メロス2:セリヌンティウスは不満だった
セリヌンティウスは不満だった。なぜこの俺がいつまでもこんな仕事を続けないといけないんだ?毎日毎日、どうにもならない繰り言ばかり言い募る高齢者の相手をして、時間に追われてスピード違反しながら利用者の送り迎えをして、施設に帰ったら今度は利用者を風呂に入れて、トイレに連れて行って、尿や便で汚れたパンツを洗濯して、食事を与える。それから薬を飲ませて、歯磨きさせて、昼寝をさせて、記録を付け、水分補給を促し、おやつを出し、またトイレに連れて行き、時間にせかされながらまた利用者たちをそれぞれの家にスピード違反をしながら送っていく。息つく間がないほど忙しいのにそのうえ生活相談員からはレクをしろ、体操をしろ、もっと利用者の相手しろ、あげくに散歩に連れてけと言われる。
「お前がやれよ、ねずみ男!パソコンの前でちんたらちんたら事務処理やってる暇があったらお前がやれ!そう思わないか?メロス!」セリヌンティウスは同じ休憩室でうつむいて弁当を食っていたメロスにそう言った。
事務処理なんざ帰って家でやれ!工事の仕事してた時はみんなそうしてたぞ!時間内に事務作業なんかやるやつは怠け者だ!そんなのやる暇あったらトイレ掃除でいいから手伝えよ!それからあのえらそげな看護師のやつ。ぐちぐち細かいことばかり言いやがって。「あんた、なんでパット交換するのにグローブつけてないの!」だと?いちいちあのつけにくい手袋つけてられるかよ!ケチりやがって、ろくな手袋買いもしないで!なにが基本的なことがなってないだ、利用者を病気にする気かだ!自分は体温と血圧測ったあとは適当に利用者とおしゃべりして、「はい、お口の体操ですよ」とかぬかして適当に利用者とじゃれあってるだけじゃねえか。そりゃ、汚れたパンツを素手で処理しちゃいけないとかこっちも知ってるよ!でもこっちはのんびりトイレ介助してられないんだ!そうだろ?メロス!転倒の危険がある人がいつ歩きだすかもしれないし、いつ玄関から利用者が出ていって行方不明になるかも知れない。ここの経営者が玄関のカギを締めるのは拘束だとかわけのわからん信念もってるから、玄関の鍵開けっ放しじゃないか、いい迷惑だ!他の施設はこんなことしてないぞ!だからこっちはなるべく手短にトイレ介助なんかすませたいんだよ!外が気になって気になって、いちいち几帳面に手袋なんてはめてられるか!それなのにあの看護師のやつ、こっちを人間の屑みたいにいいやがって!あの出目金やろう!俺のせいというより、出目金、お前が自分のことだけしてまったくこっちを手伝わないから悪いんじゃねえか!ちったあ見守りくらい手伝えよ!ナマケモノが!出目金ってあだ名が出目金に失礼だ!出目金の金魚のフンめ!前の会社だと結構看護師も動いてたぞ!ここの出目金のフンときたら!文句はいうけど動かない!ああ、いらいらする、腹が立つ。割に合わないことばかりだ!なあ、そう思わないか?メロスよう。お前はここに不満はないのかよ?あるだろう?そうだろ!
メロスは、困ったような顔をしながらセリヌンティウスにあいまいに頷いた。正直メロスはこのセリヌンティウスが苦手だった。有無を言わさずまくしたてる彼が少し怖かった。そんなメロスの様子におかまいなくセリヌンティウスはさらに不満をメロスにぶちまけた。
なあ、介護の仕事ってのは本来俺たち介護職員が中心じゃないのかよ?そう思わないか?一番利用者と接して、一番わかってるのは俺らだろ?そりゃ嫌いな利用者もいるけどよ、でも俺らが一番利用者見てて、利用者のため思ってるよ、な!そうだろ!ねずみ男の作った計画書見たことあるか?おれはちらっと見たことあるんだ。なに?メロスお前、計画書がなにか知らないだって?お前そんなことも知らないのか?あいつが計画書ってのを作ってんだよ。事務所の棚のファイルに挟んでるよ。このデイサービスでこの人にどんなことをするかって計画をあのねずみ男が考えて立てるんだよ。それを書いたのが計画書だ。笑うぞ、ほんと!あいつ利用者のことなにも分かってないぞ。Oさんの計画書にこう書いてたぞ。社会への関心を維持するためにデイでとってる新聞をOさんに読んでもらうんだってさ!自分の名前も分からなくなってるOさんに新聞読めると思うか?あほらしい。あと何人かの利用者の計画書には、入浴時の更衣はなるべくご自身にしていただく、とか書いてたぞ!入浴介助に何時間かかるねんって話だろ!こっちでやった方が数倍早いだろ!この会社アホしかおらんぞ。経営者からしてそうだろ?玄関あけっぱなし、鍵しめんってありえんやろ?そのうちOさんかTさん、玄関から抜け出してクルマにひかれるぞ。そこまで面倒みてられるかっちゅうねん!こっちは忙しいのに。知らんぞ!責任取らんぞ!一回ねずみ男に言うたんや。玄関の鍵なんとかなりませんか?経営者のTさんに言ってくれませんかって。そしたらねずみ男、「君は身体拘束を狭くとらえすぎてる。この会社ではカギをかけることも拘束と考えているんだ。それはほかがあんまりやってないすごいことなんだよ」だと!すごいことやって誰か怪我したらどうするねん!まあ、事故でも起こってこんな会社営業停止になったらええんや!どいつもこいつも現場が分かってないねん!アホばっかりや!
