【1章】 5.ドラッグ ちかげ
ーーーーガーッーーーー
「いらっしゃいませ」
ポタ…ポタ…ッ…
「お客さん、びしょびしょのドロドロだね。傷だらけだし…、その様子だと傷薬をご所望かな?」
ーーーースタッ…ーーーーー
「てめえが俺にメールよこしてた”S”か?」
「さあ?なんのことやら」
「しらばっくれんじゃねえ。…ただでさえ数日振り回されて疲れてるし、俺ぁイライラしてるんだ。
しら切るってんなら吐かせてやるぜ!」
「野蛮だなあ、なんのことを言ってるの?」
「これだよ、これ!」
ーーーーバッーーー!
「ーーー"あなたの願いを叶える影屋敷はもうすぐそこ。
すぐに美都市に戻り”ドラッグちかげ”に駆け込むべし。営業時間PM22時まで、時間外は受付不可!
P.S. もう人を殴ってはいけない( `ー´)ノ平和的解決をこころみよ
次ここ⇒http;//…
ーーーなるほど。差出人”S”ね。なかなか興味をそそるメールじゃないか。文才があるね。
きっとこの”S”はだだものじゃないぞ」
「だからてめえだろ!これ!!」何が文才だ!
「はて?どうして?」
ーーービシッーーー!
「てめえの胸の名札に”S”って書いてあんだろ」
「へえ、意外に洞察力あるじゃない。じゃあもう俺の名前もわかってるわけだ?」
「知らん!」
「え?」
「英語は知らん、読めねえ!」
「そうなの?これくらいのローマ字、みんな読めると思ってた」
「習ってねえもんは知らねえよ」
「それは同意する。でも英語って全国共通語なんでしょ?」
「だとしてもここは日本だからな、英語読む必要なし!」
「お、郷に入っては郷に従え、だな」
「あ?なんだそりゃ?」
「なんだ、知らないのか。じゃあ教えてあげるよ。意味はねーーーー、」
「此処へきたからには此処のーーーー私のルールに従ってもらうってことさ」
ーーーーーザッーーーーー!
「ーーーー!」
「千影。…早いな、出てくるの。いつもの力試しはいいのか?」
「今からやるさ」
「ーーーー、」
「やあ、若いの。威勢がいいのう」
「ああ?なんだこの猫目婆あ。お前のばあちゃんか?」
「まさか。似ても似つかないだろ。ーーー…というかお前、口を慎めよ。殴られるぞ?」
「はあ~?こんなチビのババアにかあ?」
「ほっほっほ。本当に威勢がいいのう。私は千影、ここの主で薬剤師をしている」
「…ほーん、薬剤師?ねえ。だから”ドラッグちかげ”か。ふーん」
「そこの金髪はシキ。そいつは…まあ、私の見習いみたいなもんじゃ」
「はーん?外国人?結構日本語うまいんだな」
「まあね」
「…ん?もしかしてお前がうるしの言ってた金髪ブロンド美女?」
「ん?」
「…まあ黙ってたら女に見えなくねーな。…ていうか、あーーーっ!”シキ”って!お前がやっぱり”S”じゃねーか!」
「あはは、それはわかるんだな。賢いじゃない。どう?俺のメール楽しかった?」
「馬鹿にしてんのかおめーはよ!」
ーーーーバッーーーー!
「ーーーーっ」
ーーーースッーーーー
「何故避ける、シキ」
「何言うの、千影。こんなの避けるに決まってる。俺は彼の”右”もう何度も見てるんだよ」
「フン、役に立たん奴め」
「…何度も見てる、だあ?どういうことだ、てめーら。俺をどっかから監視してやがったのか?」
「ご名答。そうだよ。君が初めに美都市にきたときーーー、二日前からずっと見てた。人を使ってね、映像を撮らせていたんだ。
道中、君に絡んでくる輩がいたろ?彼らの眼鏡やベルトにカメラを仕込んでたのさ。君に意図せず壊されちゃったけどね」
「あんだと~?どうりで行くところ行くところで喧嘩売られまくったわけか。おまけにカメラまで仕込まれてたとはな!
