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【1章】 8.上から降りてきた者


ーーーーーパチッーーーーー


「ーーーーッ…!」

「起きたね。おはよう」



「ーーー…ここは…」

「屋敷の地下、ここは医務室さ。
おめでとう、神田冷基くん。

君は見事、血魂に成功した。よって、正式に君の依頼を受諾する。

…ーーーということでさっそく必要事項を聴取して、依頼書を作りたいんだけど…体は平気?時間はある?」

「……平気だ。…今何時?」

「朝の9時だね。バッチリ8時間眠っていたし、今日は土曜日で学校は休みだと思うけど、家の人は大丈夫か?

もうまる3日帰っていないことになるけど。
先に親御さんに連絡でもしておくか?ほら、君の携帯」

ーーーーポンッーーーー


「ーーーあ、」

「…昨夜、君が俺に殴りかかった時に落ちたから預かっておいた。ついでに電池が切れかけていたから充電しておいたよ。

君を心配する人に連絡してあげればいい。
せっかく便利なもの持ってるんだから」

「…おー。サンキュ…」




ーーーースッ…スッーーーー




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




<母ちゃん 20:32

あんたどこにいんの

<母ちゃん 20:33
不在着信

<母ちゃん 21:22

ごはんは?

<母ちゃん 22:08

ごはんなしね!

<母ちゃん 0:19

ごるあ(# ゚Д゚)いい加減連絡しろ未成年が

<母ちゃん 7:50

小遣いなし)^o^(
あと今日店番頼みたいから昼までに帰ってきて

もし帰らなければ坊主)^o^(




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「………いねーこと気づいてるん昨日じゃね?これ。…ババアぼけてんのか?」

「どうした?」

「…いや」



ーーーースッ…スッーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<うるし 19:09

無事か!?

<うるし 19:10

健闘を祈る(。-`ω-)

<うるし 19:13

お前の好きな芸人8チャンに出てる!

<うるし 19:15

結構おもしろいなww

<うるし 22:22

言い忘れてたがお前の二日間のアリバイは俺に任せろ(`・ω・´)b
清蔵兄ちゃんにワイロを渡して協力してもらった

お前は清蔵兄ちゃんに連れられて釣り旅行に行ってることになってるから、おばちゃんにはその定でよろ☆

<うるし 22:46

あと言い忘れてたが屋敷に辿りつくには最低二日はかかるらしい。
お前なら二日でいける!(`・ω・´)b

おやすみ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……とりあえずこいつは帰ったら殴る、と」大事なこと全部言い忘れとるし

「……どうしたの?」

「いや。てかいいや。碌な連絡きてないし、話進めてくれ。俺昼までには帰んなきゃだし」

「そうなのか?OK そうしたら巻きで進めるね。おなかも空いてるだろうし。朝ごはん用意してあるから食べて帰ると良い」

「……ーーーそういや猫目の婆ちゃんは?いねえのか?」

「千影は今別の部屋でお前の血のデータをとってる」

「ーーー…血の…。…お前ら、一体ーーーー」




ーーーーカタカタカタッーーーー

…ギッ、クルッーーーーー




「君が捜して欲しい人物はこの彼で間違いない?」

「あっ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

美好萌人(ミヨシモエト)(19) 血液型B型

身長 174cm 体重 62kg

職業:音楽家、歌手

家族構成:父、母(死別)



音楽家で歌手の母の影響を受け、幼少の頃から様々な楽器に触れて育つ。

10歳の頃に海外で行われた居住地、国籍を問わない世界三大ピアノコンクールのジュニア部門にて優勝、頭角を表す。

その後もピアノに限らず様々な楽器に触れる生活に明け暮れ、13歳の時に当時夢中になっていたアコースティックギターを片手に海外へ留学。

当時語学力も碌になかったが、持ち前のコミュニケーション能力と才覚で同年代の仲間たちと国境を越えた音楽コミュニティを構築する。

その後日本に戻り、レコード会社のオーディションに合格後、14歳で作曲家としてデビュー。

その後は専門学校などには通わずにフリーで活動を続け、15歳の時に自ら音楽制作会社を立ち上げる。

以後は音楽プロデューサーとして活動し、様々なアーティストを世に送り出している。



※父は政治家の美好秋人(アキト)
 母は音楽家の(故)美好萌香(ホノカ)


