蕎麦宗店主の自転車クロニクル その10【いつかの少年の自由の翼】
日常の脚、移動手段として『どこでも自転車』だった事は前回。サッカー部の親友・三輪の自転車の話が前々回。
高校生になりMTBを手に入れたことをキッカケに、たった二人のMTBブームが巻き起こった。三輪はときおり電車代わりに三島からチャリ通学。サッカーの合間に自転車談義して楽しんだ。
中でも1番の楽しみは夏休みのツーリング。ほぼほぼ毎日サッカー部の練習があった夏休みに、3日間だけ連休があった。そこを使って伊豆の観光ツーリングを企画。マップルマガジン持ち込んで、行きたいところをリストアップ。そうして計画を立てている時間は至福のひと時。
伊豆最南端の石廊崎、松崎の洞窟探検、天城山の林道ツアー…etc。リアキャリアにゴムバンドで荷物をくくりつけてあちこち観光して、民宿泊まって。三島からチャリで来たって言うと、大抵地元の方々が必要以上に親切にしてくれた。あの頃の『人の温かさ』は、今は昔かも知れない。
…余談になるが、三輪は生真面目な*ボランチ。勝手気ままなFWの自分とは対照的。詳しくはそのうち【サッカーはやめてしまったけれど】に描くとして、MTBで一緒に山道を走っていると彼によく怒られた。
「お前、いつも(サッカーの時は)走らないクセにチャリの時ばっかり速いんだよっ!」
「まぁまぁ」って、調子くれて三輪をなだめると大抵また怒られた。念のため付け加えると今でも仲良し。あれから30年。時々わざわざ静岡から蕎麦を食べに来てくれるし、自分も向こうへ出向く。
そんな風に僕らにとって自転車は、日常の脚であると同時に趣味の道具でもあった。そう、いつかの少年の《自由の翼》。二人で走った道は、サッカーボールを追いかけて走ったグランドとともに、今もどこまでも続いている。つづく
*ボランチ…イタリア語でハンドルの意味。守備的MFのことを指すが当時その用語はなかった