…初めっからお前らに踊らされてたってことかよ。ちっ、ますますイラつくぜ。てめーら、何のためにこんな面倒なことしてんだよ?」
「色々事情があるんだよ。第一君がここへ一人でくるとも限らないだろ?」
「ひとりじゃねーとダメなのかよ?」
「君、やっぱり募集要項も読んでないんだね。確か”基準を満たしていない者、ルールを守れない者は例えここへ辿り着いても権利を即剝奪する”ーーーーだよね。
いいの?千影」
「構わん。そもそもこやつが自分でここへの地図を見つけていないのはハナからわかっておるじゃろ。」
「…まあ、ね。漆原(うるしはら)富雄くんーーーからここへの地図を受け取って、君はここへ辿り着いたんだよね?”神田冷基”くん」
「ああ」
「…本当はそういうズルはダメなんだけど。主がOKならまあ、そういうことで」
ーーーーガッーーーー
「とりあえずそこに掛けて。話を聞こうか」
「退けーーー、シキよ。私が話す」
「…順序は守れ、じゃないの?」
「そもそもこやつはルールを守ってはおらん。我を通してここへ来たんじゃ。ならこちらもーーーこちらのやり方でやらせてもらう」
「…目には目を、ってやつだね」
「フン、さっき言ったろう。此処へ足を踏み入れたからには、私に従ってもらうまで」
ーーーードスッーーーー
「……なんか知らねえがおめーらなんか、ヤバそうだなあ?」
「カっカッカ!ビビっとるのか?」
「誰がてめーらなんぞにビビるか、特にババア!てめーなんてデコピンで吹き飛ばしたるわ」
ーーーーキッーーーー!
「…な、なんだよっ?」
「お前、もし次私に”ババア”と言いやがったら、とっておきをお見舞いしたるからなあ」
「はーーん!?やれるもんならやってみろっての、よぼよぼのおばーちゃあん!?」
「ふん、まあ良いわ」
「…それが正解だったのか…」
「あん?なんか言ったかあ?」
「いや…」
ーーーコホンッーーー
「ときにおぬしーーーー、神田冷基よ。お前の目的はなんじゃ?何のためにここまで来た」
「…おお、やっと本題かよ。変な宗教にでも勧誘されるのかと思ったぜ」
「宗教…な。あながち間違ってもおらぬわ」
「…ああ?とゆうかばあちゃんよお、ここが”影屋敷”で合ってんだよなあ?パッと見、普通のドラッグストアにしか見えねーけど」
「屋敷は地下にある。ここを探し当てることができる確率は極めて低いが、地下に行くことができる確率はもっと低い」
「はあ〜?地図を手に入れてここまで来るのも大変だってのに、ずいぶん値打ちこいてんだなあ」
「値打ちではなく値踏みしている」
「は?どういう意味?」
「お前は命を懸けられるか?」
「いのち~?」
「そうじゃ、ルールを吹っ飛ばしていることは置いておいて…、”望み”があるからお前はここまで来たんだろう。
その望みの為に自分の命を懸けられるか?…つまりそれはーーー命を懸けるに値する望みなのか?ということを聞いている」
「…う~ん…うーん…?いのち…命なあ~…?うーん…」
「「…………」」
「OK,いいぜ。かけるよ、命!」
「「ーーーーー………」」
「じゃあ、俺の望みを話すぜ?俺ァよおーー、」
「……ちょっと待て、お前ちゃんと考えて答えているか?」
「シキ、黙っていろ」
「でもーーー…」
「俺の連れがさ、2週間前に死んだんだ。32階建てのビルから飛び降りてさ。
死体は衝撃でぐちゃぐちゃだったらしいんだけど、遺書もあって、DNAかんてー?でも本人だって認められた。
でもそいつはよ、自殺するような奴じゃないんだ。」
「…それでーーーー?」
「そいつを、”捜して”欲しい」
「……生きている、と思っているのか?」
「おう」
「どうしてそう思う?」
「…うーん、どうして?か…は、わかんねえけど、生きてる気がするんだよ。うまく言えねえけど…、あいつが死ぬなんてありえないっつーか…」
「ーーーシキ」
「OK,冷基、これを見て」
ーーーーースッーーーーー
「…なんだ?その表」
「俺の作ったデータだよ。簡易なものだけど誰の目で見てもわかりやすい様に纏めてる。
上から、この国の年間の自殺者数さ。これは去年、ざっくり約31000人だね。6年前から増加の一途を辿っている、全人口約1億2500万人という割合で見てもまさに自殺大国だ。
…ーーこんなに豊かなところなのにね。
下は行方不明者数。こちらはざっくり9万人。こちらは三年連続の増加だね。
ちなみにこの円グラフは行方不明者数の年代別で、10代が約1万8千人と最多で、10代と20代で全体の約4割を占めてる。
事情は人それぞれだろうし、中には誘拐や犯罪に巻き込まれているパターンもあるんだろうけど若者が多く消えていく国は寂しいよね。
…ちなみに君の友人はいくつかな?」
「…19」
「そうか。残念だけど、そこまで物的証拠が揃っているなら行方不明の線も薄いし、やはり死んでいる可能性が高いんじゃないかな。遺書もあったんだろ。
それにまずその彼が生きているという保証が何もない、根拠もないんだろ?」
「バッカ、てめえ、そんなもんがあるなら、こんな胡散臭いところまで来ねーっつーの!」
「ーーー…ククッ。まあ、それはそうだろうけど。
数字見て改めてどう?少しは現実が見えるんじゃない。仮に君の言う通り、何らかの事情でその友人が生きていたとしよう。
行方不明者は年間9万人と言ったが、このうちの半数以上は一週間以内に発見されているんだけど、残り半数は見つからないんだよ?