※死因:自殺 (20◯◯年9月9日午前3時頃、◯◯区の32階建ての商業ビル屋上から飛び降り死亡)





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おう、そいつで間違いない」

「彼、有名人なんだね。若者に絶大な人気を誇っていて、ーーー彼の死後、関係者・ファンの数十人が既に後追い自殺を図っている。

…これは由々しき事態だね」

「…あー、そうそう。そうなんだよ」

「彼の父親も政治家として昔から有名で、彼が小さい頃は手を繋いでしょっちゅう一緒にテレビに出ていたとか。

その時の幼い彼の姿を世間は見ていたというのが、彼が”ジュニア”と呼ばれる由来なんだね。父親とは仲がいいみたいだ」

「いや、そうでもねーよ。それは表の顔っつーか。

美好の親父はあいつのことを毛嫌いしてて、あいつのやることなすこといつもケチをつけてたんだ。美好は美好でいつも母親を蔑ろにしてた親父を良く思ってなかったみてえだし。

折り合いよくねーよ、あの親子は」

「なるほど。では彼にとって唯一の血縁者のその父親は、息子が自死して清々していると?」

「いや、…そこまではわかんねーが」

「彼の亡骸をその父親しか見ていないーーーというのがやはり引っかかるところではあるね。

実際DNA鑑定を承諾したのも肉親である父親だし、第一本人確認が困難なほど損傷があったと報道があったのに、遺体の戻りが異様に早かったのも気になる。

死亡診断書を医師が出さないと火葬できない筈だが、記録を見る限りでは約一週間後にはDNA鑑定の結果が出てすぐに葬儀・火葬を済ませている。

しかも正式な葬儀は家族葬。
つまり自分一人で弔ったということ。

…うん。早急に”何か”をーーーーー隠したかった可能性がある」

「ーーーーーー、」

「まあ、どちらにしても一筋縄ではいかないな。唯一のキーパーソンの彼の父親の存在が強大で鉄壁すぎる。なかなか盗めないんだ、彼の所属する政党の機密情報や彼自身のデータ。

…ただでさえこちらはそういう技術がいやに高いーーーーー…」

「………」



ーーーージッ…

「ーーー何?」

「お前、何で美好の名前知ってんの?俺、言ってねーよな?」

「ああ。今のはね、もう一人の依頼者からの聴取内容を踏まえて、俺が独自で調べて今考えられる見解」

「もう一人?」

「ああ、そうだよ」

「ちょっと待て。何でそいつと俺の捜して欲しい奴が同じ奴だってわかったんだよ?」

「ああ、それはねーーー…」




ーーーーーープルルルッーーーーーーー


「ちょっと失礼。ーーーーもしもし。うん、起きてるよ。ああ、大体は。了解、上に上がるよ」

ーーーカチャッーーー


「冷基、ご飯を食べに行こう」

「は?話もう終わりかよ?依頼書とやらはいいのか?」

「問題ない。君が寝てる間に大方、仕上げてあるし。捜し人が”美好萌人”君なら話は早い。さっきも話したが既に独自に調査は始めている」

「……そうなんか」

「詳しいことはまた追々話すよ。ひとまず飯だ。お前たちは腹が減っては何とやら、でしょ?

