正解だらけのクルマ選び その3 【日産シルビア②】
S13系シルビア。別名ART FORCE SILVIAのそのCMを見て心ときめた高校1年生の僕は、とある作戦を思いつく。U12ブルーバードをそろそろ買い替えをしようと話し始めた親父に対して積極的にプレゼンしたのだ。
自宅から最寄りの日産の販売店に行ってサービスマンの若い兄さんとも親しくなった。カタログをもらい自動車雑誌を買い込み、それらの情報をもとに親父をその気にさせ、あわよくば大学生になった暁には譲ってもらおう!と考えた。
歴代のブルーバードを堅実に乗り換える保守的な親父に、2シーターのナンパなスペシャリティカーをどう売り込むか。これはなかなか難題だった。4ドアセダンのブルーバードに対し、シルビアは2ドアクーペ。着座位置は低く頭上空間も狭い。さらに後部座席は人が座ると膝が前席に当たるくらいのスペースしかない。けれど我が家は5人家族。まだ小さい弟(三男)をセンターコンソールに座らせるとしても、高校生二人が座るには狭すぎる。
結局、5人家族で揃って旅行などに出かけるのは、部活などを考えても無いとの結論に達し、それよりもカッコ良いクルマに乗っているカッコ良い親父であって欲しいという息子達の願いだ、という口上が親父のハートを射抜いたようで、我が家にクリーム色のツートンカラーのS13シルビアがやってきた。…(2020年の今この令和の時代してクルマに興味がある中学生や高校生諸君、ツマラナイミニバンに乗る両親を説得する方法の一つとして使ってくれたまえ)。
この頃はディーラーのーサービスマンが車を運転して納車してくれた。家族みんなで新車を出迎えるという儀式。古き良き昭和なワクワクはもう今は昔。でもあの最高の気分はいつまでも忘れない。
高校2年生の時にそのシルビアで親父と伊豆一周のドライブに出かけた。音楽に興味のない自分でも、恋する季節になるとオフコースなどを聞きたくなるようで、弟(次男)の持っていたCDを借りてずっと流していた。失恋した身には優しい小田さんの声も、40代後半の親父には暗すぎただろう事は想像に難くない(その年齢で色恋に興じる人もいることはいるが)。
*FRらしいグリップでワインディングを軽快に走るシルビアは、そんな父と子をバケットシートに乗せて伊豆の海を行く。僕にとってのドライブの原点はここにある。今となっては、走ることそのものが楽しめるクルマは稀有だ。
結局このS13シルビア、同時に大学を卒業する事になった弟(次男)との奪い合いになるのだが、勤め先の関係で天竜市(現、浜松市)に住むことになった自分ではなく、地元企業に就職し親と同居することになった弟のモノになった。あわよくば…は、叶わぬ願いで終わったものの、息子達の目論見通りになったという意味で十分成功と言えるだろう。つづく
*FR…フロントエンジンリアドライブ。走りを重視するクルマに採用される。
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