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2023年2月28日

 2月最後の日を松本市で迎えた。朝イチでホテルを出て松本城に向かう。時刻は5時30分頃。この時間に行けば、日の出の空に松本城が美しく映える姿を拝めるのではないかと思い、まだ暗いなかを急いで歩く。群青色の空が徐々に明るみを増していく。
 途中で上杉謙信の塩にまつわる史跡を見つけた。武田が今川や北条と対立し、塩が手に入らなくなった時に、やはり敵対関係にあった上杉謙信が義侠心から塩を送ったという話。


 ちょうどいい時刻に松本城についた。まだ松本城は暗い影の中に眠っているが、すでに眠りは浅く、徐々に覚醒が始まっている、そんな時間だ。影に沈む城が徐々に目を覚ます。影に隠れていた細部が徐々に見えてくる。空をカラスがたくさん飛んでいく。松本城の屋根に彼らは降り立ち、黒い城に黒いカラスの群れが集まる。カラスではない大きな鳥が清潔な白い空を横切る。静寂の中、誰もいない松本城で静かに夜が明けていく。
 西を向けば中部山岳国立公園の山々が雪をいただき、青く聳えている。その姿もだんだんと鮮明になっていく。このような山々を西日本でずっと暮らしてきた私はテレビなどでしか見たことがない。本当に美しい光景だと思った。
 白々と夜が明け、鳥の鳴き声がし、白い息を吐きながらジョギングする人を見かけるような時間になる。
 松本城を見るなら夜明けがいい、特にこの時期がいいのではないかと感じた。

もうすぐ夜が開ける時間に到着
だんだん空が明るくなっていく
夜明けの光を受け桃色に染まる北アルプスの山々
空をカラスがたくさん飛んでいる
屋根にたくさんのカラスが止まっている
夜明け
明るくなった。ジョギングをする人がちらほら


 ホテルに帰る。荷物をまとめる。7時にホテルを出た。
 松本市を後にする。
 

松本市は風格があり歴史がありおしゃれな建物がたくさんある街だった。
ホテル アルモニービアン、旧第一勧業銀行ビルだったそうで、国登録の有形文化財とのこと

松本駅から普通電車で長野市に向かう。この路線(笹の井線)では、ICカードが使えないと何度も駅の注意喚起のアナウンスが流れている。切符を買ってワンマン電車に乗る。寒い地方では冬の時期、電車のドアの開け閉めを乗客がボタンを押してすることがある。私がかつて暮らした四国の山間部でも一部そういう区間があったはずだが、久しぶりだったので乗り込んだ時に閉めるボタンを押し忘れた。舌打ちしながら中年男性がボタンを押してくれた。
 松本から長野に向かう車窓風景は本当に最高だった。雪をいただく青い山々、2,000メートルを超える峰々を見ながらの旅だった。私は座る席を間違えた。進行方向左側の一列の座席に座ったのだが、山々は私の背中にあった。そこで始終体を捻って熱心に外を眺めた。周りの乗客はそんなことしていない。普通電車に乗っているのは通勤通学の人たちで、彼らにとってその車窓は見慣れた退屈なものでしかない。
 姨捨という駅に近づく。最近、新藤兼人監督の映画「姨捨」を見たばかりだ。映画はとても暗い内容だったが、実際の姨捨の駅からの車窓は本当に美しかった。ここに関しては進行方向左側の席に座った私は正しかった。真正面、つまり進行方向右側の車窓に広く長野市に続く平野がひらけていた。その向こうはまた高い山々。千曲川がその中心を貫いて流れる。開放感ある大パノラマが楽しめる。近鉄奈良線の石切駅付近の風景を思い出した。あそこは大阪と奈良の県境の高い位置から、大阪平野を見渡すことができる。大阪の中心部の高層ビル群の眺めは圧巻だが、この姨捨からの眺めはそれに匹敵する美しいものだと思った。しかも、おそらくスイッチバックというものだと思うが、一旦、姨捨の駅に入った電車が、客を乗せるとゆっくり逆走を始める。ある程度逆走すると、また進行方向を変えて、元の方向へ走り出す。この間それなりの所要時間があり、開放的な風景を長い時間楽しむことができた。スーツ氏の動画によるとここは日本三大車窓の一つだそうである。石切の車窓は三大車窓に入っていない。姨捨の車窓が三大車窓の一つとなっている理由の一つはスイッチバックがあるために風景を長く楽しめるというのもあるのかもしれない。残念ながら、前の席にもたくさん人が座っているのでその車窓を写真に撮ることはできなかった。
 長野到着。松本より一回り大きな街に感じた。実際こちらが県庁所在地である。長野市では善光寺を見ようと考えていた。駅を出て、善光寺にどう行くか考える。バスや電車があるようだが、それほどの距離でもないので歩くことにした。歩いた方がいろいろと発見があるし、その町のことがよくわかる気がする。街の大きさは長野市の方が大きそうだが、雰囲気は松本の方がオシャレな気がする。松本の方が歴史があるのだろうか?と思ったが、善光寺に近づくにつれて、昭和初期の建物のような趣のある建物がいくつか見え出した。それから善光寺の手前の門前町のようなところを通った。

