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【1章】 9.血力
「おはよう。二人とも、冷めるから早く座れ」
「おはよう、千空」
ーーーーガタッーーーー
「っおっ、ビックリした。お前以外に人いたんか」
「ああ、彼は千影のお孫さんだよ」
「…あの婆ちゃんの。似てンなあ?」系猫目…
「千空(チアキ)だ。よろしくな。
冷基、だな。聞いたぞ。血魂に成功したんだってな?よく頑張ったな。あれの後は体力が落ちる奴も多いから、たくさん食って帰れ」
「…うっす。どーも」
「む…?なんだかお前、俺に対する態度と違うな?」
「あ?そうかあ?お前よりマトモそうだからじゃね?」
「誰がマトモじゃないだ、どこからどう見ても俺もマトモだろう」
「いや、胡散臭えよ。金髪で長髪だし。何より”S”のメールから既に印象悪ィし」
「なんだと?」
ーーーーーカチャッ…
「お前ら何だか仲が良いな?」
「「どこが」」
「まあ、食おう。いただきます」
「「いただきます」」
「…うお、うまそー。朝から豪勢だなあ。あんたが作ったの?」
「ああ。朝飯は交代制でな。シキが作る時もある」
「俺も千空の飯が一番好きだな。和食で品数も多いし、体に良いものばかり。そして何より、」
「うまい!」
「だろ?」
「なんでてめーがドヤってんだよ」
「口に合って何よりだ。
ーーーそうだシキ、さっき荷物が届いてたぞ。お前また何を頼んだんだ?」ほら
ーーーーガサッーーーー
「ああ!ありがとう千空、これこれ。急いで昨夜頼んだんだよ。毎度のことながらすごいな、”翌朝配送”。このスピードには感服する」
「アムゾンかあ?」
「さすがの君もアムゾンは知ってるんだね」
「馬鹿にすんな、知っとるわ。
ーーーで?何頼んだんだよ?」
ーーーーガサガサッ…ーーーーー
「うわ」
「……これはーーー」
「メリケンサック、だな?」
「千空も知ってるの?」
「まあ、な」
ーーーースッーーーー
「お前なんでそんなもん買ってんだよ?」しかも翌朝配送で
「君が昨日言っていたから。”そんなことも知らないのか”と。…どんなものかと思ったら。
ーーー”身を護る護身用にピッタリ!速攻一発KO!”ーーー…なんだ。
所謂喧嘩の道具じゃないか。おい、忠告するぞ冷基。お前のパワーでこれをつけて右を打つと死人が出る可能性がある。
金輪際、辞めるんだ。素手で十分」
「使っとらんわ。てか俺そんなこと言ったっけ?俺のは昔喧嘩した相手が使ってきたから、戦利品として取り上げて護身用に持ってるだけ」
「…なるほど。お前はこいつ相手でも勝てるのか。昨日君の右を受けた時思ったんだけど、何か格闘技してるの?」
「してねーよ。」
「ふーん?要るか?これ」
「いらねーよ、てめーが頼んだんだろが」
「俺には必要なさそうなものだから」見てみたかっただけだ
ーーーーモグ、モグッ、ゴクンッーーーー
「まじ、うめえ。俺の母ちゃんより上手いぜ」
「それは良かった。
ーーー時に冷基。お前からの依頼の件だが、実はもう一人別の者から同じ依頼を受けているんだ」
「ああ、さっきシキに聞いたよ」
「心当たりはないか?」
「…さあ。美好ってのはやたらダチが多くて、色んな方面から崇拝?っつーのか?されてた様な奴だから、誰かが俺と同じ様な依頼をここへかけてても不思議じゃねーよ」
「…ここへたどり着ける者はそう多くはないんだがな。ちなみにお前と同じ学校の子だ」
「蓮根中?」
「ああ、そうだ」
「…女?」
「ああ」
「…あ~、なら多分、わかった」
「ーーーそうか。守秘義務でな、俺達の口からはそれが誰だとは今は言えない。…が、心当たりがあるなら、忠告してやってくれないか。
ーーーー”女は彼方では危険だ”と。今一度、よく考えた方がいい。…とな」
ーーーパクッ、ーーーモグモグッ…
「”あちら”って、こいつんとこ?」
「ーーーシキ、話したのか?」
「軽くね。でもま、例にもれず。まるで信じちゃもらえていないけど」
「そうか。信じられないのも無理はない」
「え、あんたまさか信じてんのか?こいつが”どこから”来たかって話」
「ああ。というより、俺はそこへ行ったことがある」
「え?五…次元?」だっけ?