せっかくの休憩時間にもかかわらず、いつまでもセリヌンティウスの愚痴を聞かされて、メロスはまったく身体も気持ちも休まらなかった。レンジであたためた弁当も箸がなかなか進まないまますっかり冷えてしまっている。しかし、強引に話しかけてくる相手を無視したり、適当にごまかして逃げることが、憶病なメロスにはできないのであった。
なんでこんなくそみたいな会社で働かなあかんようになったんやろなあ、俺。昔はよかったなあ。中学時代、楽しかったよなあ。結構おれ女子にもててただろ?足はやかったからなあ。高校の時も県大会までいったんだよ。知ってるか?お前高校別だったから知らないか?まあ二回戦で負けたけどな。中学の頃はすごくモテた。でも高校の時は大してモテなかったなあ。なんでもてなくなったんだろうなあ。なんか途中から勉強しか取り柄がないようなつまらんやつらがもてだしたよなあ?お前の行った高校もそうやったやろ?あれなんなんだろうな?がり勉やろうなんておもしろくもなんともないのにな。あんな学校の勉強なんてできようができまいがどうでもええねん。社会に出たら何の役にも立たんやろ?ねずみ男見てみろよ。ケアマネの資格とって、ちゃんと大学も出てるみたいやけどOさんに新聞読ませるようなアホなやつやで?頭よくても役に立たん、現実社会では!頭がええだけのアホがモテるってのはひどいよなあ。けどもっとひどいのは金がないともてん最近の風潮や。金持ちかどうかなんてそんなの運やろ!親が金持ちとか、たまたまええ大学入れたとか、コネがあったとか、社長に気に入られて出世したとか、そんなので金持ちなったに過ぎんやろ?金持ちしかモテんのやったら俺たち介護職員なんてどうにもならんで。くそ社会だよほんと!くだらん社会だよ!メロスお前YouTubeって見ることあるか?見てみろよ、くだらん奴らがようけ動画あげとるわ。あれ結構儲かってるらしいで。おれって中学のころ結構しゃべりもおもしろかったやろ?休み時間なんか周りの女子が爆笑の渦だったもんなあ。俺思うんだよ。あのころYouTubeがあったら俺金持ちになってたんちゃうかって。あのころのおれのルックスとしゃべりがあったらそこそこ人気出たと思うねん。だって、ラファエルとかいう仮面かぶったダジャレ野郎が登録者100万人やで。俺の方がいけるやろ?さすがに50になってユーチューバーやるわけにいかんしなあ。それにちょっと最近太りだしたし。ああ、もっと遅くに生まれてたらよかったなあ。運が悪いなあ。
太り出したというかもう十分中年太りしてるけどなあとメロスは思った。実際セリヌンティウスのお腹はメロスの倍以上に膨れ上がっている。身長170センチ体重85キロのセリヌンティウスだった。
太ったといえば、このあいだの健康診断でまた血糖値があがってたよ。こんだけ働いてるのになんで糖尿病になるんだろうな?めちゃくちゃ体動かしてるけどな。こんだけ一生懸命働いてたら糖尿病なんかならんと思うけどなあ。体質かな?運が悪いよ俺。
そうでもないよなあとメロスは思う。特にメロスと同じシフトの時、セリヌンティウスはメロスにいろいろ命令してメロスを動かして自分でまったく動かないことが多い。メロスが記録用紙を置いた棚の近くにいると、すぐセリヌンティウスの声が飛んでくる。「メロス、Sさん、トイレ、排尿あり、パット交換、よろしく。」という具合だ。メロスにSさんのトイレ記録をつけろというのだ。「ついでにQさんの入れ歯入れといて」「外出るならこれ洗濯よろしく」「今日はさあ、なんか腰痛いから入浴介助代わってくんない?」便利に使うセリヌンティウスと、憶病で断ることができないメロスは、一応、幼馴染で友人ということに会社のなかではなっている。
そろそろ気を付けないと薬のまないといけなくなるらしいだよ。お前どうだった?健康診断。
メロスは異常なしだった。メロスのお腹も出ていたがセリヌンティウスほどではなかった。コンビニ弁当ばかりの毎日だったが、血圧も正常、尿検査も異常なし。健康がとりえというか、健康以外になにもない男だった。まあしかしそのうち近い将来にはいろいろ異常が出てくるだろう、さすがにコンビニ弁当食べ続けてるのにこのままいつまでも健康診断異常なしとはいかないだろうと健康を気にしつつも生活改善ができないメロスは思った。
血圧も高いって言うし、中性脂肪もどうたらいうし、体重落とせって言われるし。運動不足だ、とにかく歩け、1万歩は歩け、15キロ落とせだって!できるかぼけ!だいたい忙しいのが悪いねん。こんだけ一生懸命働いて、家に帰ってジョギングだウォーキングだする気になるかよ!仕事でこっちはストレス溜まってんだよ。次の日のために、とにかく好きなもの食べて酒でも飲んで、あとはなんだ、YouTubeでも見て体休めないと体がもたないよ!ああ、いいことないかなあ。つまらんなあ!!かわいい子でも入社しないかなあ。おばはんはもうええねん、そう思うやろ?