立派な長野駅
長野オリンピックの記念公演
門前町の雰囲気に
仲見世通り


 善光寺は立派なお寺だった。大きな灯籠が印象的だった。京都などより雪が多いからだろうか、見慣れた京都のお寺と比べて、本堂の屋根の傾斜が非常にきつい。そういえば道中時々目にした公衆電話の屋根も三角形に尖った、四国や関西では見かけない形をしていた。
 撫でると健康になるという仏像があって、慢性胃炎なのでお腹の部分を撫でた。お参りをして、境内をぐるっと回って立派な山門を出た。山門の両側にある仁王像も立派だったが、少し細面な気がした。仁王像はやっぱり東大寺のが一番だと思う。

立派な仁王像のある山門
大きな灯籠


 仲見世通りでおやきを買った。少し饅頭ぽくて少し餅っぽくて少しおにぎりっぽい気がした。あんこの入ったものを買ったが、高菜とか味噌なんとかとかいろいろ種類があった。元々はおやつというより農作業の合間の食事として食されていたようだ。その歴史は縄文時代に遡るとも

 それから駅に向けての帰り道はバスを使った。コインロッカーから荷物を出そうと思って近づくと、少し年配の女性がいて一生懸命何かやっている。最近都市部のコインロッカーで増えている百円玉をジャラジャラ入れるのではないタッチパネルで操作するタイプのコインロッカーだから迷っているのかもしれないと思ったが私は非情にも手伝うなどということをせず、一旦その場を離れて、駅構内の蕎麦屋に行った。長野で2度目のそばである。美味しかった。濃いいろのしるも美味しかった。食べ終わってもう一度コインロッカーに行くと先の女の人がやっと終わったという感じでコインロッカーからようやく立ち去るところだった。やはり声をかけて手伝うべきだったのだろう。
 北陸新幹線に乗り、富山に向かう。先に切符を買った。富山まで特急券自由席。一番先に出る新幹線を掲示板で確かめると「つるぎ」というものだったが、それは指定席のみで自由席がなかった。長野を出ると次は富山をいう便利な便だったが、すでに自由席を買ってしまったので乗るのを諦めた。次の「はくたか」というのに乗る。つるぎがのぞみで、はくたかがこだまかな?と考えた。時間がかかるかもしれないなあと思った。東海道新幹線の場合、こだまの停車時間が長い。各駅停車の上に各駅でのぞみやひかりに道を譲るために結構長い時間停車する。それから類推したのだが、実際は停車時間も短く、思ったよりずっと早く富山に着いた。道中の車窓は最高だった。どこをみても信州の美しい山々が望めた。森林限界を遥かに超えた高く青い峰々が雪をいただいている。西日本ではお目にかかれない光景だ。新幹線の窓越しに何枚も写真を撮った。

長野の山は美しい
どの山も四国第二の高峰、故郷の山つるぎさんより高いのだろう
雪をいただく姿が特にいい。どの山がなんという名前か知らないが、有名な山もたくさんあるだろう
上越妙高駅あたりで途中下車してもよかったかもしれない。
もっとゆっくり見たかった


