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80歳の仕事探し。
私の父はおかげさまで健康で、体力もあり、80才という年齢だけども体の動く限りは働いて、人の役に立ちたいと考える人だ。
ある時、車の中で、電話の呼び出し音が小さいので、大きくしたい、と後ろの座席で妹とやり取りをしていた。
数日前に電話で清掃作業員募集に対する問い合わせをしたそうだ。まず年齢を聞かれて80歳と答えると、一度保留にされてなにやらごそごそと誰かと相談をしたような間の後、履歴書を送ってください、という話になったとのこと。そしてそろそろ先方から連絡が来るはずなのだそう。
「電話がきたら、すぐにでなくちゃ!気づかなかったら悪い。」
助手席に座っていた母は前を向いたまま、後ろの座席の父と、小競り合いを始めた。
「年寄なのに、何を期待しているんだか」
「年齢不問と書いてあったぞ!」
「ほかに応募があれば、若い人からとるでしょ、普通。何言ってんだか。期待したって無駄よ。」
「経験者優遇とも書いてあった!俺、経験者だし!」
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父は自営業で、仕出しの弁当屋を営んでいた。休みの日も一人店に出向いて整理整頓に掃除にと忙しくしていた。
客足は多かったが(おまけすることも多くて儲かりはしていなかった)、お店のあった場所が区画整理の対象となりほかの場所を探すも適当な物件が見つからず、やむなく店じまい。
体がなまってしまうと仕事を探し、公営のスポーツセンターの清掃の仕事を始めた。そこでも零細自営業のくせか、言われた仕事だけをするのではなく、気が付いたことは率先してどんどんやり、そうでない人からはたしなめられることもあったらしい。
掃除が嫌いな私は父に、調理師免許も経験もあるのに、関係のない掃除の仕事を選んで楽しいのか、体は大丈夫なのか聞いてみたことがある。
「きれいにした後は気持ちがいいし、ほんとに俺は早く、誰よりきれいにできるんだよ。『こんなにきれいにしてくれて、ありがとう。』って言われるし、ほんとに楽しいよ!どうやるのって聞かれることもあるから、教えてあげることもある。疲れるって思ったことはないね。みんなに喜んでもらえる。」
「掃除」は私にとっては面倒なことだが、父からすると気持ちがよい、喜ばれることなのだ。そしてそれが生きがいだと、言い切っていた。
しかし、その施設も改装のために、やむなくしばらくお休み。改装が終了したら、また戻れるかもしれないが、やはり時間がもったいないからと仕事を探しているそうだ。
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思えばその職場の応募の時も、電話でまず年齢を聞かれ、断られそうになったが、何とか面談に持ち込み、採用になったという経験がある。その時の担当者との会話を、面白可笑しく話して聞かせてくれたこともあった。
80歳の就活、今回がその時と同じようにうまくいくかはわからないが、きっと転んでもただでは起きないのだろう。また面白い話が聞けるかな、と少しわくわくしている。
こうした父の姿を見ていると、自分が持っているリソースにこだわらず、喜びを感じたら、それを偏見なく取り入れる生き方が、とてもうらやましく感じさえした。自分が何に喜びを感じて、どう役に立っているのかをまっすぐに語れるのも尊敬する。
【追記】
その後の話を書きました。
また読んでいただけるとうれしいです。
宜しくお願いします。