お前結婚してるだろ!とメロスはつっこみたかった。いままで人生で一度も女性とつきあったことのないメロスにとって、既婚者のセリヌンティウスはそれだけで十分に勝ち組だった。だからおずおずとメロスはこう言った。「奥さんに怒られるよ」
奥さんねえ、昔はちょっとはかわいかったような気がするんだけどなあ。今じゃ目もあてられないよ。出目金よりいい体格になってしまったからなあ。家事しないし、メンタルが不調だなんだいって家にこもったままだし。なんか変な小説書いて応募してるみたいだけど、それでお金がもらえるわけでもないし。家帰ると辛気臭いんだよなあ。狭いマンションに二人でいてほとんど会話がないからなあ。それで俺がテレビでプロ野球なんか見ようものなら、あからさまにため息ついてくるんだよ。さも、俺が低俗でたまらないというように!そんなに小説読んだり書いたりすることが立派なことかねえ?だから自分の部屋にこもってYouTubeでも見るしかないんだよ!
それは確かに息がつまるとメロスも思った。多少セリヌンティウスに同情した。
やっぱり世の中が間違ってると思うよ。なんか最近この世の中おかしいで!
そうかなあとメロスはつぶやく。
そうさ!俺らいわゆるエッセンシャルワーカーやん!縁の下の力持ちやで!社会ささえとるの俺らやで!IT企業の社長でも前澤でもユーチューバーでもひろゆきでもホリエモンでも岡田斗司夫でもない、俺らが社会支えてるんやで!それなのに変なダジャレをそのまま動画にして遊んでるだけのラファエルのほうがおれらのたぶん100倍くらいもうけとるねんで!たまらんっちゅうねん!おかしいわ!ぜったいおかしい!この社会はくさっとるで!
あれはあれできっとそうとう大変な仕事のはず、と半年前に東北の平泉に旅行に行った際に、一攫千金を夢見てYouTubeにあげるつもりで動画をとってみたことがあるメロスは考えた。あらためてその時の恥辱感を思い出しメロスは一人赤面した。
なに顔赤らめとるねん、絶対おかしいって、この世の中!俺らの給料めっちゃ低いで!ニュースとかでそういうとるやろ?
テレビとかでは平均より100万くらい低いとかいってるみたいだね、とメロスはセリヌンティウスに話を合わせた。
100万?200万ひくいわ!おれらより出目金やねずみ男の方が給料ええねんで!あほかおもうわ!こっちにまわせ!金回せ!ええことないかなあ~。二か月前に辞めたYちゃん戻ってこんかなあ。あの子に対するいじめひどかったやろう?おばはんらがよってたかって若い子に嫌味言うたり無視したりして。ええ年してはずかしないんかなあ。お前も気いつけよ。ここのおばはんら性格悪いぞ。俺が勤めだして3年になるけど、若い子がやめるのは5人目や。まあ、おばはんら、男だろうが自分らとおんなじおばはんだろうが気に食わんかったら容赦ないんやけどな。人手不足なのにそんなことしよったらしまいにまわらんようになるで。まあええけど!
人手不足、それはどこもそうだった。メロスが1年前に辞めた介護施設も人手不足だった。シフトは慢性的に一人足りない状態だった。メロスも夜勤が明けた次の日に早出というようなことをたびたび経験した。明けの日にたとえば救急搬送や職員の病欠などがあって、そのままつぎの夜勤が来るまで仕事をするということも幾度かあった。ベテランの人のなかには、明けの日の夜にまた夜勤をしたこと何度もあるで、と自慢する人もいた。メロスが半年前から新しく勤め始めたこのデイサービスも、たびたび休日出勤が発生する職場だった。ごめんねえ、○○さんが体調崩したからメロスさん出てくれる?ちゃんと代休入れるからと経営者に言われるのだが、ちゃんと代休が入ったためしがない。そういう愚痴を介護職員間で言っていると、聞きつけたねずみ男が、でもまあ、君等たまにだからいいじゃない。私なんか、毎週休みの1つは研修か事務処理でつぶれてるよ、とこれまたメロスたちに対して仕事忙しい自慢をしてくる。そういうときメロスを含め介護職員たちは思う、お前はいつも机の番しかしてないんだから研修とか優雅なものに行く暇あったら介護を手伝え!