 トンネルを抜けて北陸に出た。糸魚川から富山にかけても、立山連峰の美しい姿を眺めることができる。富山で降りた。
 

富山の駅も立派だった
思っていたよりずっと都会

立山連峰を見たいと思い立ち寄った。調べると呉羽山公園というところからの眺めがいいようだ。バスで向かう。ICカードが使えないようなので小銭を用意する。椅子のどこかに手をぶつけてしまい、小銭を落としてしまった。後ろの親切な女性が拾ってくれたので礼をいった。
 呉羽山公園というバス停で降りる。そこから山道を20分ほど登る。前を一人女性が登っている。それ以外人通りもない。あまり公園に人はいないかなと思ったが、汗をかきながら登ってみるとたくさん人がいた。広い駐車場があって、大抵の人は車で来ているようだ。雲ひとつない晴天で雪をいただく立山連峰がよく見えた。薬師岳、剱岳、他高峰がずらりと並んでいる。柵によって思う存分眺めた。いつまでも見ていたかった。たくさん人がいるのでよく見えるその場を離れ、少し下がってベンチに腰掛けた。皆熱心に写真を撮っている。地元の人と思われる人が、「こんなによく見える日はなかなかない」と言っていた。冬だから空気が乾燥して余計よく見えるのだろう。せっかく上がってきても霞がかかっていたり、雲に隠れていては甲斐がない。晴れていてよかった。運がいい。

まあ、雲ひとつないというわけではなかったようだ
多分どの山も名の知れた山なのだろう
富山のビル群と立山連峰


 富山にはトラムが走っている。富山大学前というところまで40分くらい歩いただろうか。緩い坂をずっと降るような道のりで、家々の向こうに立山連峰を見ながら歩くことになった。ああいう青い山がよく見える街はいいなあと思った。松本もそうだし、富士山がよく見える河口湖周辺の街もそうだ。そしてこの富山。

呉羽山公園からトラムの駅まで歩いていく


 金沢へ向かう。今日の宿は金沢にとってある。金沢は2度目だ。知名度では富山より金沢の方が高いと思うが、街はどうも富山の方が大きいのではないかと感じた。ホテルに荷物を置き、兼六園に向かう。あと30分で閉園という時間だった。特徴的な形をした灯籠を眺め、池を眺め、池畔の茶屋を眺め、日本の庭園では最古という噴水を眺めた。苔が綺麗だった。兼六園に来たのは2度目だし、時間もないのでささっと見て周り外へ出た。

綺麗な公園だが、やはり雄大な自然の風景には叶わないと思った。でも人は多い。若い人が多い。松本城や善光寺は私の年齢以上の年配が多かったが金沢はやたら若い観光客を見かける。女性のグループかカップルである。若い人たちを惹きつけるようなものがあるのだろうかと不思議に思った。確かに人気のある観光地である。しかしその中でも特に有名な兼六園を見てもそれほどのものとは思えなかった。おなじ庭園なら京都に小さいながらもっと趣のある庭園はいくらでもある。大名庭園なら香川の栗林公園のほうがいいとおもう。姫路の好古園などもずっと面白味のある庭園ではないだろうか。あまりに若者だらけなので嫌になってきた。私のような中年の来るところではないのかもしれない。東京に遊びに行っても渋谷などは避けている。やはりそれなりに同年代の人がいる場所でないと歩いていても落ち着かない。でもやはり、金沢へ来たならもう一か所見ておかないといけない有名な場所がある。東茶屋町である。東茶屋町に向かう途中に川を渡った。なんだか少し京都の鴨川に似ていると思った。

川を渡り少し行くと東茶屋町だった。なるほどと思った。非常にフォトジェニックというかなんというか、いい雰囲気の町並みがそこにある。多くの若者が、女性が、カップルがそぞろ歩きしている。時々立ち止まりじっくり町を眺め、写真を撮る。通り過ぎるのがもったいなくなるような風景があちらこちらにある。京都の祇園白川や産寧坂や花見小路などもいい雰囲気だが、人が多すぎるし少し活気がありすぎる。こちらのほうがしっとりしたいい雰囲気に感じた。

 金沢駅近くにホテルをとった




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