「それはシキの仮説だから定かではないけど、行くには行ったよ。こことは違う、血の世界に」
「…血?ーーーの、世界?なにそれ?」
「血がすべての彼の故郷。”血界”と彼らは呼んでいるから、俺もそう認識している」
「…ちかい…ーーー」
「そう。すべてではないが、此方で消えた人間が血界で見つかるということが度々あるんだ」
「…まじかよーー?」
「まじだ。実際に俺は千影屋敷の捜索人9人を、”向こう”から呼び戻した」
「…9人ーーーー」
「実際にはもっといるが…俺が自分一人の力で無事こちらへ戻せたのは9人のみ。そしてシキが去年ここへ来てからはさらに22人ーーーー。
戻せている。これは紛れもない彼の功績。
彼の言っていることは事実なんだよ、冷基」
ーーーーバンッーーーー!!
「まじかよ!すげーじゃねえか!!」
「あ、…ああ、信じてくれたか?」
「おう!すげーよ、あんた一体何者なんだ!?」
「…俺はただの医学生だ。今は学業に専念していて、代わりにこのシキがーーー…」
ーーーズイッーーー!
「ちょっと待て。冷基、聞き捨てならないんだけど?
どうして俺が実際に”血力”を見せても信じなかった癖に、口頭のみの説明で千空のことは信じるんだ?」
「てめー、フォークで人を指すなっての」
「そうだぞ、シキ。行儀が悪いぞ。というかお前、もう血力を見せたのか?」
「ああ、ほんの少しだけ。冷基が俺を頑なに信じないものだから」
「お前な…、また千影婆にどやされるぞ」
「心配無用。もその後さ」
「…お前ってやつは」
「…つーかお前はそもそも初見から胡散臭いんだって言ってんじゃん。
ほいで、”ちりょく”ってのはさっきお前がカードから化け物を出したあれか?」
「…化け物…」
「失礼しちゃうだろ?神聖なモノだってのに。…まあ冷基はタロット自体知らないから、仕方ないけど」
「冷基、血力は何もシキの見せた能力だけじゃないぞ。血魂に成功すれば人それぞれ様々な能力を持てるようになる」
「…あんたも?」
「ああ。俺も君と同じ14歳の時に血魂に成功した。…もっとも、君の様にスムーズにはいかなかったが」
「千空への血魂は千影がほぼ我流で行ったのだから、成功しただけでも奇跡ってもんさ。
元々、血魂は命を落とすリスクがあるものだからね。冷基が難なく成功できたのは俺や千影のサポートがあってのもの…ーーーー
と、言いたいところだけど、単にお前の血が濃かったことが大きい」
「ーーー血が濃い?」
「そうさ、文字通り、濃ゆい血が流れているんだよ、冷基は。今はまだわからないと思うけど、血力が開花したら徐々に俺の言っていること、他人や自分の血の濃淡がわかるようになる」
「のうたん…?」
「コホンッ。…話を一旦戻すぞ。とにかくな、冷基。シキが今言った通りお前は元々血が濃い、それは素質があるってことで、とてもラッキーなことだ。これからもし血界に上がってお前自身が人捜しを行うとしても、それが何より強力な武器になり盾になる。
文字通り、血界では血が濃いことが最強なんだ」
「ーーー”ちかい”に”あがる”?…俺が?そこに行くってこと?」
ーーーーカチャンッ、モグ…ッーーーー
「それは冷基ににそれだけの力があればーーーー、の話。
…千空、まだどうなるかわからないのに期待を持たせるのは良くないんじゃない?」
「…期待じゃなく、彼自身の覚悟の問題だ。そのために最低限、教えてあげてもいいだろう」
「…ふう、やれやれ。全く、冷基はまだ子供だっていうのにーーー」
「”若ければ若いほど馴染む”ーーー。そう言っていたのはお前だろ、シキ。それにお前だって期待しているから、彼に自分の力を見せたんだろう?」
「…俺は汚名を晴らしたかっただけさ」
「まあ、それでもいいさ。冷基、とにかくな。お前は若く素質があり、男だからいい。どんな選択をしようとな。
だがな、女は基本的に男より血が薄いんだ。
お前が心当たりのあるその子と親しいのなら、止めてやってくれないか?」
「…なんで?」
「危険だからだ」
「……でも、依頼を受けたってことはさ。その”もう一人の依頼人”も、俺が昨日やったあれに成功してるんだよな?