組織として壊れかけた介護事業所などどこもこんな感じである。
Yちゃんかわいかったから余計いじめられたんや。めちゃくちゃかわいかったやろ?あのときもうちょっとかばってあげてたら俺Yちゃんと付き合えたかもな。結構俺頼られてたからなあ!
Yというのは短大をでたばかりの女性で務めて3ヶ月ほどでやめてしまった。年は21、2といったところだっただろうか。顔には出さなかったがYはセリヌンティウスのこともメロスのことも気持ちが悪いと嫌っていた。セリヌンティウスは仕切りに話しかけてくるし、なれなれしいし、なんでもないことでもしきりにYを手伝おうとした。メロスはYが挨拶しただけで赤面して俯くし、返す挨拶も小さな声でほとんどYには聞き取れなかった。Yが彼らを気持ち悪がるのもいたしかたないところである。ここから先しばらくセリヌンティウスのYについてのセクハラ発言が続く。当然ながらそこはすべてカットしなければならない。
セクハラ発言をしおわったところで先に休憩に入っていたメロスの休憩時間は終わりを告げた。セリヌンティウスはまだ半分残っているメロスの弁当を見て言った、お前何のんびり食べてんだよ。気楽なやつやなあ!仕事だ仕事!はやくもどって俺の分も片付けておいてくれ。セリヌンティウスにせかされてせっかくの弁当を半分残したままメロスは現場に戻っていった。
半年前、メロスはこのデイサービスに再就職した。そこで中学時代の同級生、セリヌンティウスと偶然再会した。共に四国の山の中で育った同士だった。共に1972年生まれの同級生だった。まさか故郷を遠く離れた関西のこの街で、しかも同じ会社の同僚としてかつての同級生と再会するとはメロスも思わなかった。運命のいたずらか、何かの奇跡か、あるいは作者の思い付きか、とにかく万に一つのそのような偶然が起こってしまった。メロスとセリヌンティウスは学生時代はそれほど仲がよくなかった。というかほとんど交友がなかった。メロスは臆病で根暗で影が薄く、勉強もできなければ運動神経もまったくよくない日陰者だった。中学時代、メロスは同級生の女生徒たちから毛虫を見るような目でみられていた。ある時メロスが昼休みにトイレから帰るとメロスの席に女生徒が座って、隣の女生徒と仕切りに話をしていた。メロスは困った。引き出しの中に弁当を入れている。お腹が空いたので弁当を食べたい。しかし女生徒に声をかけることがメロスはどうしてもできなかった。メロス自身は他の生徒の席に勝手に座ることなどできない性格だった。メロスはそのまま教室を出て、廊下を端から端までゆっくりと往復して、教室の入り口からまた自分の席を覗いてみた。まだ自分の席に座った女生徒は一生懸命に隣の友人と話し込んでいる。仕方なくメロスはまた廊下を行ったり来たりした。別に用事もなかったがもう一度トイレにこもった。便座に座ってため息をついた。お腹が空いて死にそうだ。でも女生徒に声をかけて自分の机から弁当箱を取るということがメロスにはできなかった。大丈夫、まだ昼休みは十分残っている。15分もすればあの女生徒も自分の席に戻っているだろう。15分後、トイレを出て教室に戻ってみると、女生徒はメロスの席であろうことか弁当を広げていた。流石に一声かけようかと思ったが、そう思った途端に何だか顔が赤くなってきたような気がして、これはいけない、赤面したまま声をかけるなんて到底できないと、メロスはまた教室を離れた。数人の生徒がそんなメロスの様子に気づいたが誰もメロスに関心がなかったので、メロスに助け舟を出すものはいなかった。メロスは4階にある図書館まで歩いていった。それから思いついて一階におり、玄関から外に出て、学校の近くにある自動販売機に行き、ジュースを買ってそれを飲んだ。これだけで午後の授業の間お腹が持つだろうか?メロスは不安だった。しかしそれ以上どうすることもできない。もうすぐ授業開始のベルがなる。もうあの女生徒は自分の席に戻っているかもしれないが、いまさら弁当を広げても食べる時間など残っていない。メロスは結局この日、弁当を食べないままお腹をすかして午後の授業を受けることになった。メロスのお腹が授業中再三ぐるぐる鳴った。あまりに大きな音だったので隣の女生徒がそれに気づいた。女生徒はじとっとした目でメロスを睨みつけた。メロスの中学時代はそんな感じだった。女生徒も男子生徒も誰もメロスのことなど関心を持たなかった。孤独、孤独、孤独、並みの孤独の1万倍孤独な男だった。一方、セリヌンティウスは先ほど本人が言った通りそれなりにモテて人気があった。なにより小学校、中学校を通して彼はクラスで一番足が速かった。セリヌンティウスはバスケットボール部に入っていた。そこで4番のゼッケンをつけて活躍していた。