もう一度宿へと戻る。秋の気配のする香住の街には静かに夜風が吹いた。もう身体はクタクタ。早よ、寝るに限る。
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