あれって血が濃くないとそもそも成功しないんじゃねーの?」
「血は濃淡だけじゃなく、純度にも左右されるのさ」
「…じゅん度ーーー?」
「彼女は血こそ薄かったが、純度が非常に高かった。だから成功してしまった」
「”してしまった”?」
「血魂で命を落としかけた。一週間、生死の境を彷徨ったんだ。血魂の最中にそうして昏睡状態になると悪夢を見続けると聞く。後遺症もある。
ーーー今も相当に参っている筈だよ。知っている人なら声をかけてやるといい」
「……うん。まあ、俺が思ってるやつであってっかわかんねーけど」
ーーーガタンッーーー
「つーかよ。ーーー…なんか、あれだな?聞いてっと、お前らが依頼を受けて人を捜す…ってんじゃなく。依頼人に自給自足させる感じか?」
「まあ…そうだね。動ける人には動いてもらう」
「ふうん?ま、俺だっててめーの望みな訳だから、てめーが動くのは構わねーんだけどよ。噂とけっこー違えじゃんか」
「そこに関しては悪いな、俺のせいだ。今までは俺がその役目を担っていたんだが、春から晴れて医大生となったことで…その役を退いた。それからはほぼ、シキに任せきりでなーーー」
「そういうこと。でも、人間を戻すのには人間の手が必要なんだ。そこへ血の濃い君がきた。正直言って適任だ。
俺と千影としては依頼を受ける代わりに、是非とも千空の後継者になって欲しいーーーという所存さ。
まあ…そんなのはこれから次第、の話なんだけどね」
「…ふーん?もしかして”血魂”したのも俺とそいつだけ、とか?」
「それは違う。”素質”と”本人の意思”がある人には必ずーーーさせてもらっている」
「そうか、まあとりあえずわかったわ。俺が思ってる奴にその”忠告”?とやらはしておくよ」
「ああ、頼む」
「それで、俺は次は何すりゃいいの?」
「ああ、それはーーーーー…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガーーッ…カランカランッーーーー
「…ただいま~」
「おっそい!!昼までに帰ってこいって言ったでしょうが!」
「…っせえなあ。まだ12時半なんだから昼だろ~?」
「坊主ね!」
「なんっでだよ!!」
「ったく。清蔵くんとの釣りのどさくさに紛れて無断外泊してんじゃないわよ、この中二が!」
「ああん?」中二だから何じゃ!
ーーーートンッーーーー!
「うおっ、なんだこれ?」
「香典返しの品だよ。どうせお昼まだでしょ?あんた。これ上持って行って、一緒にご飯食べなさい。
あ、その前にヘッドスパの練習させてもらいな!」
「はあ?なんだそれ」
「あとそれいいとこのお菓子だろうから、ご飯食べたあと一緒に食べるといいわ」
「はあ?誰と?うるしきてんの?」
「そう、うるし母とランチなのよ!商店街の端っこの茶店で待たせてるから、あたしもう行くからね!」
「おい、聞けよババア!」
「あんなことがあって凹んでるんだから慰めてあげるのよ!じゃーね、行ってきます!あ、会計はいらないから、金とるんじゃないよ!あと電話番!必ず取るのよ電話は」予約とりこぼしたら剃りこみ!
「ババア、ひとりでしゃべるんじゃねえ!つーか電話は転送してけよっ」
「たまには富雄ちゃんを見習って店の手伝いをなさい!じゃ~ねぃ~!」
ガーーッ…カランカランッ―ーーーー
「じゃ~ねぃ~、じゃねえよっ。用ってランチかよ!しかもうるし母と!
…ったく、せっかく寄り道しねえで帰ってきたっつーのに」
ーーーーージャーーーーーー……
ガチャッーーーーー
「ーーーー…あ」
「おっ。ーーー誰かと思ったらお前かい」
「…トイレ借りてました。…おばさんは?もう行ったの?」
「行ったよ。…お前髪切りきてたん?」
「…違う。…けど、おばさんが”切ってあげる”って。…なんか”悪いもん落としときな”って。
……あんたの持ってるそれ、」
「ああ、これ?」
「そう。それ。”会葬御礼”…ってやつ。を、届けに来た」
「…?かいそー?」
「……香典のお返し、的な」
「…あー。お前が返して回ってんの?」
「あたしの知ってる人は…って感じ。…あとは、みんなで」
「なるほどなー」
ーーーーギッーーー…!
「…なに?」
「ヘッドスパしてく?ドライだけど」
「……おばさんが言ったの?」
「そう」
「…なら断る訳いかないわね」
ーーーーボスンッーーー
「んじゃそりゃぁ。上手いぜ?俺。ヘッドスパだけは!」
「……あんた、力だけは強いもんね」
「だけ言うな。それに力任せにやったら桃みてえにお前の頭パックリいくわ」
「…言い過ぎ(笑)」
「ハハハッ」
「…ふふふ、」
ーーーーグッーーーー、グッーーーー…!