当時、もっとも人気のあったスポーツはバスケではなく野球だった。メロスとセリヌンティウスが小学生の時に隣町の高等学校の野球部が甲子園で優勝した。春夏連覇という快挙を成し遂げたその高校は全国的な人気を誇った。中学に入った年に今度は同級生のあいだで人気の強かった阪神タイガースが数十年ぶりに日本一になり話題になった。掛布、バース、岡田がいた頃の阪神タイガースなのでやはりその優勝も凄まじい話題になった。テレビでは亡くなった双子の弟の遺志を継いで甲子園を目指す兄を主人公にしたアニメが人気を博していた。熱狂的な野球ブームが彼らを覆っていた。野球部員は女子にもてた。セリヌンティウスは野球部にしなかったのを後悔した。野球部にしたほうがもっともてたのにと彼は悔しがったのだったが、バスケットボール部の中心選手だったため野球部のエースや四番打者ほどではないにしろそれなりの人気を誇っていた。もし彼が野球部に入っていたら、案外補欠選手にしかなれなかったかもしれない。野球部は熱血教師が指導しており、その厳しさは常軌を逸するものだった。なにしろ土日という概念が野球部にはなかったし、平日の練習も暗くなってもなかなか終わらなかった。雨の日すら練習をしていた。殴る蹴るという今で言えば体罰として問題になるような指導も野球部顧問の教師は平気で行っていた。セリヌンティウスの足の速さは天性のものだが、彼の努力を嫌う傾向も天性のものだった。おそらく野球部に入っていれば熱血教師の指導についていけないか、ついていけたとしてもなにかにつけ怠けようとする彼は熱血教師に嫌われたことだろう。
野球部と異なり、バスケ部の教師はそれほどバスケットボールに思い入れを持たない淡白な性格だった。教師自身バスケットボールなどやったことがなかった。貧乏くじをひかされて顧問を引き受けただけだった。だからバスケ部の練習は緩かったし、土日は練習などしなかった。顧問が来ないことも多く、皆だらだらバスケを楽しんでいた。当時は空前の野球ブームだったので、どの学校も一番スポーツができる生徒たちはみな野球部に入っていた。メロスたちの学校もそうだった。そんな中でめずらしくスポーツが得意のセリヌンティウスがバスケ部に入ったため、バスケ部では頭一つ抜けた存在だった。近隣の中学校のバスケ部も含めてどこもバスケ部に入るような生徒は野球部に入るような生徒に比べ、運動がやや苦手な傾向にあった。顧問の先生もひどい田舎ゆえ、どこもバスケの経験者ではない教師がつとめていた。だからセリヌンティウス率いるバスケ部は郡の大会では優勝することができた。満を持して臨んだ県大会ではさすがに初戦敗退したのだが。
セリヌンティウスがその人生で一番もてたのはおそらくその郡大会優勝前後の時期だろう。それは1987年の6月だった。7月に県大会があり、初戦敗退したことで若干彼の人気に陰りがでる。そして夏休みの後はみな希望する高等学校合格に向けての受験勉強を本格化させていき、恋愛だなんだというどころではなくなっていく。メロスが片思いしていたAという少女はセリヌンティウスと仲が良かった。中学時代のアルバムを見返すたびにメロスは不思議に思う、アルバムの中のAの容姿は彼の記憶の中の美しい少女とはまるで違って猿のような貧しい容姿だった。まあ、記憶などそういうものだろうし、今から40年も前の田舎の中学の美少女などその程度のものだろう。当時はメロスもセリヌンティウスもAを絶世の美人と思って疑わなかった。おかっぱ頭に、不平そうにつきでた口、杏子の実のようなすこしいびつな丸い目を持っていた。背が低いが敏捷で、学校の成績も非常によかった。セリヌンティウスとAは何度かデートをした。自転車に乗って隣町のショッピングセンターに行くのが彼らのデートだった。もしくは夕暮れ時に山道を登っていき、獣道のようなわき道をかきわけて入っていき、人目につかぬ大木の陰などでお互いの体を触り合うようなことを彼らはしていた。夏休みが終わり二学期が始まって少ししたころ、セリヌンティウスがAをデートに誘った。Aは今日は用事があるからとそれを断った。放課後、セリヌンティウスが教室を出て帰ろうとすると、Aが隣の教室にいた。声を掛けようとセリヌンティウスが入っていくと、Aが困ったような目つきで彼を見た。周りに数名生徒がいたが、いずれも成績の良いセリヌンティウスいうところもがり勉やろうばかりだった。AのとなりのBというメガネザルのような少女が「セリくんも勉強していく?」と聞いてきた。セリヌンティウスは事情を察して曖昧に返事をして教室を立ち去った。その後、何度かAをさそったがいつも断られた。受験が終わるまではがり勉野郎どもみなで放課後勉強会をするのだそうだ。