Moglie 〜モリエ〜 その7

閉店した蕎麦宗の隣のスナック・モリエのオーナー善次さんと、彼の妻であるママさんとの思い出は、ここまで語った通りだ。既に善次さんはなくなっていることは承知していたが、ママさんが亡くなったことをうちの常連さんから聞いた時に一つの不安が頭をよぎった。

「あの看板はどうなるんだろう?」

通常新しいお店ができる時は、一度サラにして新しい店が作られる。居抜きの場合でも当然店の名前は変わるので、看板だけは変更されるのは当然だ。もしご遺族が引き取りを望まないとしたら、店内の調度品のみならず全ては廃棄処分されるのを待つのみだ。

僕はあの看板が好きだった。コールテン鋼を黒く塗って《Moglie 〜モリエ〜》とバーナーで切り抜いた無骨に見えて繊細なそれ。鉄板の看板にしては随分と品格あって素敵だなと思っていたが、それもそのはず。あの看板は善次さんの友人である彫刻家「増島豊治」さんの作品だからだ。

ご不幸の話を聞いたのは木曜日だった。その翌日、たまたま仕込みが立て込んでいたので、店は定休日だったが朝早くに出勤した。すると空き店舗になった隣の物件のドアは外され、中からガタゴトと物音がする。中を覗くと解体工事が始まっていた。

僕の嫌な予感は的中することになる。つづく

#モリエ #看板  #コールテン鋼 #増島豊治 #居抜き #解体

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山川宗一郎
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