移動ついでに屋敷を大まかに案内するよ。これから通ってもらうことになるところだからね。さ、こっち」

ーーーーガチャッーーーー…



スタスターーーー…

「……随分広いんだなあ、この屋敷」

「だね。ドラッグストアの外観からは想像できない広さだよね。地下にこんな屋敷が広がってるだなんて誰も思わない。

ーーー俺も…、思わなかったし。あ、居住スペースは上にあるんだ。店の奥ね。ちなみに裏には離れもあるんだよ」

「……お前はあの婆ちゃんの見習いだっつってたよな。いつからここにいるんだ?」

「俺か?ちょうど一年前くらいからかな」

「…ふーん?どこの国の人?アメリカ?」金髪だし、目が緑色だ



ピタッーーーーーー…



「俺は本来、この世の上に生きる住人」

「は?」

「ひとつ、降りてきてここにいる」

「…何言ってんだ?お前。意味わからん」

「…冷基は”この世界は11次元”とする“超弦理論“、知っているか?」

「いや、知らん」

「…だよな。じゃあ、“並行世界“はわかる?パラレルワールドってやつ」

「いや~?聞いたことある気がするがわかんねー、知らねー。つーか俺に難しい話はわかんねーぞ?超シンプルにわかりやすく頼むぜ」

「…なるほど。じゃあ、これは俺の仮説もありきの話なんだが、まあ、ものすごく単純明快に言うとだなーーー。

”この世界は11層に積み重なってできていて、今この場所。君の住む世界は3次元、もしくは4次元だと考えられているんだけど、

俺はその更にひとつ上の次元ーーー…恐らく、5…次元から来た”


ーーーーどう?わかった?」

「ーーーいや、全く。お前頭良さそうだと思ったけど実はやばい奴なんか?」

「やばくない。すべて正しいとは言わないが概ね事実さ。じきに理解る」

「…中二病?」

「なんだ、それは?初めて聞く病名だが?」それに中二はお前だろ?

「…まじでやべーかもなこいつは」

「やばくないってば。失礼な奴だな」

「じゃあお前、その一個上の次元とやらからどうやってここに来たんだよ?」

「よくぞ聞いてくれた。“扉“を作ったんだ。一年かけてね」

「…扉ぁ~?ドラえもんかよてめーは」

「俺は人間じゃないが猫型ロボットでもない」

「知ってんのかよ」

「ちなみに俺は猫は好きだ」

「聞いてねーよ。

…はあ、なんかあれだな。ここ3日色々ありすぎて頭が疲れてんだな、俺あ。…うん、飯食おう、飯。早く連れてってくれ、飯のところへさ」

「…む、お前俺を”頭のおかしい外国人”だと思ってるな?」

「いや思うだろ!当たり前ーーーーー…」






ーーーーーーボワッーーーーーー


「ーーーーーっ…!!…わっ、なんだそれっ?」

「ーーータロットカード。知ってる?」

「知らん!」

「…君は何も知らないな。俺よりモノを知らないんじゃーーー…」

「っつーかお前ッ!…それっ、何で浮いてんだよ?!……手品か?」

「まさか。近づいてよく見てみろよ。種も仕掛けもない」

「…じゃあ、なんでーーー」

「俺の”血の力”。冷基は何にも知らないから正直やり甲斐がないけど、汚名を晴らす為に少しだけ見せてあげる」



ーーーーーザーーーーッ…


「うわっ、動いた!」

「この22枚のカードから一枚選んで引いてみてくれ」

「…なんで?」

「いいからいいから。ちょっとした占いだよ」

「ーーーーー…、」

ーーーーーそっ……

「あ。一応忠告だけど、カードに触れた時に気分が悪くなったり動悸がしたらすぐに手を放してくれ」

「え?」

「はい、どうぞ」

「お、おう」


ーーーーースッーーーー…


ーーーーーーボワンッーーーーーーー



「うおっーーー!!!!び……っくりしたあ……!な、なんだ、こいつーーーーー…!」

「正位置の”死神”ーーーーか。
うん、悪くないな。いいんじゃない?」

「何がーーー…っ…!つーか、馬!馬がーーー…!」

「あ、待って。流石にまだ触らない方がーーーー…」



ーーーーーーバンッーーーーー!!