ガリ勉野郎だけではなく、周囲が皆受験勉強に邁進し出していた。そういう変化についていけずにセリヌンティウスはいつしかクラスのなかで浮いたような存在になっていった。この時期、一応メロスでも受験勉強にとりかかっていた。1972年生まれの世代というのは非常に人数が多く、受験戦争とか受験地獄などという言葉が使われるようになった世代でもある。貧乏な家庭に育ったメロスは行かなかったが、高校受験のために隣町の塾に通うものも多くいた。Aも火曜と土曜に塾に通っていた。月曜、水曜、木曜、金曜は同じ塾に通う者同士で勉強会を行っていた。じゃあ日曜くらい会おうよとセリヌンティウスは言ったが、日曜は復習があるとの返事だった。セリヌンティウスは口を尖らせた。何だよ急にみんな人が変わったように勉強し出しやがって!セリヌンティウスは不満だった。親父が言ってた、勉強なんかは他に取り柄がない人間がするものだって。社会に出たら勉強なんか役に立たない。大事なのは体と根性、あと人付き合い。そうだその通りだ!親父の言うことは正しい、と怠け者のセリヌンティウスは自分に言い聞かせ、結局最後まで受験勉強らしいことは何もしなかった。そして周りのガリ勉野郎どもをつまらない、取り柄のない存在なのだと見下していた。
セリヌンティウスは虫の脳みそほどのメロスと異なり、普通の脳みそをもっていたので、受験勉強はしなかったがメロスよりは偏差値の高い高校に行くことができた。しかしメロスと違って、みんなやってるからとりあえず勉強しようという気も起こらない人間だったので大学に行くことはなかった。高校を卒業して彼は電話線や通信線を配線する配線工事の会社に就職した。敏捷で運動神経のいい彼は都合よくこき使われた。はいはい言ってよく走るし、登れと言われれば天井裏でも屋根の上でもどこでも登れたので彼は次第に工事の仕事で同僚に重宝され、受け入れられていった。人間関係もそつなくこなせた。メロスのように変に自意識過剰になることはなかったし、細かいことは気にしない性格だったので、あまりクヨクヨ悩まなかった。身軽に屋根の上にも上ったし、泥だらけになることを気にせず床下にも潜った。若くて疲れ知らずの彼は数年のうちに工事の中心メンバーになっていった。27、8歳ころには県西部の支店の副支店長にならないかという話がきた。そこで彼はしり込みした。しかし給料が上がると言うので引き受けた。それから彼の調子がおかしくなった。彼は楽天家だったのであまり悩みがなかったが、その分他人の悩みや不満にも無頓着だった。後輩が元気がなくても気にしなかったし、自分より年上の部下の不機嫌そうな態度にも長い間なかなか気づかなかった。1年した頃に何だかうまく行っていない、何だかおかしいと思うようになった。後輩の口答えが増えた。年上の部下がサボるようになった。上司である支店長から、最近どうも工事のミスが増えていると指摘があった。クレームがいくつも来ていた。セリヌンティウスは部下にキツく当たるようになった。自分が部下だった頃に何を言われてもたいして気にしなかったから、他人も気にしないだろうと彼は平気できついことを言った。それで組織はますます互いの信頼を損なっていった。部下から文句がたくさん出るようになった。人手が足りない、仕事の分担が不公平だ、なぜあいつには注意しないのか、なぜこんな無茶な工程の仕事を引き受けたのか、取引先との打ち合わせがなってない、情報が全然下に降りてこない、愚痴の嵐がセリヌンティウスに押し寄せ、流石の彼もことの深刻さに気がついた。彼を飛び越えて支店長に訴えるものも出てきた。上からもどうなっているのか、何とかしろと注意されるようになった。日に日にセリヌンティウスは不機嫌になっていった。やってられるか!怠け者ども!お前ら俺ほど働いてないだろが!セリヌンティウスは愚痴ばかり言うようになった。それでもなんとかしなければならない。セリヌンティウスは自分が長時間労働することで乗り切ろうとした。昼間は工事、事務処理は全て夜と休日に回した。会社は、「事務処理に残業はつけられない」と言う方針だった。当時、2000年代は今ほどブラック企業というようなことは言われていなかったので、サービス残業はほとんど問題視されない時代だった。この時の経験が、後々、ねずみ男に対する、事務処理なんか家でやれ!というセリヌンティウスのよく言う愚痴に繋がる。セリヌンティウスはその後、その会社に中間管理職として10数年務めた。流石に彼もだんだん人を使うことが上手くなっていった。脅したり機嫌をとったりしながらうまく人を使って自分は楽をする方法を覚えていった。むしろそうやって人を使うことが自分の仕事だと理解していった。