「…あっ、痛い…」
「凝ってますな~、お嬢さん」
「…誰がお嬢ーーーー」
「なあ好香ぁ」
「ーーー…ん?」
「”屋敷”に行ったんお前?」
「ーーー……、…うん」
「まじか」
「…ん、あんたが来た夜にあたし、あそこから帰ったの」
「え、そうなの?てかお前俺が行ったん知ってたんか?」
「…あの屋敷の人は”今同じ学校の人がきてる”としか教えてくれなかったけど、うるがーーー…少し前に学校であの屋敷のことについて聞いて回ってたから、もしかしたらどっちかかもって」
「あーなるほどなー」
「…で、時間的に夜だし、自由に出歩いてるとなるともう冷基だな、って」
「誰が夜遊び小僧だ、コノヤロー」
ーーーグリグリーーーッ!
「…痛い、痛い…っ!あんたほんとに力やばいから痛いんだって…、脳みそが割れる…」
「血魂ってやつ、やった?」
「うん」
「どうだった?」
「……死ぬかと思った。…冷基は?」
「最中はしんどかったけど、もうよく覚えてねえな。俺、血が濃いらしくて、血が濃い奴はスムーズにいきやすいんだと」
「……さすが、馬鹿力なだけあるわね」
「関係ある?」
「多分…」
ーーーーグッ、グッーーーー!
「…ぃっ…たぁ~……」
「あいつらの言ってること、ほんとなんかな」
「…さあ、わかんない。けどーーー…。…それしか、できることがあたしにはないから」
「ーーーーー、」
「…言われた通りやるよ。…あの屋敷の人全員、超胡散臭いけど…」
「あー、それはそうだよな。…てか好香はさ」
「うん」
「美好の奴はほんとは死んでなんかいなくて、どっかで生きてると思ってるん?」
「……わかんない。………でも死に顔見れてないから実感はないよね」
「うん」
「…それに不審な点…みたいなのも、結構あったりするし」
「うん」
「……何よりーーーー」
「うん?」
「……彼、あのビルから飛び降りるかな?ってーーーーー」
「…そっか。そうだよなあ。俺もあいつが自殺するとは思えねえんだよなあ」
「ーーー……」
「お前をさ、止めてやってくれって屋敷の奴らに言われたんだ」
「…そう、なんだ」
「でも、止めても無駄そうだな?」
「……それは、”この件は冷基に任せておけ”ってこと?」
「さあ、でもそれでもいいんじゃね?」
「………」
「まあ俺はやれるだけやってみようと思う。美好とは結構昔からの仲だし。それにあれだ、どうせ俺はヒマだしさ」
「……それを言うならあたしもそう。…どうせ、ヒマ…。というか、……それ以外、なにもない」
「ーーーそっかあ」
「…うん」
「んじゃあ、まー、いっちょやってみっかあ。ーーーはい、完了!」
ーーーーギシッーーーー
「ーーーありがと………冷基、次いつ行くの?あの屋敷」
「一か月後。なんか血魂が完全に定着するまでにそれくらいかかるから、それまでは大人しく過ごせってさ。もしそれまでに何かあればまた来いっつってたな」
「…そっか、あたしも同じーーー。じゃあ、また…」
ーーースッーーー…
「好香、上で飯食おうぜ。母ちゃんがお前の分も作ってるみたい」で、そのあとこの菓子を食えと
「……いや、あたしはーーーー」
「”今”でいうと飯をたらふく食うことーーーらしいぜ?」
「……何それ?」
「”今俺…らがやるべきこと”?金髪野郎が言ってた」
「……ああ、あの胡散臭い外国人風マジシャン気取りね」
「てめーは相変わらず言いたい放題だな(笑)でもあいつマジ、胡散臭さやべえよな?」
「やばい。なまじ顔が綺麗なだけに、余計胡散臭さ倍増って感じ」
「猫目婆ちゃんもやばくね?」
「やばい」
「あの金髪野郎は猫が好きらしいぜ」
「え、キモイ」老婆趣味…?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーークシュンッ…!
「なんじゃ、風邪か?シキ」
「まさかーーー。噂でもされてるのかな?」
「カカカ、あの二人かのう」
「…ねえ千影、あの二人ーーー、どう見る?」
「うむ。男の方は血も濃いしドンとしとるから問題無さそうじゃが、女の方はちと、危ういのう」
「…だよね。俺正直、彼女が血魂に成功するとは思わなかったからさ。千影言ってたじゃない?”あんな生気のない奴も珍しい”と。
…血魂で苦しむタイプはその後も暫く心身に影響及ぼしやすいから、色々と病んでなきゃいいけど」
「…そりゃ時に既に遅し、じゃろうて」
「えーーー?」
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