「阿呆!!そんなところで何をやっとるんじゃお前らは!!」

「うおっ!!ば、婆ちゃんかよ…っ…ビビ…った~」

「このクソガキ!!」


ーーーーシュッーーーー!


「うぉっ…!!あっぶねえ…!!な、おま、葉巻を投げるんじゃねーよっ!」

「うるさいわいっ!お前も起きたんならさっさと顔洗って飯食ってこい!」


ーーーーーボワッ…ーーーーーー


「あっ…消えたーーーー…!」

「ちぇ、いいところだったのに」

「シキーーー!”あの部屋”以外の場所で血を使うなと何度も言っとろうが!!

…それに起きたばかりのそやつにそんなことをしてーーー、何かあったらどうするつもりじゃ!」

「どうにもなるもんか。あんなスピードで血魂が定着した奴だぞ?これくらいどうってことない。その証拠に見ろよ、彼はピンピンしてるじゃないか。

ねえ、冷基?体、なんともないでしょ?」

「…あ?…ああ、ていうかお前今のは一体ーーー」

「馬鹿もん!お前は人間の生態をまだちっともわかっておらん。いいかい、血がどれだけ濃くったって、所詮は人間ーーー。

お前らとは体の作りが違うーーー。…ちょっとしたことで命に関わるんじゃよ」

「わかっていないのは千影の方さ。彼の血は他とは訳が違う。”平気”なんだよ、これくらいはーーー。

あまり過保護にしていたんじゃ、望みなんか叶えられっこない」

「フン!ガキが生を言いおって」

「だから俺はガキじゃなーーーー」



ーーーーーーグウ…ーーーーー


「ーーーあ、悪ィ。…先に飯もらっていいか?腹減った…」

「……ーーーほら、言ったろ。心配しすぎなんだって」

「…ふん、肝の座ったガキじゃ。さっさと食ってお前は店の準備をしろ」

「はいはい。上に行こう、冷基」

「お、おう」



ーーーーーートントンッーーーーー

「ーーーなあ、お前。シキだっけか?
さっきの、なんなんだよ?ほんとに手品の類じゃねーの?」

「言ったじゃない。あれは俺の力だって」

「…化け物をカードから召喚する力?」

「違う。がーーー、…まあ、それも追々、ね。あんまり順番をすっ飛ばすとまた千影に小言を言われそうだし。

まあ、でもーーーー…」



ーーーークルッーーーーー

「うおっ、なんだよ。急に振り向くな。また変なお化けみたいなの出してくるかと思ったろうが!」

「…お化けじゃなくて、死神と馬なんだけど。まあ、いいや。自己紹介くらいはしておくよ。

俺はシキ・ルービック。さっきも言ったけど、この上の世界から来た。

だから此処のことはまだよくはわからないけど、依頼を受けたからには君たちの力になりたいと思ってる。

よろしくね」



ーーーーギューーーー…

「…うーん。一応聞いとくけど、お前はじゃあここへ何しに来たん?」

「医学を学びに」

「自分のところでは学べないん?」

「そうではないけど、ここの医療と比べると雲泥の差だから。知識も、技術も」

「お前は医者になりたいんか?」

「そうじゃないが、拾える命は掬いたい」

「ふうん?」

「君と似た様なものだよ。冷基は友人の死を受け入れられず、生を願っていて、だから一縷の望みをかけて此処まで来た。

俺も同じーーー。

“納得できない死“は到底受け入れられない。だから俺は俺にできることをするために此方へ来た」


ーーーーーガラガラッーーーーー




「ようこそ、冷基。“こちら側“へーーーー。

これから大変なことがたくさんあると思うけど、君が降りない限り、俺も降りない。だからがんばってひとつずつ、こなしていこう」

「……何を?」

「“君にできることを“さ」

「だからそれって具体的になに?俺もなんかすんの?」




「ーーーそうだな。

とりあえず“今“で言うと、“腹一杯飯を食うこと“だな。OK?」

「マジでよくわからんわ、お前」



















シキのタロットカード 「死神」








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