彼は次第に現場を離れ、管理の仕事に専念するようになった。そうして残業時間が減り、彼は一息ついた。新しく入った事務の女の子にちょっかいを出すくらいの余裕ができたので彼は当然にちょっかいを出した。そのまま彼は既婚者になった。その数年後、会社が倒産した。2012年、40歳の時だった。大手の通信会社が親会社だったが、不景気のため子会社の整理に乗り出した。その対象に彼の勤める会社が選ばれて別の子会社と統合、彼の会社は解散となった。統合に際して一部の工事の現場で活躍していた社員が統合された会社に入り、引き続き同様の業務についたが、現場を離れた中間管理職の多くは別の全く業種の異なるいくつかの子会社に飛ばされた。セリヌンティウスもそのような運命をたどった。中途半端な管理職の能力しかもたないセリヌンティウスにはいくらでも代わりがいたのだ。
筆者は最近、ホームレスに関するある本を読んで意外に思ったことがある。作者が十数名のホームレスにインタビューしたのをまとめた本なのだが、そこに登場するホームレスたちのほとんどは大企業や外資系企業、有名メーカーなどにつとめていた元エリートだったのだ。バブルの時期にそういう会社に勤めだし、たくさん給料をもらって、早いうちに結婚し、子どもを持ち、そして高価なマンションを購入し、羽振りよくやっていたのが、バブルがはじけ不況期に入りしばらくすると会社が倒産したり、リストラされたりする、その時期には彼らの多くは、現場を離れ、管理職や人事、経理などの仕事をしていた。会社が縮小されたり買収されたりした際に、そのような管理部門が切り詰められ、彼らはその犠牲になる。リストラされたり早期退職に追い込められる。退職金はそれなりにもらうのだが、退職金のあるうちに重荷をおろそうとするのだろう、多くがマンションのローン返済に退職金を当てて、手元にほとんどお金が残らなくなる。懸命に新しい仕事を探すが現場を離れて長い彼らを雇う企業がなかなか見つからないまま、彼らは徐々に給与の条件を下げていき、自分のなじみの職種をあきらめていき、なんとか職を見つけるが、今までの生活レベルを維持できなくなる。生活レベルの低下が原因となり家族の仲が悪くなる。離婚する。子どもの養育費の支払いが重くのしかかる。けがや病気という不幸が彼らを襲う。お金に窮してマンションを売って再起を図って引っ越すがうまくいかず職を失う。もしくは絶望して失踪する。そしてホームレスへ。その本に紹介されていた多くの人がそのような経過をたどってホームレスになっていた。セリヌンティウスもそのような経過の一歩目を踏み出したといえるかもしれない。
セリヌンティウスがとばされた子会社は介護関係の会社だった。給与は月40万から月20万円台に下がった。まあいいさ、工事の仕事よりよほど楽だろう、そうセリヌンティウスは考えた。ところが介護の仕事は彼の予想以上に大変だった。セリヌンティウスはこの時40になっていた。年下のケアマネや主任にこき使われるのが気にくわなかった。工事の現場を離れて事務の仕事中心となり、あまり身体を動かさなくなって何年もたっていたので彼の体力も落ちていた。そして体重も増えていた。毎日体を酷使する介護に青色吐息だった。だから家に帰ると酒を飲んで飯をくったら早々に寝ころんだ。風呂に入るのも面倒だった。休日はとにかくごろごろして過ごした。幸いしたのは彼のマンションが賃貸で、過大な住宅ローンを背負っていなかったのと、まだ子どもを持っていなかったことだろう。結局マンションはもっと賃料の安いところに移らざるを得なかったが、金銭的にどうしようもなくなるということはなかった。彼ははたらきながら、かつて付き合いのあった工事会社の知り合いたち数人に自分を雇ってくれないかと相談を持ち掛けていたが、どこも彼の求職を体よく断った。テレビ放送のデジタル化による大きな工事の需要がひと段落つき、通信全般が無線や光通信が主流となっていくなかで、とうに現場から退いていたセリヌンティウスには無線通信についても光ケーブル施工についてもなんの技術もなく、どこも彼を必要としていなかった。セリヌンティウスの晩酌で飲む酒の量が徐々に増えていった。家庭では妻との口げんかが増え、そして仕事に対する真面目さも減退していき、いい加減な仕事が目立つようになっていった。そのうちセリヌンティウスは仕事で大きなミスをした。入居者の一人が体調不良のため入浴を中止し清拭を行った。その清拭のために熱いお湯が必要だったので給湯器の温度設定を上げて熱いお湯を使った。清拭が終わり他の入居者の入浴のために湯船にお湯をためた。その時セリヌンティウスは給湯器の温度設定をもとに戻すのを忘れたまま風呂の湯を溜めてしまった。