君の友人が見つかると思う?」
「知らねーよ、そんなこと。それを見つける、だなんだとのたまってるのがおめーらじゃねーの?
だから俺はここへ来た。
俺は難しい事はわからねえし苦手だ。
だけどよ、”確率”や”数字”がいかにアテにならねーかはよおく知ってるぜ。博打屋の息子だからなあ。」
ーーーピッーー…
「神田冷基。蓮紺中学2年B組。帰宅部。171cm、B型。素行、悪し。家は蓮紺商店街の奥の美容室。が、その店は夜は雀荘になる。同居人は母と父ーーー」
「ーーー!」
「なるほどのう、確かに博打屋の息子じゃ」
「…てめーら、俺の情報は調べ済みかよ?」
「探偵みたいな謳い文句で人を募ってるんだ、これぐらいは当然でしょ?どう?少しは信用してくれた?」
「ちっ、逆に不信感募るっつーの」
「時に冷基よ。お前も博打好きの口か?」
「まあ、そうだな。小せえ頃から親父に色々教え込まれてっからなあ」
「よし。ならば私と賭けをせんか」
「ばあちゃんと?どんな?」
「お前に素質があるか、ないか、じゃ」
「…おい、千影ーーー」
ーーースッーーー…
「シキ、あれを持ってこい」
「…ーーー待て、彼の意思を聞いてからだ」
「”仕掛ければ乗ってくる”ーーーじゃったな?お前が言った言葉だぞ、シキよ。男に二言はあるまい」
「……それでも決めるのは彼自身だ、俺たちじゃない」
「…よくわかんねえけど、ここでやべえもん賭けさせられんのかあ?俺ぁ」
「そういうことだ。冷基、もう一度よく考えろ。千影との勝負に乗ったら君はーーー、最悪の場合、命を落とすかもしれない」
「…命をーーーー」
「冷静に考えろ。死んだら何もできないぞ。生きていれば、…ここで勝負を受けずに君が帰ったとしても、俺たちではなく、本物の探偵なり何なりに、改めてきちんと依頼をすればいい。友人の生を諦めきれないのなら、ね。
生きてさえいればーーー、どうとでもなる。それに俺たちだって、生きているかさえわからない者を100%見つけ出す保証はないんだ」
「ーーーが、お前が私との勝負を受けないのなら、勿論お前の依頼は受けんし、此処でのことは全て忘れてもらう」
「ああ?忘れてもらう、ってどうやって?」
「知る必要はないさ。どうせ忘れるんじゃ」
「…ああーもうよくわかんねーなー!ババアも金髪も!ますます胡散臭え!!
ーーーが、…受けるぜ俺は。その勝負とやら。何させられて何賭けさせられるのか知らねえが、ここまできたからには手ぶらで帰れねーよ。…金髪ブロンド美女の写真も撮れてねーしよ。
それにまーさっき”命かける”って言っちまったしな」
「…ホッホッホ!見ろぃ、シキ。こやつの方がよほど男らしいじゃないか」
「…冷基、お前ーーー。本当にいいの?
ーーー死んでもいいのか?」
「言ったろ?お前らどっちともそもそも俺は負ける気がしねーんだよ」
「どんなことをされるのかわからないんだぞ」
「そんな事言われても考えたってわからねえんだし、しょーがねーじゃん。
俺は俺にできることをやるだけだ。
どーせ暇だからな」
「ーーーー……無鉄砲な奴だな」
「シキ」
「…OKだ。持ってこよう」
ーーーーガチャッーーーー…
「……健闘を祈るよ、冷基」
「ーーー?おう?」