そして入浴する入居者を浴室につれてきて、服を脱がせ、シャワーチェアに座らせて、湯の温度を確認しないままに、シャワーチェアに座った入居者に熱いお湯をざばりとかけてしまった。やけどするほどではなかったが熱いお湯をかぶった入居者が驚いて飛び上がった。その拍子に入居者はすべって転んで頭を打った。たんこぶができただけだったが、ことの経緯が明らかになったことで、あまりにずさんなセリヌンティウスの仕事ぶりに会社の上司と家族からの批判が集中した。年下のケアマネと主任から激しく叱責され、家族への謝罪では家族からさんざん文句を言われ蔑まれ、セリヌンティウスはすっかり拗ねてしまった。俺が悪いのか?(当然セリヌンティウスが悪いに決まっている)人手不足をほっておいた会社がわるいのではないか?(人手不足の問題は確かにあるが、この件は100%セリヌンティウスが悪い)ろくな教育もしてくれない会社のせいではないか?(介護施設でろくな教育が行われていないという実態は往々にして存在するが、しかしセリヌンティウスが100パー悪いことに変わりはない)なんだ、あのケアマネと主任の偉そうな態度は!年下のくせに!(やつあたりである)結局100パーセント悪いにも関わらず反省の気持ちもないままに不満を募らせてセリヌンティウスはその会社を不満たらたらに退職した。セリヌンティウスは仕事を探したが全く見つからなかった。工事の仕事は先に言った理由からみつからなかったし、それ以外の仕事も40になった彼の体力やプライドがゆるさなかったり、この年で建築や引っ越しなどの体力勝負の仕事はちょっとという甘えた気持ちがそれらの仕事を敬遠させた。介護の仕事は論外だと思っていた。しかしある仕事といえば介護の仕事しかない。田舎の求人事情はそういうものである。
セリヌンティウスは都会に出ようと思った。こんな田舎にいたのではやがて自分の豊かな才能が枯れ果ててしまうと思った。自分にどんな才能があるのか彼はよくわからなかったが、自信だけは十二分に持っていた。チャンスさえあればこのセリヌンティウス、かならず大きなことを成し遂げるはずと思っていた。さて、東京に行くか、関西に行くか、セリヌンティウスは悩んだ。東京には伯父がいる。彼が勤めていた会社はその伯父が勤める大企業の子会社だった。伯父の紹介で入ったのだったから、今回の件で彼は伯父の顔に泥を塗った形になっていた。親類の間では一番成功している伯父に頼ろうと考えたが、さすがに合わす顔が無いとも思った。関西にはかつての工事会社の元部下がいた。部下でなくなってからも律義にセリヌンティウスに年賀状を送ってきた男だった。あいつに仕事のあっせんを頼んでみようとセリヌンティウスは考えた。連絡をとってみるとぜひ会いましょうと言ってくれた。早速、関西に飛んでいき、セリヌンティウスはその元部下に事情を説明した。元部下は責任者としてかつてのセリヌンティウスが行っていたような管理業務を行う身分になっていた。自分の会社には今その余裕はないが、工事仲間の会社に聞いてみますよ、大丈夫です、セリヌンティウスさんほどの実績があればすぐ見つかりますと元部下は安請け合いした。それだけでセリヌンティウスはもう関西への引っ越しを決心してしまった。妻を説得し、(彼は妻の心配や不安の言葉を一笑に付し、大したことないと軽視して相手にせず勝手に納得したものと考え、)そうそうに引っ越しを決めてしまった。決まった引っ越し先は田舎のマンションよりずっと狭かったが家賃は1万円以上高かった。都会だから仕方がない、まあいいさ、あいつがいい仕事を紹介してくれる。工事の仕事なら介護よりずっと給料はいいはずだと楽観的に考えた。しかし元部下からは何の返事もなかった。改めて連絡を取ってみると、四方八方手を尽くしたがこの不況でどこも見つからなかったとの返事、おいおいそれはないよ、と言ってみたもののそんなことを言っても仕方なく、追い詰められたセリヌンティウスは見知らぬ土地で右往左往しつつハローワークに通い詰めたがなかなかいい仕事がない。結局、関西でもう一度介護の仕事に就くことになった。自分を顧みることなく、何事も相手のせいにして不満ばかり募らせるセリヌンティウスは、関西に越してから職場を3度変えた。3年前から、のちにメロスと再会することになる小規模デイサービスに勤めだした。勤めだして最初のうちは真面目に働いていたが2年を過ぎたころからやはりまた不満たらたらになってきて、嫌になってきだした。やっぱりここも俺にはむいていないと、ネットの求人情報を漁り始めた時にメロスがやってきた。セリヌンティウスは不満のはけ口を見つけ出し、いったん転職することをやめて今の会社をつづけることにした。